第49話 ゴーレムと消えない炎の灯台
「旦那、今度は人が乗り込む部分を作ってもらいたい。形は円盤状で、真ん中には穴が空いている鉄板だ。ここはとびきり頑丈にしておきたいな」
「硬さなら魔法で底上げ出来ますよ。サイズはどのくらいにしましょうか?」
「この螺旋階段の真ん中を通り抜けられるギリギリのサイズで頼む。穴の方は今作ってもらった鉄の棒の直径よりギリギリ大きめだ。鉄板の穴はこの棒を通すためのものだからな」
俺はその3Dモデルを作成して、穴が棒を通る形で床に置いた。
「鉄板はもう少し分厚めの方がいいな。人間の指から手首くらいまでの厚さだ」
おじさんに言われて鉄板の分厚さを修正する。
うーむ……かなり分厚いし、鉄板と床の間に段差が出来てしまうな。
これでは乗り込む時に誰かがつまずくリスクがある。
そのリスクを回避するため、灯台の床に鉄板の厚さ分のくぼみを作る。
そして、そのくぼみへ鉄板の3Dモデルをはめ込んだ。
こうすることで周りの床と鉄板の段差がなくなり、上に乗る時につまずかなくなる。
俺の世界のエレベーターも、ちゃんと乗り込みやすいようにフロアとエレベーターの高さを合わせてくれていたもんな。
おかげで、ショッピングカートを乗せる時もいちいち段差につまずかない。
形式は違えど、同じような気遣いはこのエレベーターにも必要だろう。
「流石は旦那だ。この方が乗り込みやすいものな! さてさて、大掛かりな設備はこれでほとんど完成だ。ここのエレベーターは旦那の言うような箱の形じゃなく、足場だけがせり上がるリフトに近い。残るは動力の準備だけだ」
「電磁魔動式……つまりは電気と磁石を動力にするんですね」
「その通り! この鉄板と鉄棒に地属性魔力と雷属性魔力を流し込んで磁石にし、その磁力の具合をいい感じに変化させながら上昇と下降を制御するんだ。そこで必要になるのが
「雷魔鉱石なら廃鉱山でいくつか入手してますよ。等級もBくらいの物がちらほらあります」
何度も何度も廃鉱山を探索しているんだ。
亡骸以外にも、有用そうな鉱石の数々が目に入って来る。
地属性物質ならば
「それほどの等級があれば十分過ぎるくらいさ。これで雷属性魔力は問題ないし、地属性魔力に関しては旦那はプロフェッショナルだ。完璧に電磁魔動式を実現出来る! 後はコントロールパネルをどこに設置するかだが……」
普通のエレベーターのように、箱の内側の壁にボタンを配置することは出来ない。
なので、乗り込む鉄板の上に高さ一メートルほどの四角い柱を設置し、その上の面に3つのボタンを配置することにした。
上昇を表す『▲』、停止を表す『■』、下降を表す『▼』だ。
誰が見てもわかりやすいボタンをつけておけば、誰でも自由にエレベーターに乗って、いつでも展望台からの景気を楽しむことが出来る。
「電磁魔動式エレベーターの
外壁のモデルを再表示し、再び灯台は灯台としての姿を取り戻す。
「こんだけの巨大建造物だ。設計が完璧に仕上がっても、それを作り上げる素材集めには苦労しそうだな……。廃鉱山には魔鉱石以外にも、いろんな鉱石が眠っているとは思うが……」
「あ、鉱石ならもう結構集めてありますよ。霊園の外に置いてあります」
「そうか、そりゃ良かった……って! なんだってぇ!?」
おじさんは華麗なノリツッコミを披露し、霊園の外へと駆け出す。
霊園の入口のすぐ近くに、トロッコに積み込まれた大量の鉱石や石材が並べてある。
「こんな近くに、こんなにたくさん……! 俺がここに来た時は、設計図を完成させた喜びと疲れで見逃していたんだな……」
「これであの巨大な灯台を作るのに足りるかはわかりませんけど、廃鉱山にはまだまだいろんな資源が眠っていますし、言ってくれたら何でも俺が取りに行ってきますよ」
〈
ガイアさんの声が響く。
「……と、言うことは?」
〈
俺とマホロ、おじさんは顔を見合わせる。
後は一声かけるだけで灯台が完成する……。
それを目指してここまで一緒に知恵を出して来たわけだが、いざそれが目前に迫るとビックリしてしまう。
本当にこの瓦礫の街に百メートルを超える建造物が建つのだ……と!
