第5章 ゴーレム大地を育む

第77話 ゴーレムとハーフエルフ feat.ガイアさん

「まずはこの街を語る上では外せない『防壁』です!」


 マホロはでーんと防壁を指し示す。

 確かに瓦礫だらけだった街に安全地帯を生み出したという意味では、この『防壁』の存在はとても大きいし名所と呼べるだろう。

 それこそ、ラブルピアはここから始まったと言っても過言ではない。


「防壁の東西南北には門があって、それぞれ電磁魔動式で開閉します。シルフィアさんの声もすでにガイアさんが認識してると思うんで、『開け』とか『オープン』とか適当な言葉を言うだけで門が開いてくれると思います。それと東側の門だけはリニアトレインのための特別製で……」


「ちょっと待った! そのガイアさんというのは誰だ?」


 シルフィアが首をかしげる。

 俺とマホロは顔を見合わせてハッとした。

 ガイアさんのことを話さないといけないなと思いながら、今までずっと話せていない……!


〈私が『ガイア』と呼ばれる者です〉


 待ってましたと言わんばかりにガイアさんが声を発する。

 当然シルフィアは俺の体から聞こえて来る聞き覚えのない声にギョッとする。


「だ、誰だ……!? ガンジョーの中に誰か入っているのか!?」


「まあ、入っていると言えば入っているけど、それは物理的な話じゃないんだ。ガンジョーの魂とガイアさんの魂が同じ体に入っている感じかな」


〈正確に言えば『ガイア』は魂ではありません。ガイアゴーレムをコントロールするシステムの一部です〉


「つまり……どういうことだ!?」


 シルフィアは混乱している。

 そもそもなぜ二つの存在が一つの体に同居しているのか……それがピンと来ないようだ。


「えっと、そもそもガイアゴーレムにはガイアさんしか入っていないのが普通なんだ。そこへガイアゴーレムの創造主であるマホロの願い――心を持ったゴーレムを叶えるため、異世界で死亡した俺の魂が引き寄せられた……って感じかな」


「なるほど、それなら経緯いきさつを理解出来る……ん? ガイアゴーレムを創造したのはマホロなのか……?」


「あれ? 言ってませんでしたっけ?」


 そういえば、俺が異世界から来たことはマホロが話していたけど、ガイアゴーレムを作ったのは誰かという話はしていなかった気が……。


「人より優れた魔法技術を持つとされるエルフですら、ガイアゴーレムの創造に成功した者はいないと、父が持っていた魔導書には記されていた。それを成功させるとは、マホロは全然落ちこぼれではないではないか! れっきとした名門一族の一員だな!」


 うっ……シルフィアとしては褒めているんだろうけど、マホロにロックハート家の話題は地雷だ……。


「それは違うんです、シルフィアさん。ガイアゴーレムを創造する時だけ力を発揮出来た理由があるんです。私のお母様の形見のペンダント……それに使われていた純度の高い魔鉱石を素材に使ったから、ガイアゴーレムを創造することが出来たんです」


 思った以上に重い話が飛び出し、シルフィアが真顔になる。

 そして、良くないことを言ってしまったと思ったのか、見るからにあたふたし始める。


「す、すまない……! 悪気はなかったんだ……! ただ、マホロのことを純粋にすごいなぁと思って、つい言葉が……」


「いえ、シルフィアさんに褒めてもらえたのは、とっても嬉しいですよ! だから、謝る必要なんてこれっぽっちもないです!」


 マホロはいつものはつらつ・・・・とした笑顔を見せる。


「ただ、ガイアゴーレムの創造に成功して以降の私は、いつも通り魔法がからっきしなんです。地属性の魔力自体は持っていますから、ガンジョーさんが作った物に魔力を流して動かすことは出来そうですけど、やはり自分一人では何も出来ない落ちこぼれなんです」


 改めてリニアトレインの扉の開閉にマホロの魔力が使えたのは予想外の収穫だったな。

 体に魔力が流れているということは、何らかの手段で出力することが出来れば……きっと使い道はあるはずだ。


「ところで……元々は何の話をしてたんでしたっけ?」


「それはラブルピア最初の名所として防壁の話を……」


〈違います。『ガイア』の話の途中です〉


 俺の発言はガイアさんに食い気味に否定された。

 そうそう、ガイアさんがどういう存在かは話したけど、その役割を話していなかったんだ。


「ガイアさんは究極大地魔法のコントロールや、何かを作る時に必要な材料や分量を教えてくれるすごい存在なんだ。正直、ガイアゴーレムとしての能力は大体ガイアさんの能力さ」


〈しかし、ガイアゴーレムは『ガンジョー』というイレギュラー要素と適応することで、本来ではあり得なかったメタルゴーレムへの進化を発生させています。これからも『ガンジョー』の影響によって、さらなる可能性の扉を開くことが予想されます〉


「なるほど、要するにガンジョーとガイアは良好な関係を築けているわけだな」


 シルフィアはザックリとまとめたが、認識としては合っている。


「まあ、要するにそういうことだね。お互いに協力しながら上手くここまでやって来たよ」


「死して別世界にやって来て、気づいたらゴーレムの体に入っていたというのに、上手くやれているとは……。ガンジョー、やはりお前はただ者ではないようだな。元いた世界では、さぞ高名こうみょうな魔法使いだったのだろう……!」


「あ、俺の元いた世界に魔法は実在しなかったんだ。おとぎ話の中に登場するくらいでね」


「なっ……なにぃ!? 魔法が存在しない世界が存在するのか……!?」


 そうか、魔法があって当然の世界ではここも驚くポイントだったな。

 シルフィアのリアクションを見ているのは面白いけど、この調子で名所巡りは進むんだろうか……?

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