15.バイバイ
夢を見ていた。
私が眠っていて、その隣にパパが座っている。
私は全く動かない。
たまに起きてもパパとちょっとだけ話すだけで、パパも私が寝ている間は何も言わない。
私が起きた時は、私が退屈しないように面白い話を言ってくれて、すぐに眠くなっちゃう私はパパにおやすみのキスをして夢の中に行く。パパはそんな私を静かに見守ってくれた。
──そんな夢だ。
それが、いつもの光景だった。
私のわがままに怒らず、反対もしないパパは、いつも私を甘やかして、すごく大切に育ててくれた。
今思えば、パパはもっと私と話したかったんじゃないのかな。
そうじゃなきゃ、急に手紙を書こうって提案してこないと思うから……。
でも、それも結局、私から返すことは少なかったな。全部含めて片手で数えられるくらい?
それに対して、パパは毎日私に手紙を書いてくれた。
どんなに忙しい時も、どんなに疲れている時も。
私が目覚めている間だけでも、楽しい思い出になれるように、って……パパはいつも私のために頑張ってくれていた。
ある時、パパからの手紙が届かなくなった。
直前の手紙の内容は、まだ覚えている。
どこか遠くに行かなきゃいけないから、しばらくは帰ってこれない。寂しい思いをさせる。でも、信頼できる侍女に頼んでおいたから、どうか自分が帰ってくるまで待っていてほしい。
それから私は、一度もパパと会っていない。
今思えば、その時にはもう……パパは死んじゃってたんだ。
だから私に会いに来てくれなかったし、お爺ちゃんは『自分が一番偉いんだ』とか調子に乗って屋敷を乗っ取ったんだ。
私の追放が決まった時にはもう、パパは死んでいた。
反対意見が出るわけない。唯一反対してくれるパパは居ないんだし、侍女が新しい領主に口答えできるわけがない。
…………でも、不思議だな。
パパの物だった屋敷を乗っ取ったお爺ちゃんに、なんの感情も持てない。
その時のことを思い出しても「うるさいお爺ちゃんだったなぁ」って感想くらいしか出てこないし、理不尽に追い出されたことに対して、怒りとか憎しみとか、そういう負の感情は全く抱かなかった。
パパを失ったことは悲しい。
もう二度と会えないんだって思ったら、すごく寂しい。
あまり会話はしなかった。
家族らしいことも、してこなかった。
でも、私はパパが大好きだった。
ずっと優しくしてくれた、ただ一人の家族。
亡くなったママの分まで愛情を注いでくれた、パパ。
『クレア。人はいつか死ぬ。それは寂しいことだ。親しかった人ほど、別れは辛いものだ。……でも、いつか必ずそれは訪れる。生きていれば一度は別れを経験することだろう。だから、もしその時が来ても、クレア』
──君は自分の道を歩みなさい。
………。
……………………。
………………………………。
……うん。
わかったよ、パパ。
私はもう、パパから色々なものをいっぱい貰った。
大好きな家族との別れは悲しい、寂しい、辛い。
……でも、いつまでも落ち込んでいるのは……私らしくないと思う。
それに私がいつまでもこうだと、パパも……悲しいよね?
だからパパの望み通り、私は自分のために生きる。
好きなだけ眠って、好きなだけぐーたらして、パパも呆れるわがままな子になっちゃうもん。
そうなった時、私は悪くない。パパが悪いんだ。
私を置いて遠くに行っちゃったパパが悪いんだ。
そんな悪い人には、仕返しをしなきゃ。
帰りが遅くなっちゃった悪い人の居場所はもう無いよ……って。
新しく作った私の街で、悪いパパはもう入れないよ……って。
そう言ってやるんだ。
そのために、今はみんなが頑張ってくれているの。
私なんかを大好きって言ってくれたみんなが、一緒にいる。
だから、だからね……?
もうパパ無しでも大丈夫なんだって、そう言えるための場所を作るよ。
もう私は、私の居場所があるからって……そう胸を張って行ける場所を、作るから……。
今だけ、今だけでいい。
夢から覚めたら、いつもの私に戻るから。
みんなに「心配かけてごめんなさい」って謝るから。
この夢の中だけは、パパとのお別れを……悲しませて…………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます