第16話

 佐久間は執拗に紅への攻撃を続けた。襲い来る土を、紅は風を使い払いのけ、土を使い防御し、水でそれを溶かした。炎で佐久間を襲うと、土で防御されたが、紅は土を使いそれを崩した。全能である紅と、土使いの佐久間の戦いは互角に見えた。


「佐久間さんが勝つってこと、あるんですかね?」

 今井が口を開いた。

「それは残念ながらない」

 篠崎は無表情で言ったが、佐久間が負けて、存在が消えてしまう事に淋しさを感じているのかもしれなった。

「そうですか。佐久間さんが人ではないことは会った時から分かっていましたが、まさかこんなことになるなんて予想もつかなかった。僕は刑事ですから、佐久間さんが死んでしまったら、事件として扱うことになります。紅の殺戮も、捜査は手詰まりで、佐久間さんまで被害者となると、僕にはもう手に負えない……」

 今井は意外にも佐久間が死ぬことを、それほど悲しむ様子もなかった。それより、人として、刑事としての任務に限界を感じているようだった。

「今井さん、あっさりしてるね。まあ、悪魔の運命さだめを理解しているということなんだろうね」

 高一郎に言われて、今井は佐久間が語ったことを思い返した。



 俺がいにしえの者として、自分の存在を認識してから五百年ほど経つ。人の感覚ではもはや、理解し難い事だろう。俺の精神は生き続けているが身体は人の一生を終えると亡骸となり、俺は生まれ変わる。不気味だろうよ。赤子の身体に俺がいるのだからな。子供らしさもない俺を、大人たちは気味悪がり、忌み嫌った。神童として祀られたこともあった。生まれ変わるたびに俺は学んだ。能力は隠し、普通に生きる方が楽なのだと。しかし、俺のような者が他にもいる事を知った。そして、それを縛る者が現れた。人に害をなす能力者を古の者と呼び、縛る者に支配された。それ以来、古の者による無意味な殺戮も治まったが、新たな古の者が生まれ、その数も増えていった。俺には分からなかった。なぜ、俺が古の者となったのか。そして、古の者はどうして生まれるのか。この能力は何のために備わったものなのか。縛る者から言われたのは、それは人の進化であり、増え続ける人々の淘汰なのだと。



 戦い続けている二人は、疲れた様子もなく、死闘というほど傷ついてもいなかった。お互いの防御力もあり、攻撃が効いていないようだった。そもそも、この戦いはなんのためなのか? 戦う必要があるのか? どちらも死なずに済む方法はないのか? 今井はそれを考えていたが、佐久間の語った言葉の中に、『それは人の進化であり、増え続ける人々の淘汰なのだ』とあった。これがその淘汰なのか? 古の者も強い者が勝ち、弱い者は淘汰されるのか?

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