03:愉快なご友人
新たなる決意を胸に
『ステラ嬢、好きです。ずっと、好きでした』
レオンハルト様の告白を受けた帰り道。
とても幸せな気持ちで、彼が手配してくださった馬車に揺られていた。余韻に浸りたくて、ドレスもネックレスもそのままに、馬車の窓に映り込む綺麗な私を眺めては身体の中にある熱に気恥ずかしくなって……。とにかく、そうやって今日の出来事を振り返っていたの。
次のお約束もしたわ。
次は、1週間後に初めてお会いした広場に集合する予定。今からとても楽しみ。
今までは、惨めになるから外に出ることが嫌いだったのに。今は真逆に、外の新鮮な空気を吸うことがしたくてたまらない。
「この辺です。送ってくださりありがとうございます」
「途中ですが、大丈夫ですか?」
「ええ。家の者に出かける話をせずに出てきたので、その……」
「なるほど。承知しましたが、貴女様がお屋敷の門をくぐるまではここで待機させていただきますね」
「あ、ありがとうございます。あの、できれば裏門の方へ付けていただきたく」
「承知しました。では、ここを曲がります。もう少々お待ちください」
「すみません」
それでも、お屋敷に近づく度気持ちは冷静になっていく。
こんな豪華な馬車で門に乗り入れたら、目立ってしまうわ。それは、いくらみんなが私を透明人間扱いしてるからと言っても良くない行動だと思う。そこは浮かれていてもしっかりしないと。
裏門なら、本邸を通らずに別棟に行ける。別棟に着いたら、すぐにサラシを巻いて何食わぬ顔して自分の服のお洗濯でもしましょうか。
私は浮かれきった自身に鞭を打つよう、御者さんとの連絡ができる通風孔を開き話しかけた。すると、すぐに返事がくる。
この御者さん、とてもお優しいのよ。うちで使っている御者さんは無愛想だけど、この方は乗り降りのお手伝いをしてくれるし、挨拶も返してくれるし、私の存在を見てくれてるって感じがすごくする。今日の私は、透明人間じゃないって実感できるの。
「ここで良いです。ありがとうございます」
「お荷物のお忘れ物はありませんか? 一旦確認させてください」
「お願いします、すみません」
「……ないですね。まあ、あってもレオンハルト坊ちゃんが喜ぶので良いとは思いますが」
「え?」
「おっと、おっしゃっていませんでしたね。この馬車は、オルフェーブル侯爵様専用のものです。私は、侯爵様に仕える御者のマークと申します。坊ちゃんからお話はお伺いしておりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
「え、あ……。こ、侯爵?」
「おや、お聞きになっておりませんでしたか?」
「そ、あえ、えっと……」
嘘でしょ!? え、レオンハルト様って、侯爵様のご子息なの!?
いえ、聞いた気もする。なんか、言ってらした気も……。待って、あの時の私はどれだけ浮いていたの!? 全然記憶にない。
そんなすごい方なのに、どうして私なのかしら。納得はしたものの、ますます謎だわ……。
急な情報に驚愕していると、それを見たマーク御者様が微笑んでこちらを見てくる。それが、少しだけ恥ずかしい。
「坊ちゃんは、本当にステラ様がお好きなようです。私も、貴女様になら安心して坊ちゃんをお任せできます」
「……でも、私は」
「私は老ぼれですが、坊ちゃんを小さい頃から見てきています。まだまだ目は衰えてませんぞ」
「……ありがとうございます」
マーク御者様は、そう言って頭を撫でてくださった。この方も、レオンハルト様と同じだわ。とても温かいもの。
なんだか、ウジウジしていたらこの方達に申し訳なくなってきたわ。そうよ、このお屋敷を出た時の私じゃない。今は、彼が居る。私を好いてくれる、彼が。
それが、不安定な心を支えてくれている。変わらなきゃ、彼に相応しい人物に。
私は、何度もお辞儀をして裏門へと向かった。
このドレスは、大切に保管しましょう。ネックレスは、ポケットに入れて持ち歩いても良いかしら。肌身離さずに、お守りとして。
「よし、がんばるぞ」
ちょうど1年前から止まっていた私の時間が動き始めた……そんな気がした。
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