第6話
アシュフィールド邸のパーティーは昼間のガーデンパーティで、両親とフェリシアだけでなく、十歳の妹ローズマリーも一緒に家族四人で揃って出席した。
メイジーとサイラスがパーティーだかお茶会だかを開催したかどうかは知らない。
あの様子だと、サイラスはメイジーに押し切られて、何かしらのイベントに付き合わされたのではないかと思う。
(一応、サイラスは私の婚約者なんだけど……)
フェリシアのいないところでサイラスに会うべきではないとか、そういう配慮をメイジーに求めるのは難しい。
なぜだかわからないけど、「人がわざわざ言わないようなこと」に対して、メイジーは異常に鈍感なのだ。
わざとじゃないかと疑いたくなるくらいに、鈍い。
はっきりと「それはダメ」と言われない限り、ふつうはしないだろうということをさらっとやってのける。
そして、この「ふつう」というのは基準が曖昧だ。
なぜそんなことができるのか、そんなことをするのかと、聞くこと自体もまた「わざわざ言わないようなこと」に分類されたりする。
どうでもいいことばかりなのだ。
フェリシアの家の侍女にメイジーがお茶の支度を命じたからと言って、それを「わざわざ」咎めることはできない。
たとえそこで何か言っても、話は「お茶は必要なかったのか」という方向に流れる。
それを乗り越えて「他人の家の侍女に勝手に命じたこと」が問題なのだと指摘すれば、今度はフェリシアの度量の狭さが浮き彫りになるのだ。
度量が狭いとかではなく、「ふつう」の「当たり前」のことを言っただけだとしても。
メイジーはきっと「少しくらい、いいじゃない」と言うだろう。
あるいは「そんなことで、怒られるなんて」と、困惑してみせる。
メイジーは今日、フェリシアのいないところでサイラスと会う。
それは、ほとんど間違いないことだと思われた。
そして、もしそのことで誰かに咎められても「そんなつもりじゃなかった」と、被害者のように呆然とするのだ。
(謎すぎるわ……)
本当に何もわかっていない可能性があるところが、マジで謎だった。
「お姉様、もうすぐ着くわよ」
ローズマリーに声を掛けられて顔を前に戻した。
馬車の窓から外の景色を眺め、どうでもいいことをぼーっと考えているうちに、アシュフィールド邸の門の前に到着していた。
父が先に降りて、母とローズマリー、フェリシアの降車を助ける。
母もローズマリーもフェリシアと同じプラチナブロンドと青い目を持っている。顔立ちもよく似ているため、三人が一緒にいると、注目を浴びることが多かった。
特に十歳のローズマリーはみんなのアイドルだ。
ローズマリーを連れていける昼間のガーデンパーティーは、父にとって嬉しい社交の場なのだった。
「ニコラス、よく来てくれたな」
「エドガー、招いてくれて感謝する」
アシュフィールド伯爵と父が固い握手を交わした。
伯爵が冗談交じりにお祝いの言葉を述べた。
「フェリシアの婚約、おめでとう。うちのバーニーにと思っていたので、ちょっと残念だけどな」
「私も残念だ」
父が笑う。
「だが、バーニーはアシュフィールド家の大事な跡取りだからな。我が家の婿養子に来てもらうわけにはいかんだろう」
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