第78話 ゴーレムと魂の居場所
「ふぅむ……。魔法はなくとも、積み重ねた科学技術によってガンジョーの世界は発展しているのか」
「もちろん人だったり、地域によって違いはあるけど……俺のいた国だと明日の水や食べ物に困る人の方が少ない環境だったかな。大きな建物も多くって、あの灯台を超える高さのタワーもあったよ」
俺の話を聞いたシルフィアは、腕を組んで「ふむふむ」とうなずく。
「ただ、その素晴らしい技術の知識が俺にあるかというと……ないんだよね、これが。一部の頭のいい人たちが生み出した物を使わせてもらってるって感じでさ。身近にある便利な道具でも、ほとんどの人はその仕組みを知らないんだ」
「私も家を知っているが、家の建て方は知らなかったからな。どこの世界も知識や技術が増えていくほど、それを知らぬ者が増えていくのかもしれん。ガンジョーのいた世界……興味深いものだ」
あの世界にいた時を振り返れば、本当に人の力でよくこんなものが作れたなと思うような複雑で高性能な道具たちが身近にあった。
インターネットとか、パソコンとか、スマホとか……調べればその仕組みが説明されたサイトがあったけど、読んだところで理解は出来なかった。
精密機械のパーツには金属が使われていることが多いとはいえ、今の俺がどれだけ魔法を極めても、あの頃当たり前にあったデバイスは作れないだろうな。
スマホとかあの小ささであの多機能っぷりはほとんど魔法だ。
見えない電波を飛ばして圧倒的な量の情報をやり取りするなんて、思いついた人はすごいとしか言いようがないよな。
「ガンジョーは……元の世界に戻りたいと思うことはないのか?」
シルフィアがポツリとつぶやき、すぐに慌てて自分の口を塞いだ。
「す、すまない……! 今のはナシだ!」
どうやら、その質問はタブーだと思ったようだ。
でも、元の世界があると聞かされれば、その疑問は当然浮かんで来るものだ。
「いいんだ、シルフィア。気になって当然だと思うよ。まあ、俺の場合は明確にあっちの世界で死んだってわかる結末だったから、こっちの世界でガイアゴーレムとして生まれ変われて運が良かったと思っているし、マホロにも感謝してる」
落石を頭に受けたその瞬間、俺という魂は消えるはずだったからな。
それがこうして今も楽しく毎日を過ごせるんだから、俺は幸せ者だ。
「それに俺は遠い親戚くらいしか血縁者がいなくって、親友と呼べるほど深い関係の友人もなく、恥ずかしながら恋人もいなかったからね。未練はそんなにないんだ。ゼロとは言えないけど、本当なら死んで終わりだったと考えると十分に割り切れる」
「なるほど……。話してくれてありがとう、ガンジョー。ぶしつけな質問を許してくれたことにも礼を言いたい」
「お礼を言われるほどのことじゃないさ。俺だってシルフィアの過去を聞かせてもらったんだから、こちらも過去を明かすくらい当然だと思ってるよ」
一瞬張り詰めた空気が徐々に緩む。
シルフィアが礼儀正しい子だってことは、今の反応からも伝わって来る。
「じゃあ、次の名所に行こうか。あんまりゆっくりしていると日が暮れちゃうからね」
シルフィアの木を載せたリニアトレインがジャングルから帰って来た時点で、時間としてはお昼を大きく回っている。
このペースで名所を最後まで巡り切れるかは、そもそもマホロがラブルピアのどこらへんを名所と思っているかで変わって来る……!
◆ ◆ ◆
「防壁の次の名所は……この大水路ですっ!」
マホロが指差したのは、街を流れる水路の中でも一番幅が広くて大きな部分。
西から東へとまっすぐ伸びる、水路の主流とも呼べる場所だった。
この主流から左右へと水路が分岐し、街の各地で豊富な水が使えるようになっている。
水は命をつなぐために最も重要な物だし、大水路と言うだけあって
作った自分が言うのもあれだが、表面にコーティングされたオアシスの砂によって汚れの浄化して黒ずまない水路はとても綺麗だし、ここも名所と言って過言ではないと思う。
「これだけの水路も……ガンジョーが作ったのか!?」
「そうだよ。西の方にある大きなオアシスから水を引っ張ってるだけだから、構造自体はそんなに複雑じゃない。でも、その全長は本当にすごいと我ながら思うよ」
「オアシスから街を通ってジャングルの川まで水路が伸びていますからね!」
マホロの言葉にシルフィアは絶句する。
「……っ!? つまりそれは……ほとんど荒野を横断する
「まあ、そういうことだね。ガイアさんと協力しながら究極大地魔法をフルに使って作ったから、普通に工事するよりはずっと楽で完成も早かったけど、それでも初めて街に水が流れた時は感動したなぁ……!」
「みんなの喜ぶ顔、今でもハッキリ覚えています!」
「ニャ~!」
俺とマホロとノルンは工事中の水路に水が流れ込まないようにする仕切り板を、一緒にオアシスまで外しに行ったんだよな。
その時は思ったより地味……みたいなことを言われたのを覚えているけど、水が街まで流れて来て喜ぶみんなの姿を見て、すごい達成感が湧き上がって来たんだ。
「……いいな。そういう共通の思い出というのは」
シルフィアが小さな声でつぶやいたのを、マホロは聞き逃さなかった。
「思い出はこれからたくさん作れますから心配しないでください、シルフィアさん!」
「だっ、だれが心配など……! 別に話を聞いて
誰が見ても照れ隠しとわかるシルフィアの反応を見て、マホロはニヤニヤしている。
そんな二人を見て俺もニヤニヤしているが、ゴーレムなのでそれが表情に出ることはない。
こういう時は元の人間の姿じゃなくて本当に助かるなと思う。
「さぁて、次はこの街のシンボルとなる名所ですよ! この水路に沿ってまっすぐ歩けば見えて来ますからね!」
「この街のシンボル……か。それはそれは楽しみだ」
シルフィアはマホロと並んで
この街のシンボル、水路に沿って真っすぐ……って、最高にハードルが上がった状態で『アレ』を見せることになるのか……!
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