第19話
ラナイガの読み通り、間を置かずしてカーズは査問会に召集された。
直線の廊下をカーズは歩く。進む足取りに迷いはない。
向かうは国議会会場。査問会の内容は、前任とはいえ治安維持警備隊第二部隊隊長が宿主となったことと、未だに捕まえられていないことへの第二部隊の責任の追及である。
一向に捕まる様子のないギルバートについての、国民の追及と責任の有無をカーズに向ける気なのだ。
国議会会場の向かって中央奥の議長席には、ナナガ国国議会議会長のドネシク・ナルデルドが肩をそびやかせて座っている。議長席の前には演壇があり、左右の席には他の議会メンバーが着席していた。
後方に設けられた傍聴席にカーズはちらりと視線をやった。多数の新聞記者たちの中にハヤミとウェルドの姿を認める。ウェルドがこの場にいるのは当たり前だが、ハヤミの隣にいるのが解せない。
カーズは前へと目を戻し、後ろを振り返ることなく演壇へと進み出た。
「これより、治安維持警備隊前第二部隊隊長ギルバートを取り逃がした、現第二部隊隊長カーズの査問会を始める」
議長席の横に立つ議事進行役の男の、重々しい開会の宣言にて査問会が幕を開けた。
「第二部隊隊長カーズ。前第二部隊隊長ギルバートが、罪を犯し宿主となった現場に、君は居合わせたそうですね」
「はい」
進行役の言葉にカーズは頷く。議会メンバーたちの表情に変化は見られない。当然だろう。シナリオは既に決まっているのだ。
「なぜ射殺しなかった。お陰でギルバートは今も野放し、国民を不安に陥れている。この責任を君はどう取るつもりかね」
ドネシク議会長が口を開いた。白髪混じりの金髪に青い目の初老の男だった。ゆったりと席に腰掛け、机の上で手を組んでいる。
「あの場で仕留めきれなかった私が取れる責任は、前第二部隊隊長ギルバートを見つけ出し、宿主として始末することでしょう。宿主を殺す。我々第二部隊はその為にいます」
カーズの返答に淀みはない。進行役とは反対の位置に立つ第一部隊隊長ライズ・マルガヤが白の制服に身を包み、冷ややかな視線をカーズに送っていた。
「出来るのかね? 君はギルバートと懇意にしていたというじゃないか。取り逃がしたのも、未だにギルバートを見付けられないのも、わざとではないのかね?」
自信に満ちたドネシク議会長の物言いへ、臆することなくカーズは答えた。
「断じて違います」
「そうかね?」
ドネシクの白くなった眉がピクリと跳ね上がる。
「もう一度言います。現場で宿主を殺し損ねたのは私の失態です。失態の責は辞職することで取っても構いません。ですが、同じように何度も取り逃がし続けている、第一部隊に責はないのは何故でしょうか」
「流石は第二部隊。第一部隊に責任を擦り付けるのかね?」
あちこちから失笑が上がった。
あくまで第一部隊の失態はないものとしたいらしい。
「第二部隊を切るなら切ればいい。やれるものならやってみろ。ただし、それで困るのはお前らだ」
「口を慎みたまえよ。カーズ第二部隊隊長!」
進行役の男がカーズを叱責する。
カーズは目を細めた。
ラナイガの事をどこまで信用すればいいのか、正直分からないが。ヒントは沢山もらった。ラナイガが言ったように、この査問会を開くこと自体が、第二部隊の重要性を証明しているのだとしたら。第二部隊を切って困るのはドネシクだ。
「それもあなた方が望んだことでしょう。我々第二部隊はならず者集団でなければならない。都合の悪いことを擦り付けやすいからな」
そして、第二部隊が粗野に振る舞うことこそ、ドネシクにとって都合がいい。
ならばそう振る舞ってやろうではないか。シナリオを描いたのも道を敷いたのもカーズではないが、なに、妖魔や宿主を煽るのと変わりはしない。
「何を言っているのか君は分かっているのかね」
口調を変えたカーズへ不機嫌そうに眉を潜め、ドネシク議会長が語気を強めた。細く節くれだった人差し指が、苛立たしげに議会席を叩く。
「勿論ですよ。ドネシク議会長」
カーズは鼻から息を吐いた。右手を上げ、指先を突き付ける。
「あんたらご自慢の第一部隊が何の役に立った? せいぜいお飾りのマスコット人形だろう。それともギルバートの玩具か。遊ぶのにはもってこいだろうよ」
第一部隊は治安維持警備隊の中に置いて、唯一のエリート部隊で、貴族令息や商会などの子息からなっている。彼らの任務は貴人・国の重要人物の護衛で、危険な妖魔事件の現場には現れない。カーズたち第二部隊からすると、予算にあかせていい装備だけは持っているお飾の部隊だ。
「き、貴様っ。誰にものを言っている!」
ドネシク議会長のこめかみには立派な青筋が立ち、口から唾を飛ばしてカーズ怒鳴りつけた。その醜悪さと滑稽さにカーズの笑みが深くなる。
「トップの椅子にふんぞり返って権威を振りかざす阿呆だろ? そちらこそ分かっているのか?
「本気で分かっていないようだな! 貴様の首などすぐにすげ替えられ……」
顔を赤黒く染めるドネシクの怒声へかぶせるように、甲高い笛の音がナナガ国議会会場に響いた。
妖魔や宿主の出現を知らせる合図であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます