5.眷属が出来た


 次に私が起きた時、部屋の入り口にクロがいた。

 今日はクロが当番なのかなと思ったけど、違うとすぐにわかった。私を包み込んでいる温かくて柔らかい感触は、クロとは別にあったから。


 …………この感触、多分、シュリだ。


『あら、おはよう、クレアちゃん』

『おはようございます。我が主』

「おはよう、シュリ、クロ」


 やっぱりシュリだった。もふもふの感触だけで誰なのか判別できるくらい、私は長いことブラッドフェンリル達を抱き枕にして眠っている。

 予想が当たったことが、ちょっとだけ嬉しい。

 それだけ、私はみんなのことを理解しているってことだと思うから…………多分。


 でも、今日の当番がシュリなのだとしたら、どうしてここにクロが居るんだろう?


『クレアちゃん。起きたばかりで悪いけど、クロから話があるみたいよ?』

「…………話? なに?」


 何かの相談かな。

 基本的なことはクロ達に任せているから、この前みたいに判断を仰がれても、私は答えられない。クロにもそう言ったはずだけど、それでも来たってことは、また何か大きな問題が起きたのかな?


『実は、傘下に加わった魔物達から、一度でいいから主に会いたいと……』

「えぇ……面倒臭い」

『…………申し訳ない』


 正直、私に会ったところで何かが変わるとは思わない。むしろ、私のことを見限るんじゃないかな。折角傘下に加わったのに、離れて行っちゃうかもしれない。でも、別に問題ない。仲良くなったクロ達がどこかに行っちゃうのは、悲しい。でも、他の魔物とは交流があるわけじゃないし、勝手に見限って離れていくとしても、別にどうでも良い。


 だったら、会う必要もないんじゃないかな?

 私がここで「会いたくない」と言えば、クロはそんな我が儘を聞いてくれるだろう。


『クレアちゃん。会っておいた方がいいんじゃないかしら?』

「……シュリ?」

『面倒でも、それをするのに十分なメリットがある。だから、クレアちゃんが面倒でも、会っておいた方がいいと思うの』


 会うだけで、それなりのメリットがある。


 私にはその理由がわからなかったけど、シュリが適当なことを言っているようには見えない。

 クロも同じ考えなのか、こくこくと頷いていた。


「でも私、うまくお話できない」

『別に楽しくお話しする必要はないわよ。クレアちゃんはただ会っておけばいいの。それだけであの魔物達は満足するのよ』

「会うだけで……? そんなことに、意味、あるの?」

『あるわよぉ』

「…………クロも、同じ考え?」

『ああ、そうだな。あいつらは主と話すのではなく、会うことを目的としていた。一目見るだけで満足するだろう』


 シュリとクロの意見を聞いても、やっぱり、会うだけで何か変わるとは思えない。


 でも、二人の意見を無駄にすることは、したくない。

 私のために頑張ってくれているんだから、私の我が儘でなにか言うのは、違うと思う。


「わかった。魔物達に会う」




 魔物達と会うのは、その日のうちになった。

 その理由は、次に私が目を覚ますのがいつになるかわからないから、らしい。だから起きている今の内に謁見を済ませちゃおう、って考えたみたい。


 そして現在、私の前に跪いているのは三人の魔物。彼らはそれぞれの種族の代表者らしくて、右からホブゴブリン、オーク、ワーウルフという、魔物の中ではあまり強くない部類だった。


 全部の魔物が押しかけると私の部屋に入り切らないし、私が疲れるからって、クロが配慮してくれたみたい。


「此度ノ我々ノ願イヲ聞キ入レテクダサリ、感謝シマス」


 一番最初に口を開いたのは、オークの代表者だ。

 この三種族の中では、オークが一番強い。だから先に話を切り出したのかな?


 思った以上に流暢なしゃべりで驚いた。最初のクロみたいに言葉が通じなかったらどうしようかと思ったけど、あれはクロが狼だったから、言葉が通じなかっただけみたい。

 ちゃんと言葉を話せる魔物相手とは、会話ができるとわかって安心した。


「……クロから、話は聞いている。あなた達が、私の傘下に入るってことで、いいの?」


 三人の代表が頷いた。


「私、何もできないよ?」

「何ヲ仰イマス。貴女様ノ魔力ハ、ソコニアルダケデ、脅威デス。我々ハ、貴女様ノ傘下ニ加ワレルダケデ、十分デゴザイマス」


 代表オークは大きな鼻を鳴らしながら、そう言った。

 私がそこに居るだけで、脅威?


 ……あまり実感は湧かないけれど、そうなのかな。確かに私は吸血鬼の上位種で、誰よりも特別な存在だってことは理解している。でも、他がどう思っているかなんて、考えたこともなかった。


「私はずっと眠っていたい。その邪魔をしないなら、傘下に加わることを認める」

「「「──ハッ!」」」


 代表三名は、それぞれ頭を下げた。


「我ラ、オーク。50名。貴女様ニ尽クシマス」

「ギギッ、ゴブリン。200。忠誠ヲ、誓イマス」

「ぐるるるる」


 最後のワーウルフはわからなかったけど、全員の気持ちは伝わった。


「ありがとう。これからもずっと居てくれるなら、受け入れて」


 私は三つのお皿に血を垂らし、代表に分け与える。


 代表オークは『ブラッドオークジェネラル』になり、『ジェルド』という名前を授けた。

 代表ゴブリンは『ブラッドホブゴブリン』になり、『ギルル』という名前を授けた。

 代表ワーウルフは『ブラッドハイウルフ』になり、『カルム』という名前を授けた。


 こうして私は、新たな眷属を得たのだった。

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