第72話 ゴーレムと引っ越し
「さてと、運んで来た物を一旦降ろして、次は貨車を改造しないとな」
三両ある貨車はそれぞれが車輪のついたカゴのような形になっている。
このカゴの部分をパカッと開き、金属操作を交えつつ一枚の大きな鉄板を作り出す。
「おお……あんなに硬そうな金属をぐにゅぐにゅと自由自在に変形させるとは……! ガンジョー、やはりお前はただ者ではないようだな……!」
俺の到着に気づいてリニアトレインから降りて来たシルフィアが目を丸くしながら言った。
さらに彼女の後ろからマホロもやって来る。なぜか興奮気味だ。
「ガンジョーさん! 私でもリニアトレインのドアの開閉が出来ましたよ! 最低限の地属性魔法を扱える人間なら、リニアトレインを動かせなくてもドアくらいは動かせる見たいです!」
「おおっ、それは大きな発見だ! 流石はマホロ、助かったよ!」
俺がべた褒めすると、マホロは「えへへ~」と顔をほころばせた。
実際、マホロの発見は大きいというか、俺のうっかりミスを帳消しにしてくれるものだ。
リニアトレインの動力は俺に依存している。
だから、俺がいなければ動かせない――つまり、加速出来ないことは認識していた。
しかし、客車のスライドドアにも魔力を要することはすっかり失念していた。
ドアが開かないと、客車の中に入ることも叶わない。
マホロが自分の魔力でも動かせることを発見してくれて本当に良かった……!
今回のジャングル探検でリニアトレインの課題がいくつか見つかったし、次に運行する時までには課題を解決した『リニアトレイン改』にしておきたいものだな。
「シルフィア、この金属を操る力は究極大地魔法って言うんだ。金属だけじゃなく土や砂、岩に魔宝石なんかも操れる。ガイアゴーレムの基礎となる魔法さ。……と言っても、別世界の人間である俺の魂が混じってるから、究極大地魔法もまだ完全な状態ではないみたいだけどね」
「これでまだ完全ではないのか!? ガイアゴーレム……知識としては知っていたが、実際に見るとこの世の存在とは思えんところがある……!」
「街に着いたらもっと詳しくガイアゴーレムのことを教えるよ。紹介したい存在もまだいるし」
ずっと後回しにして紹介していないガイアさんのことを教えないとな。
まあ、ただでさえ信じられないガイアゴーレムの中にまだ何か別の存在がいるってなれば、シルフィアはさぞ驚愕するだろうな……。
「さあ、巨大な台車も完成したことだし、木を載せてしまおう!」
木の幹と土の部分を掴んで、慎重に台車の上に置く。
後は金属加工で作り出した鉄のチェーンで、木を傷つけない程度に固定する。
「うん、これだけ固定すればずり落ちる心配はなさそうだ。そろそろ出発といこうか」
最終チェックを終え、みんなに乗車を呼びかける。
予想外のことが起こりまくったジャングル探検もこれで終わる……いや、街に帰るまでが探検だもんな。思い出を振り返るのはまだ早い。
「ガンジョー……こんなところで何をやっているんだ? 何だそのポーズは……?」
俺がリニアトレインの先頭で体育座りをしているところにシルフィアがやって来た……!
そう言えば彼女にはリニアトレインの仕組みまでは説明していない。
当然、俺が磁石の力と体育座りで車両を引っ張るなんて知るわけがない。
何も知らない人から見れば、乗車を
「えっ、えっと! これはその……俺が先頭車両となって、この乗り物を引っ張るために必要な体勢をとっているだけであって……決して遊んでいるわけでも、ふざけているわけでもないんだ……!」
「なるほど、馬車でいう馬の役目までガンジョーが担当するのか……。何から何まで任せてすまない。街までよろしくお願いする」
シルフィアは軽く頭を下げた後、マホロに腕を引っ張られて客車に連れて行かれた。
まさか、俺の説明を素直に聞き入れて納得してくれるとは……。
俺が逆の立場だったら絶対すぐには納得出来ない。
車両の先頭でゴーレムが体育座りをしていて、これが加速に必要なんて理解出来ない。
正直、俺自身も加速している時ふと冷静になると『何だこの状況?』と思ってしまうくらいだ。
妙な感動を覚えながら、客車に全員乗り込んでドアが閉まったことを確認する。
「ラブルピアへ出発進行!」
掛け声と同時に
行きの時とは車両の順番が前後逆になり、木を載せた貨車が俺の真後ろに来ている。
つまり、マホロたちが乗る客車は最後尾だ。
乗客たちの声が聞こえにくくなった代わりに、木の葉や枝が風で揺れる音、チェーンが
その音に耳を傾けながら、安全な範囲での最高速を追求する。
視界の範囲内に魔獣の影はない。
ぐるぐると頭を回して全方位を注視しつつ、ジメジメとしたジャングルとは打って変わってカラカラの荒野を疾走する。
そうして一時間ほど経っただろうか。
それは消えない炎の灯台――俺たちの街ラブルピアのシンボルだ。
「まもなく~、ラブルピアに到着です~」
車内アナウンスをちょっと真似つつ、乗客たちに到着が間近であることを告げた。
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