第10話
次の朝、病院でも一人の焼死体が発見された。被害者は、工事現場で高一郎に投げ飛ばされて骨折し、入院していた男だった。
「あいつの目的はなんだ? 被害者が何かしたと言う事か?」
佐久間たちは病院に来ていた。六人部屋の窓際の一角。カーテンで仕切られてはいたが、同室の患者は気が付かなかったという。燃えていたのは人だけで、カーテンも天井も燃えてはいなかった。
「行くぞ」
「はい」
佐久間は同じ病院の集中治療室を訪れた。そこには夕べ工事現場で発見された、重症の怪我をした外国人がいた。
「まだ、話しは聞けそうもないな」
「そうですね。明らかに、複数人から暴行を受けていますね」
「焼死した被害者四人が、工事現場であの男性に暴行していたという目撃情報もある。中臣紅がそれを目撃していたとして、正義感から殺しをやったのか?」
「その線も考えられますね」
佐久間は人として、警察官として、この事件に向き合う事の難しさを知っていた。人の法で中臣紅を裁くことが出来たとして、古の者の存在は消えない。
「佐久間さん、どうやって彼女を検挙しますか?」
「現逮しかないが、夕べは兄貴に邪魔された」
「それなら、自白してもらいましょうか?」
「今のままじゃ、拘束もできない」
「また、会いに行きますか?」
「あら、あなたたち、懲りないのね?」
佐久間たちは、中臣紅の神のお告げの予約をして、再びやって来た。
「懲りないと言っても、ここへ来たのは二回目だ」
「そうね」
榊も黙って、紅の隣に立っている。
「今日は何の用かしら?」
「今日も事件についての事を聞きに来たんだ」
「そのようね」
佐久間と紅の問答が落ち着いたところで、佐久間が切り出した。
「夕べ、工事現場で焼死事件があった。知っているね?」
「ええ、今朝のテレビでニュースを見たわ」
「いいや、違う。夕べ、あの現場にあなたはいた。あなたが彼らを殺したんだね?」
「あたしは寝ていたから知らないわ」
「それなら、あなたのお兄さん、藤堂高一郎が殺したのかな?」
「違うわ! お兄ちゃんは関係ないわ!」
急に紅は声を荒らげた。佐久間はほころびを見つけた。紅は兄の事となると、感情を露わにしたのだ。
「紅様、落ち着いて下さい」
榊が声をかけ、佐久間たちに冷たい視線を送った。
「そろそろ、お時間ですので、お帰り下さい」
佐久間たちは紅の屋敷をあとにした。
「中臣紅は、知っていますね。神の御業と言いながら」
「ああ。古の者は何を考えているのか、紅に縛られているのか、もう少し彼らの力関係を知りたかったのだが……」
今の佐久間たちには打つ手がなかったが、これまでの調べによると、焼死事件の被害者全員に共通するのは、人を傷つけたと言う事だった。
「中臣紅を見張るぞ。次の犠牲者が出る前に止める」
「はい」
佐久間たちは、遠くから見張りを始めた。だが、佐久間は気付かれずに見張りが出来るか自信はなかった。相手も古の者であり、依り代の紅には天性の感が備わっていた。そして、彼の存在も……。
「悪魔は紅のストーカーまで始めたのかな?」
気配を感じた時には、もうすでに、背後を取られていた。
「神出鬼没だな」
「僕の妹に手出しはさせない」
「なぜ、そこまで紅を庇うのだ?」
「僕にとって紅は可愛い妹だ。それが理由じゃいけないのかな?」
高一郎は、笑みを湛えながら言った。
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