3.来訪者
次の日からクロは、血の契約について詳しく調べるようになった。
今のところ分かっているのは、3つ。
契約した魔物はすごく強くなる。
魔物と線が繋がって、私は契約した魔物の感情を知ることができる。
そして新しく発覚した──契約の成長。
多分、まだまだ判明していないことは沢山ある。
それを知ることができたら、みんながもっともっと強くなれるかもしれない。
そしたら怪我もしなくなる。
もし怪我をしてもすぐに治るけれど、それは治るだけで怪我した時は痛い。だから、強くなれば怪我もしなくなる。
……あの時、クロが人間に与えられた痛みと苦しみ。
私は今でもそれを覚えている。
二度と聞きたくない悲痛なものだった。
二度と経験させたくない嫌なものだった。
だから、少しでもみんなが強くなれるなら、私は頑張って協力する。
みんなは私のために頑張ってくれている。そんな私がみんなに返せるのは、契約して力を与えることだけだから。
今も沢山の魔物が私との契約を望んでいる。
でも、契約はタダじゃない。
吸血鬼にとって血液はとても大切なもので、それを分け与えるからすごく疲れる。
私はいつも十人で疲れちゃって、それ以上頑張るのは難しい。みんなは私の睡眠が最優先だと考えてくれているから、契約できた魔物も、契約できなかった魔物も、笑顔で「おやすみなさい」って言ってくれるのが嬉しかった。
そういうこともあって、最近は起きて魔物との契約をして、疲れたら眠って、一ヶ月くらいしたらまた起きて契約を……っていう生活ばかりしている。
そのせいでブラッドフェンリルの四匹と話せていないのが寂しい。
せっかく好きになった散歩も行けていない。
やりたいことは多い。
だからって魔物との契約を後回しにもできない。
………………難しい。
「──受け入れて」
今日も魔物に血を与える。
目の前で魔物が黒くなって、見えない線が繋がったような感触がする。
最初は驚いていたけれど、流石にもう慣れた。
「アりがとウござイます、クレア様!」
「……ん、これからもみんなのために、頑張ってね?」
「はイッ!」
魔物は元気な返事をしてくれた。
急な大声に少しびっくりしたけれど、やる気があるのは良いことだから、この程度じゃ怒らない。…………だからクロ。静かに殺気を放つのはやめてあげて。
『これで十体目だ。今日はこのくらいにしておくか?』
「ん、もう……?」
もう半分流れ作業みたいになっていたから、数字なんて数えていなかった。
今日はまだまだ大丈夫みたい。
…………だけど、
「今日は、これで終わりにする」
無理は絶対にダメだっていつも言われているから、今日は終わり。
『了解した。どうする? 今日はもう休むか?』
「そうする……あ、でも……久しぶりにお外も行きたい」
『そうか。ならば久しぶりに散歩へ行こうか? 今日はシュリ達も予定が空いているからな。みんなでいつもの場所に行こう』
「ん、行く」
頷いた瞬間、私の部屋にブラッドフェンリルが集合した。
『い、今……姫様と散歩に行くって……!』
『クレアちゃんと散歩に行けるの!? 行くわ!』
『クレア様の行くところが、俺達の行くところだ』
「…………みんな、早いよ?」
ラルクは元から居たからいいとして、シュリとロームは違うところに居たよね……?
珍しく息切れしているし、どれだけ急いで来たんだろう?
『いつも散歩はクロばっかりだったじゃない! ズルいのよこいつは!』
『ズルくない』
『俺たちがどれだけ我慢したと思ってんだクロ!』
『知らん』
『何度、この三匹で闇討ちしようかと本気で考えていたところだ』
『待て。そんなことを考えていたのか!?』
みんな、何も言わなかっただけで本当は一緒に行きたかったんだ……。
それを察してあげられなかったのは、申し訳なく思う。今度からはクロだけじゃなくて、行けるもの全員で行くことにしよう。
『さぁクレアちゃん! 私の背中に乗って!』
「…………ん、お願いします」
『任せなさい! 私がいる限り、クレアちゃんの安全は絶対だからね!』
「ん、期待してる」
シュリの背中に乗って、部屋を出る。
いつもはクロの背中に乗って移動していたから、少しだけ違う背中を堪能しながら街はずれの丘に行こうとした時、
『──シュリ、止まれ』
先行していたクロからストップが掛かった。
どうしたのかなと思って視線を前に向けると、ボロボロのマントを目元深くまで被った人達が街の入り口に集まっているのが見えた。
『クレアちゃん。絶対に背中から離れないでね』
「……うん」
誰だろう?
見た目は人間だけど、人間……じゃないと思う。
あの人達から感じられる魔力は、とても濃いものだ。
でも、魔物でもない……?
とても強い魔力だけど、魔物みたいに澱んだものじゃない。
まるで自然そのもののような、とても透き通っている純粋で完成された……心地いい魔力。
『貴様ら何者だ。何の用がってこの街に来た』
クロは敵意を剥き出しにして、前に出る。
集団はその迫力に躊躇いを見せたけれど、クロの背後……シュリの背中に乗る私を見た瞬間、一斉に膝をついて首を垂れた。
「急な訪問をお許しください。魔物の主よ」
代表の人、なのかな?
向こうの人達の先頭にいる一人が、フードを取って顔を見せてくれた。
『っ、貴様らは……』
とても綺麗な顔。
さらさらとした金色の髪。
三角形に尖った長い耳。
他種族との関わりを嫌っていて、森の奥深くでひっそりと暮らしている種族。ただでさえ個体数が少ない亜人の中で最も希少だと言われている種族──エルフ。
その代表は懇願するように私を見つめてきた。
マントと体はボロボロで、疲労が溜まっているのか声も弱々しい。
──満身創痍。
そんな言葉が思い浮かぶほどの状態で姿を表したエルフは、震える声でこう言った。
「魔物の主よ。……どうか、我らをお救いください」
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