第34話 リュシアとのデート 忍び寄る影 前編

さて、今日はリュシアとデートの日である。


つい先日カラミティ・ドラゴンをリュシアが頑張って倒した事へのご褒美という奴だ。


俺としてはリュシアに美味しい食事や可愛い服、何かおもちゃでも買ってやろうと思っての約束だったのが、なぜかリュシアが俺とのチューをリクエストしてきたのである。


やれやれ、どうしてそうなったのやら。


さすがにチューについては撤回させたのだが、再度リュシアから俺との一日デート権が強く希望されたのである。


俺としては、もっと別の内容の方が良いのではないかと改めて勧めたのだが、リュシアは泣きそうな顔で首を横に振ったのであった。


そんな訳で俺にはそれ以上とても断ることなど出来ず、こうしてリュシアと一日、デートをすることになったのである。


うーん、俺なんかとデートしても、リュシアが楽しいとは思えないんだがなぁ。


だが、そんな俺の思いとは裏腹に、リュシアは朝から俺にベッタリであり、ずっとニコニコと微笑んでいるのであった。


まるで自分が世界で一番幸せだとでも言うような表情で、見ているこちらまで嬉しくなるほどの明るい笑顔である。


そこまで喜ぶ理由は分からないが、ともかく彼女がこれほど幸せそうなら良しとするか・・・。


「ううー、リュシアちゃん羨ましい・・・。またカラミティ・ドラゴン出てこないかな。今度は私の手加減なしの魔法で地形ごと葬り去るのに・・・」


「シーも今度は水の精霊の頂点として神威を示す覚悟だよ~」


何だか怖い事言ってるな。


何が彼女たちをそこまでやる気にさせるのだろう?


「まぁ、ともかく行って来る。夕方には帰って来るから、留守番よろしくな?」


俺の言葉にエリンとシーが「はーい」と、やけに素直に頷いた。


それを確認し、俺とリュシアはデートに出発したのである。


俺たちはとりあえず歩いて目抜き通りまでやって来た。


「昼までは大分時間があるな。どこか行きたいところはあるか?」


俺がそう聞くとリュシアは、


「ご主人様と一緒なら私はどこでも幸せです」


と頬を染め、少し俯(うつむ)きながら答えてくるのであった。


うーん、俺といれるだけで嬉しいのは良いのだが、その回答は、実はなかなか男にとってハードルが高いんだがなぁ。


俺がそんな風に困っていると、


「ちっ」


という舌打ちが聞こえて来た。


どうやらすれ違った男が、嫉妬からつい舌打ちをしてしまったらしい。


まぁ、仕方あるまい。


うちのリュシアは凄まじく可愛いからな。


元から絶世の美少女だったが、今日なぞは先日の買い物で購入した純白のフリル付きのブラウスを身に着けているため、しなやかな体に長い艶やかな栗色の髪が映えていて幻想的なレベルになっている。


そんな少女が俺の腕に取りすがって、うっとりとした表情を浮かべて隣を歩いているのだ。


すれ違う男どもが思わず嫉妬し、この世の不条理さを呪う気持ちも分かる。


やれやれ、とはいえ勘違いなんだがな。


確かにこれほどの美少女に多少懐かれているのは本当だが、付き合っている訳ではないのだ。


まったく、勘違いからの嫉妬など、よして欲しいものだ。


「ん~、それじゃあプラプラとショッピングと行くか。露天街のアクセサリーでも見に行こう。気に入るのがあったらプレゼントするから、遠慮なく言うんだぞ?」


「えっ。でもそれだと沢山お金がかかってしまうんじゃ・・・」


「気にするな。それくらいの余裕はある。それにリュシアは可愛いんだから、色々とオシャレをしたほうが良いぞ? 俺もどんどんリュシアには可愛くなってもらいたいからな」

俺がそう言うと、リュシアは、


「はううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~」


と言って、俺の腕に真っ赤な顔を埋めてしまうのであった。


やれやれ、一体どうしたっていうんだ?


やけに耳と尻尾をパタパタとさせているようだが・・・。


と、そんな風に首を傾げていると周りから、


「ちぃ!」


「くそ、見せつけてんじゃねーぞ・・・」


「世の中理不尽すぎる・・・」


またしても、そんな声が聞こえてくるのであった。


うーん、一体どういうことだろう?


