10.何かに頑張れる人


「他の三人は魔法適性を調べたい。まずは魔力を可視化させられるようにやってみろ」


 バーグさんの指導の元、私達はまず、自分の魔力を手のひらに集めることから始めた。


 …………あ、ちなみにハヤトは体力作りをしている。

 訓練場10周を言われてて、その表情はすっごく嫌そうだった。でも文句は言えないから、今頑張って私達の周りを走っている。


 ということで、話を戻そう。


 私達は魔法を習うことになったんだけど、教官は変わらずにバーグさんのまま。

 魔法の教官は明日から来るみたいで、今日はバーグさんが四人全員を見てくれるらしい。


 ──でも、バーグさんが魔法を教えられるのかな?


 そう思ったけれど、その心配は杞憂だったみたい。


 実はこのバーグさん。高身長と重そうな鎧と、背中に担いでいる大剣という、どこからどう見ても脳筋そうな見た目をしているのに、魔法も少しくらいなら使えるみたい。

 魔法を取得した理由は、自身の肉体強化をするため。

 属性系の技ばかりに注目される魔法だけど、筋力とか視覚とか、そういった自身に付与する強化系の魔法もある。


 つまり────


「人の身体能力には限界があるから、魔法を覚えて自分を強化すればもっと強くなれるよね」ってバーグさんは考えたみたい。


 ……………………うん。やっぱり脳筋だった。


 でも、そういう考えを持つ人が強くなるんだろうなぁ……って思う。

 実際バーグさんは王国騎士団長としての地位を持っているわけだし、騎士は剣を振るから騎士なんだっていう偏った意見だけじゃなくて、色々な意見を取り入れることで人は強くなれるんだ。


「胸に手を置いて集中してみろ。そこにある熱を感じるか? それが魔力だ。まずはそれを掴めるようになれ。その次に、その熱を全身に巡らせるんだ。これが『魔力を循環させる』ということだ」


 ミカとユウナは、ちょっと苦戦しているみたい。

 二人が住んでいた世界に魔力は無かったみたいで、魔力を感じることに慣れていないみたい。


 かく言う私は、すぐに魔力を手のひらに出せた。

 魔力は何度も使ってきたし、そもそも吸血鬼は体のほとんどに魔力を宿している。わざわざ胸に手を当てなくても、魔力を感じることは寝ることの次に簡単だ。


 それもあって、バーグさんは苦戦している二人に付きっきりだ。


 私は、待機。

 やることがないから、魔力を手に出したままぼーっとしてる。

「魔力量を調べたいから、そのまま魔力を出し続けていろ」って言われたけれど、私の魔力はほぼ無限みたいなものだから、魔力を出し続けるだけなら多分、一週間以上はいけると思う


 …………やらないけどね?

 そんなのに集中するくらいなら、睡眠を優先するもん。




「素晴らしい魔力ですね」

「………………ん、フィル先生?」


 いつの間にか、観戦席にいたはずの先生が近くまで来ていた。


「紅の魔力。ここまで鮮やかな色は初めて見ました。……レア様は素晴らしい才能をお持ちのようですね」

「……そうなの?」

「ええ。淀みがなく、暴走する危うさもない。こうして話している間も一切、形が崩れない安定さもある。高名な魔法使いでも、最初から出来ることではありません」


 へぇー、そうなんだ。

 でも確かに、ミカとユウナみたいなのが普通なのかも。


 私は生まれた時から魔力を感じていた。

 さっきも言ったけれど、吸血鬼の体には常に魔力が循環している。それを感じるのは簡単だし、今まで何度もそれで力を使ってきた。


 だから、これは才能なんかじゃない。

 私にとって当たり前のことを、人間に褒められているだけだ。


「フィル先生。これに何の意味があるの?」


 バーグさんは、適性を調べるためって言った。

 魔力を見れば分かるみたいだけど……こんなことで分かるものなのかな?


「普通、魔力を可視化させれば属性が分かるのです。……このように」


 フィル先生の手の上に、赤色と水色の魔力が渦巻く。


「私の魔力は火と水。二つの属性に適しています。これで分かると思いますが、その人が出す魔力の色で適性を判断することができます」

「……二つ? 適性って、何個もあるの?」

「基本的には一つだけですが、稀に複数の適性を持つ魔法使いが生まれます。そういった者は魔法使いの適性が特に高く、将来は高名な魔法使いとして名を馳せると言われています。…………自分で言うのは恥ずかしいですが」


 私達の街にも、魔法を使える人は何人かいる。

 結界作りに協力してくれたミルドさん、トロネさん、ムッシュさん。この三人は特に魔法が得意だったけれど、一つの属性しか使えなかった。


 だから適性は一つだけだと勝手に思っていたけれど、稀にそういうこともあるんだね。


「フィル先生、凄い」

「え? い、いえ……私は、ただ……運が良かっただけですから」

「ううん。それは違うよ」


 一つを使いこなすだけでも、人はあんなに苦労してる。

 それが二つなんだ。当然覚えることは増えるし、一つの体に二つの力があって、それを使いこなすのは凄く難しいことだと思う。


 フィル先生が見せてくれた魔力は安定していたし、異なる二つの属性が自然と混ざり合っていた。


 きっと、沢山練習したんだろうな。

 そうじゃなきゃ、あんなに綺麗な魔力にならないと思うから。


 何かに一生懸命になれる人は、みんな凄い。


 だから、


「だから、先生は凄いんだよ」

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ある日、惰眠を貪っていたら一族から追放されて森に捨てられました〜そのまま寝てたら周りが勝手に魔物の街を作ってたけど、私は気にせず今日も眠ります〜 白波ハクア @siranami-siro

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