回想列車

簪ぴあの

第1話 読書感想文

 仮にも、カクヨムで文章を書いている人間が、何を言うかとお叱りをうけるだろうが、私は文章を書くことが苦手である。その原因になってしまったのが、読書感想文なのである。小学校の中学年のころから、高校三年生まで、長きにわたり、読書感想文には悩まされたものだ。誰が何のために考えたのかは知らないが、本を読んで、ああ、面白かった、楽しかったで終ることは許されないようだ。

 小学生の時の読書感想文ときたら、○○が△△をしました、だから✕✕だと思いました……そんな調子で、延々と書いていた。書きかけの読書感想文が、運悪く、母親の目にとまり、これでは駄目でしょと、原稿用紙に書いたものを、母親に消しゴムで消されてからというもの、私は読書感想文のみならず、作文が嫌いになった。

 書くことが嫌いになったにもかかわらず、中学生のころから、小説もどきを書いたりしていたのだから、笑ってしまう。おそらく、長年習っていたピアノのレッスンをやめたことによる心のモヤモヤが原因だろう。日記をつけるなど柄に合わないし、自分でない誰かを主人公にして、自分の言いたいことを作品の中で言わせていたのかもしれない。

 中学校三年生の時の国語の先生は少々変わり者だった。何をちまよったか、今、書ける物を書いて、それを卒業論文にしようと言い出した。表現方法は何でもよいということだった。大多数の生徒は三年間の思い出をテーマにした作文だったが、漫画を書いた生徒がいた。確か、朝、目が覚めると幼児になっていた!というストーリーだった。発想が面白いと、先生に褒められていたその生徒に対抗心が芽ばえたのか、私はごく短い物語を書いた。悩める中学生達の会話だけの作品だったが、地域の中学生の作文を集めた文集に載せてもらった。

「小説家になったらどうか?」

と、国語の先生に声をかけてもらったが、何と言っても、生意気な年頃だ。ふてぶてしい態度をとっていたと思う。ただ、その一言が、その後、何年も私の意識の底に眠っており、あるきっかけでカクヨムのことを知って、書いてみようと思えたのだと、今更ながら感謝をしている。

 話しを読書感想文にもどそう。誰かが読書感想文の書き方を教えてくれたわけでもなく、四苦八苦しながら、毎年、読書感想文を書き続けているうちに、自分自身の経験と本のストーリーをからめて書けばいいと気づき、初めて読書感想文を褒められたのは、高校三年生の時に書いた、人生最後の読書感想文だった。

 最近、話題のものを使えば、読書感想文など、何の苦もなく書けてしまうのだろうが、今、私は、読書感想文ごときにすったもんだした歳月を愛おしく思う。

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