自宅で暗殺者飼ってる。―おかわり!―

植原翠/授賞&重版

序章.海外でも絶賛されてる。

 東ヨーロッパに位置する、スイリベールという国がある。

 この国の王女の部屋で、召使いが櫛を手に問う。


「二十年ほど前の、王朝での反乱事件はご存知ですね」


 アイボリーの壁を飾る美しい絵画、絢爛豪華な家具、部屋を彩る調度品。鏡に映るのは、銀色の長い髪と、海のような真っ青な瞳。十三歳の若き王女は、鏡の中の自身を見つめてこたえた。


「ええ。歴史のお勉強で習いました」


「その際に反乱軍をおさめてくれたのが、日本人でした」


 それ故にスイリベールは、かねてからの親日国家なのである。

 召使いは丁寧に、王女の銀色の髪を櫛でといた。


「ですから王女様。今回もきっと、日本は我々に手を貸してくれることでしょう」


 *


 それと同刻頃。

 スイリベールの首都、カクートシの路地裏。

 雨上がりの湿った空気の中、打ち捨てられた木箱の上に座る、銀色の髪の少年がいた。彼の元へやってきた、依頼人の男が問う。


「知ってるか、二十年っくらい前の、王朝での反乱事件」


 苔の生えた外壁に伝う蔦、壊れた木箱、道に散らばるゴミ。水溜りに映るのは、銀色の短い髪と、夕焼けのような真っ赤な瞳。十三歳の若き浮浪者は、水溜りの中の自身を見つめてこたえた。


「もちろん知ってるよ」


 燃えるような赤い瞳が、ニヤリと笑む。


「反乱軍のカシラを討ち取ったのは、日本の暗殺者なんだよね」


「よく知ってるじゃねえか」


 依頼人が感心すると、赤い目の少年は上機嫌にしたり顔をした。


「まあね。僕はこれでも、日本語ペラペラなんだ。なにせあのミスター右崎から直々にレクチャーを受けたから」


「そうか。そいつは心強いな。あの暗殺大国日本の、国家公認エージェントの手ほどきを受けたとは」

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