トカゲと口紅と、少しだけの嘘。

山下 巳花

第一章~お気に入りの場所

 彼の部屋は、マンションの最上階にあった。高台にある為、高層ではないのだけれど窓から見下ろすとやはり高い。

 1Kのその部屋は全体的に広々としていて、そのどこもがあたしには居心地の良い空間だった。中でも特に16畳の部屋の南側に置かれたベッドの上が、あたしの一番のお気に入りの場所だった。

 そのベッドの向こう側は、まるで映画のスクリーンのようにほぼ全面が窓になっていた。窓といっても開け放てるような造りにはなっていない。ただそこに、透明のガラスが埋め込まれているだけで、本来の窓の役割は果たしてはいなかった。

 けれど、その窓から見える夜の景色が最高だった。薄緑の壁に掛けられた月白げっぱく色のロールカーテンを上げると、宝石を散りばめたような色取り取りの光が、長方形のガラスの向こうに浮かび上がる。

 それは生活する人々が灯す光の集まりに他ならないのだけれど、週末の疲れたあたしをいつだって非日常へといざなってくれた。


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