ともかく俺はぴったりとくっついてくるリュシアを連れて露天の並ぶ東地区へと進んだのである。


そこはまだ昼前にも関わらず人通りでごった返していた。


異国風の恰好をした商人や明らかに堅気では無い者、野菜を売る農家、古物商など、様々な人種が集まっている。


俺たちはそんな雑多な露天を冷やかしながら、アクセサリーの店などがあれば足をとめて物色するのであった。


「ご主人様・・・これでしたらお値段もお安くて良いかと思います」


そう言ってリュシアが、控えめな様子で俺にペンダントを見せてくる。


それは少しくすんだルビーのような赤い宝石が嵌(は)め込まれた細工物(さいくもの)であった。


だが俺は、うーん、と首を傾げる。


今日はせっかくリュシアが俺を慕(した)って誘って来てくれたデートだ。言わば、俺のポジションは彼氏、リュシアは彼女のようなものである。


そう考えた時、そのペンダントはどうにも安っぽい感じがした。そこらの多少美人な女程度ならば、それで十分なのだろうが、俺の彼女のリュシアは超絶美少女なのだ。


その宝石が逆にみすぼらしく映るに違いなかった。


まったく、普通の美人程度ならばこんな苦労をすることもないのだがなぁ。


だが、何せ俺を慕うリュシアは、美しい容姿に長く伸びた栗色の髪、しなやかでほっそりとした体を持つ、ある種幻想的とも言える美少女なのだ。


彼氏の俺としては、その美しさに見合った宝石(もの)を身に付けさせてやらざるを得ないのだ。


何せ、そうでないとリュシアの可愛さに負けて、宝石自体がただの石ころにしか見えなくなってしまうんだからなぁ。


まったく、彼女がこれほど美人だと困ってしまうぞ。


やれやれ、それにしても先ほどから、やはりチラチラと周りの男どもの嫉妬の視線がこちらに刺さるが、止めてほしいものだ。


お前たちが思ってるより、美少女とデートするというのは大変なものなんだから。


まったく、独り身の奴らが気楽で羨ましい。


こんな苦労を味合わなくても良いんだからなぁ。


まぁ何より、


「それよりも、ほら、こっちにしておけ」


俺はそう言って、そのアクセサリー青いペンダントを手に取って渡してやる。


そう俺はリュシアが先ほどからチラリと、とある宝石に目をやったことに気付いていたのである。


50万ギエルとあったから遠慮したのだろう。


「そ、そんな!? い、いけません、ご主人様!! こ、こんな高価なもの買って頂く訳には・・・。そ、それに私には似合いません。もったいないです!」


そう言って慌ててリュシアは辞退しようとする。


だが、俺は冷静に首を横に振ると、


「遠慮するな。今、リュシアは俺の彼女なんだろう? なら、ちゃんとリュシアに見合うレベルの宝石を身に着けてもらわないと俺が恥をかく」


そう言って、強引にアクセサリーを首に付けてやるのであった。


「ご、ごごごごごごご主人様の彼女!? はわわわわわわわわ!??!?!?」


リュシアは俺の言葉に真っ赤になりながら、目を白黒させて驚く。


おっと、ちょっと調子に乗りすぎたかな?


「すまん、すまん。やはり嫌だったか・・・」


「嫌な訳ありません! はい、そうです! 今日、リュシアはご主人様の彼女です!! とっくの昔から売約済みですから!!!」


そう気弱なリュシアにしては珍しく、大きな声で宣言するのであった。


そうしてうっとりとした表情でペンダントを手に取って眺める。


おいおい、声が大きいぞ?


あと、売約済みってどういう意味だ?


と、そんな風に俺が首を傾げていると、なぜか周りの男たちから、


「くそっ、いちゃいちゃしてんじゃねーぞ・・・」


「羨ましすぎる・・・」


「俺もあんな美少女と付き合ってみたい・・・」


などと言う声が聞こえて来るのであった。


ふうむ、別にいちゃついているつもりはなかったんだがな。


俺としては自然にしているつもりだったのが・・・。


何はともあれ、少し長居しすぎたかもしれない。


そろそろ昼だし、移動するとするか。


俺は宝石の代金を支払ってから、


「よし、そろそろ昼食にしようか。リュシアは何が食べたい?」


と聞いたのである。


するとリュシアは、


「・・・ご主人様の連れて行って下さる所でしたら、どこでも良いです」


と言って、潤んだ表情で俺の腕にもたれ掛かるようにするのであった。


やれやれ、その答えが一番困るんだがな。


だが、俺がそんな風に悩んでいると、


「俺もあんなこと言われてみてえ・・・」


「世界の不公平さをこんなに呪ったのは始めてだ・・・」


「ちくしょう、世の中どうなってんだ」


と、そんな声が聞こえて来たのであった。


ただ、それに加えて、


「私も・・・様に彼女だって言われたいなぁ・・・」


「わたしも~、いいないいな~」


と言う声も聞こえて来たのだった。


うーん、何だか聞き覚えのある声なのだが・・・・・・・・・ま、いいか。


今はリュシアとの大事なデート中だからな。


そんな訳で俺は周りから、なぜか聞こえて来る「ちっ」「くそっ」とか言う声に見送られながら、レストランのある方へと足を向けたのだった。

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