第47話 ゴーレムと一流の設計図

 おじさんはやり切った顔で、グッと拳を握る。

 今までずっと設計図を描き続けてくれていたんだ……!


「ありがとうございます! 早速見せていただいてもいいですか?」


「おうよ! 見てくれ見てくれ! 俺にしちゃあ良いもんが描けたと思ってる!」


 おじさんは手に持っている大きな羊皮紙ようひしの巻物を地面に広げていく。

 羊皮紙の素材は、倒した魔獣の皮を利用している。

 今は街にいても豊富な水が利用出来るので、魔獣の皮の羊皮紙も作りやすいとか何とか。


 街の生活レベルを上げたことで、俺が関わらない分野でも結果が出始めている。

 建築の知識があるおじさんのように、特定の分野について専門的な知識を持っている住人もきっとたくさんいるんだろう。


 最近はずっと人のいない廃鉱山を歩き回っていたけど、一区切りついたこれからは街の人たちと接する時間をもっと増やしてもいいかもしれない。

 それがさらなる街の発展にもつながるはずだ。


「おおっ、これが灯台の設計図……!」


 地面に広げられた灯台の設計図を、マホロが食い入るように見つめる。


「……大きな灯台の絵が描かれていることはわかりますが、私にはそれしかわかりません! 文字とか数字とか計算式とか……サッパリです!」


 マホロがお手上げと言わんばかりに天をあおぐ。

 実は俺もあんまりわからない……が、ガイアさんにはわかるはずだ。


「ガイアさん、設計図を読み取れますか?」


精査スキャン――設計図の読み込みが完了しました。結果リザルト:この設計図の内容を現在の究極大地魔法で100%再現することが可能です〉


 どうやら、おじさんの設計は完璧のようだ……!


「ガンジョーの旦那、この女のような男のような声は……旦那の裏声かい?」


 そうか、もうガイアさんの声は俺以外にも聞こえるんだったな。

 おじさんは声の出所がハッキリわからず、きょろきょろとあたりを見回している。


「この声はガイアさんの声なんです」


 ガイアゴーレムとガイアさん、そして俺の魂の関係性をおじさんに説明する。

 すると、おじさんは目を見開いて心底驚いた表情を見せた。


「ガ、ガンジョーの旦那って……別の世界から来たのかい!?」


「あれ? お話したことありませんでしたっけ……?」


「俺はただマホロが心のあるゴーレムを召喚しただけと認識していた……! まさか、こことは別の世界から魂を引っ張って来るとは……。それに伝説のガイアゴーレムだと……!? これも地属性魔法の名家ロックハートの血筋が為せる業なのか……」


「もー、私の血筋なんて関係ないです! すべてはガンジョーさんのおかげなんですよ。ガンジョーさんがこの世界に来てくれたから、ガイアゴーレムを創成することが出来たんです!」


 マホロはあまり家系のことに触れられたくないようだ。

 まあ、命の危険を感じて逃げ出してくるような家だもんな……。


 それにしても、俺はおじさんに本当のことを何も話してなかったんだな。

 てっきり、異世界から来たことくらいは話していると勘違いしていた。

 そりゃ、いきなり異世界だの魂だのガイアゴーレムだの聞かされれば驚いて当然だろう。


「ということは、ガンジョーの旦那は本当の意味でまったくの部外者なのに、ここまで俺たちに良くしてくれてるってことか……! まったく、器のデカいお方だ……!」


 おじさんは目を潤ませながら言う。

 今にも泣き出しそうだったが、グッと涙をこらえて話を本題に戻す。


「それで俺の設計図は、その大地の守護神ガイアさんとやらに満足してもらえたようだな! このまま建造に取り掛かれるのか?」


「はい、素材さえ集まれば……ん?」


 俺はおじさんの描いた設計図に気になる点を見つけた。


「このてっぺんの光源を置くところ……ここにある不思議な形状の装置は何ですか?」


「ああ、これは光魔レンズと回転装置だ。等級の高い光魔鉱石をレンズ状に加工した物で、魔宝石の灯火ともしびの輝きを何倍にも増幅してくれる。そのレンズを四方に配置して灯火を囲み、回転させることで全方位に灯台の光を届けるのさ」


 あの灯台のぐるぐる回る光を再現するための装置ってことか。

 設計図を読んだ感じ、レンズの回転には地の魔礫石まれきせきが使われている。

 装置の中心にある金属の軸に対して、回転の命令を与える構造のようだ。


 水の魔礫石が水の流れを制御出来るように、地の魔礫石は金属などの地属性物質に運動エネルギーを与えることが出来るわけだな。

 イメージとしては俺がレールの上を走る時にすねの車輪を動かす感覚に似てる。


「説明ありがとうございます。俺が元いた世界にも灯台はあったんですが、その仕組みまでは全然知らなくって、こうして見るととても新鮮です」


「はははっ、よく利用する身近な物でも仕組みを知らないなんてのはよくある話さ。ガンジョーの旦那にもそういう人間らしいところがあるとは、何だか親近感が湧いてくるよ!」


 上機嫌のおじさんは俺の体をパンパンと叩く。

 人間ならちょっとしたスキンシップだが、俺の岩石の体にやると手のひらが痛いはず……。

 案の定、おじさんは「いてて……!」と言って大笑いした。


「さて、そろそろ始めようか……ガンジョーの旦那」


「はい! ガイアさん、この設計図をもとにした仮想造形モデリングを展開してください」


〈了解しました〉


 次の瞬間、俺たちの目の前に百メートルを超える灯台の3Dモデルが出現した!

 指示を出したのは俺だから、覚悟の上で作ったつもりだけど……それでもデカ過ぎるッ!!

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