第7話 真夏の冒険2

 電話の着信音というのはなぜこんなに不快で不安になるような音階のものばかりなんだろう。鳴るたびに心臓飛び出そうになる。そう、今みたいに寝起き時は特に。

「はい……」

『駿河ですが』

「うん……」

『メッセージ送っても返ってこないから電話しました。その感じの声だと、寝てましたね?』

「うー……うん。ごめん」

『もう夕方ですよ。晩ご飯も出来ました』

「ありがと、今行くー」

 寝起き眼のまま、駿河の部屋へ入れてもらうと、良い匂いがする。目がじわじわと覚め始める。

「なんだこれ!」

 想像していた中華麺の姿をしていなかった。パッと見て、白菜や短冊切りのにんじんとかが餡に包まれていたから八宝菜かと思った。よく見たら、下に中華麺の塊がいる。

「中華麺を揚げ焼きにして、あんかけ焼きそばにしてみました」

「お店みたいだな。いただきまーす!」

 箸で麺を切って、柔らかく煮込まれた具材と一緒に食べる。

「うまー!」

「我ながらこれはうまく作れましたね」

 駿河も食べ進める。餡でまったりとした口の中を麦茶でリセットする。二食連続で麺を食べても幸せな気分だ。

「あの」

「ん?」

「やっぱり花火見に行きますか」

 想像もしてなかった言葉。なかなか理解できず咀嚼を続けた。理解と同時に飲み込む。駿河は麦茶を飲みきり、コップを置く。

「せっかく二人とも休みですし、どうでしょうか」

「いいぞ、行こうぜ」

 どういう風の吹き回しなのか、心変わりなのかよくわかんねぇけど。嬉しい。

「そう言っていただけてよかったです!」

 駿河はやや興奮した声で言いながら、スマホの画面をワタシに見せる。画面にはこの辺の地図が表示されていた。

「調べたら、僕らの家からでは見えないので、駅の反対側にある、石川の河川敷まで歩かないといけないようです」

「そうなのか、了解。じゃあ、食べたら部屋一旦戻って用意してくるわ」

 

 部屋に戻ると部屋着を脱ぎ捨て、Tシャツとデニムに着替える。裸足だった足には靴下を履く。鍵、財布、スマホだけショルダーバッグに入れ、家を出ると、駿河はもう扉の前で待ってくれていた。

「スニーカー、たくさん履いてくれて嬉しいです」

 駿河はピンクのスニーカーに視線を落としながら言う。

「歩きやすいし、蛍光色だから夜道でも映えるしな」

「やっぱり似合ってますよ」

「ありがと」

 いつもいじってくるくせに、突然褒めてこられると照れてしまう。話題を変えよう。

「そういや駅の反対側には行ったことがあまりないな」

「僕も用事がない限りは行かないですね」

「花火見れるといいなぁ」

「あるのはネットのクチコミ情報だけですからね。確実に見えるとはまだ言い切れないので少し心配ですが」

「見れなかったときは、コンビニでアイスでも買って帰ろうぜ」

「そうしますか」

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