「あ、そうだ。素材を3Dモデルに近づけておかないと作れな……」
〈地の魔宝石と
つまり、この街にある地属性物質ならば、もう何でも3Dモデルに近づけずとも素材に出来るというわけか……。
俺も、この街も、どんどん進化しているんだという実感が湧いてくる。
「私、メルフィとノルンを呼んで来ます! きっと出来上がる瞬間をみたいでしょうから!」
マホロは霊園を出て防壁の中に向かった。
これだけの巨大建造物だ。もう街の人たちも突如現れた3Dモデルを見て、何が起こるのかとドキドキしているかもしれない。
街からでも組み上がる様子はよく見えるだろうな。
「連れて来ました……!」
マホロが駆け足で戻って来た。
その後ろから驚きというか恐怖に近い表情のメルフィさん、いつもはマイペースだけど今回は流石に目を丸くしているノルンも来た。
「教会の中で作業をしていましたので、外に出た時は驚きました……! これ……倒れて来たりしませんよね……? 正直、見上げるだけでも恐ろしい……!」
メルフィさんはカタナを抜き、灯台から身を守るように構える。
この世界にはきっと、俺がいた世界ほど巨大建造物が多くないんだろう。
だから、大きな物を見るとまず倒れて来ないかが心配になる。
灯台を作ることを楽しんでいるマホロとおじさんが変わり者で、メルフィさんの反応が一般人に近いものなんだと思う。
カタナを抜いたことを除けば……。
「灯台が出来上がったら、ノルンも一緒に展望台に上ろうね!」
「ニャァ!?」
マホロの言葉にノルンは明らかに驚いた表情を見せた。
ネコでもこんなに表情って変わるんだなってくらいビックリしている。
まあ、いくらネコが高いところが好きと言っても、百メートルの高さは話が違うのだろう。
「ガンジョーさん、やっちゃってください!」
「ああ!」
3Dモデルの前に立ち、ゴーレムは呼吸しないけど気分的に深呼吸をする。
そして――
「ガイアさん、建造を開始してください!」
〈
心なしかガイアさんの声も気合が入っているように聞こえた。
流石にここまでの巨大建造物は、一瞬で建造完了とはいかない。
土台から組み上がり、外壁と螺旋階段が同時並行的に作られ、複雑なレンズや頑丈な手すりが必要な展望台は少し時間をかけて構築されていく。
「あ……!」
俺の指にはめられていたヘンリックさんの腕輪が自然と外れ、天へと昇っていく。
そして、灯台のレンズの中へと腕輪がそのままの形で収まった。
普通に考えたら、光源となる火の魔宝石以外の部分は不要だ。
それでも腕輪をそのままの形で残し、灯台の光源とするのはおじさんの設計通りか、はたまたガイアさんの粋な計らいか……。
「すげぇ……すげぇ……」
おじさんは灯台を見上げ、そうつぶやき続ける。
究極大地魔法による
その場にいた全員が心を奪われたように、ただただ組み上がっていく灯台を見上げていた。
もちろん、俺も例外ではない。
最後は灯台のてっぺんに嵐が来た時に避雷針となる細い鉄の棒がくっ付けられ、宙を舞っていた物質はすべてなくなった。
〈――――
マホロが夢見た存在――荒野を照らし、人と魂を導く、消えない炎の灯台はここに完成した。
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