第40話 ゴーレムとお墓
そして、翌日――
俺とマホロは昨日決めた霊園建設予定地にやって来た。
防壁の門を出て、瓦礫の海を越えてここまで来るのには、やはりそこそこ距離がある。
その距離は栄えていた頃の街の中心部から街の外までの距離なわけだから、かつてどれだけ街が大きく広がっていたのかがわかる。
ここまで実際に来てみて、改めて霊園を作る場所としてふさわしいと思った。
街の存在を感じつつ、荒野の静けさもあるいい場所だ。
そして何より……ここまで地の魔宝石の力は及んでいる。
街から少し離れても、ここもまた街の一部なんだ。
「さて、
「はい!」
今日のメルフィさんは保存食を作ったり、刀の手入れをするために教会に残っている。
ノルンはあまり今回の作業に興味を示さなかったので、メルフィさんと一緒にいるようだ。
まあ、ネコにまったく関わりのない人のお墓を建てるのに興味を持てというのは
「最終的な広さは置いとくとして、霊園を囲う壁は清潔感のある白、形状は普通に四角形でいいかな」
「特殊な形状も少し興味ありますけど、お墓が後々増えて霊園が広がる可能性も考えると、自由に広げやすい四角形が無難だと思います」
地の魔宝石を手に入れた今、俺が
具体的には
なので、霊園を囲う壁を仮の大きさで作った後、規模に合わせてサイズを調整することが出来る。
もちろん、調整のたびに魔力を必要とするし、大きくする場合には追加の素材も必要になる。
普通は3Dモデルをキッチリ作って、一度の魔法でバシッと決めた方がスマートなのは確かだ。
「墓石の形は何にしようか? 俺としては遺品から本人が希望するお墓の形が判明しない限り、みんな同じ形で統一しようと思ってる。イメージは長方形の石板みたいな感じかな。そこにわかった人だけでも名前を刻んでいこうかなって」
頭に浮かぶのは、外国の集団墓地だ。
ズラッと同じ形の石板が並んでいて、少し不気味に感じるんだけど、何か心に訴えかけてくるものもある。
「いいと思います。その下に骨壺を埋めましょう。遺品は小箱に入れて取り出しやすい場所に置き、いつかこの街に遺族の方やお知り合いの方が来た時には、本人と確認出来るようにしたいですね」
「うん、石の小箱を作って墓石の前の地面に埋め込んでおこう」
割と驚いたのが、マホロたちにとって一般的な埋葬方法が火葬だったということだ。
しかも、骨は壺に入れてお墓に入れるというのも、俺にとって馴染みのあるやり方だった。
勝手に土葬だと思っていたから、棺を埋めるための広いスペースを勝手に想定していた。
それが骨壺だけなら、必要なスペースは相当小さくなる。
とはいえ、お墓をあまり詰めて作るのは考えものだし、余裕を持って間隔をあけるつもりだ。
せっかくスペースに余裕がある場所に霊園を作るんだからな。
「お墓自体のイメージは固まりましたね。後はどれだけ作るかですが……」
「……まずは五十でいってみようか」
墓石となる石板の3Dモデルを五十個作成し、縦に五、横に十、並べてみる。
墓同士の間隔もここで決める。
「こう言うのも何ですが……少ないような気もしますね」
「俺もそんな気がしてるよ」
この霊園には廃鉱山で亡くなった人だけでなく、街で亡くなった人も埋葬する。
俺がガイアゴーレムとして召喚される前にこの街にたどり着き、俺と出会う前に亡くなった方の亡骸を街で目にしたことがある。
その時は亡骸に覆いかぶさる瓦礫をどけて、とりあえず土を盛るくらいのことしか出来なかった。
でも、今は違う。この霊園で丁重に埋葬を行える。
街で亡くなった人の数も把握出来ていない以上、お墓はあえて多めに作っておく方がいい。
お墓が余ってしまったって、縁起でもないとか、
「……よし、百でいこう」
マホロが具体的な数を言うのに迷っていたので、俺が宣言する。
切りのいい数字だし、これ以上は俺もなかなか口に出せない。
ズラッと縦列を増やすのではなく、追加の五十はまた別の集団として、最初に作った集団の右隣に並べてみる。
2つの集団の間隔は広めにして通り道にし、墓参りのしやすさを考えてみる。
「素晴らしい配置だと思います。これだけ建てれば、とりあえずは大丈夫な気がします」
作っている物が物なので、マホロは普段より静かな口調だ。
それでも、いつも通りしっかり褒めて来るのがマホロらしい。
「壁も仮の状態で作っておこう」
百の墓石を囲う白い壁も3Dモデルで位置と形状を決めた後、実際に瓦礫を材料に作成する。
後は霊園の入口となる場所に門を設置するだけで、一応完成なんだけど……。
「仕方ないけど、殺風景になってしまうな」
「ですね……」
荒野に墓石を並べて壁で囲っただけだから、白以外に明るい色が何もない。
まあ、霊園に派手さはいらないと思うけど、いずれ花を植えたり、芝生を育てたり出来ればいいかもしれない。
「ちょっと気になるけど、見た目にこだわるのはやるべきことをやった後にしよう」
「そうですね。今から廃鉱山に行くんですか?」
「うん。マホロが相談に乗ってくれたおかげで、作業がサクサク進んだからね。まだお昼前だし、今からなら街と廃鉱山を二往復は出来そうかな。それですべての亡骸を持って帰って来れるとは限らないけど……どこかで始めないと終わりはないさ」
「すいません、一番辛いところをガンジョーさんに任せっきりで……」
「これは俺にしか出来ないことだ。マホロが気に病むことはないよ。それに俺はマホロの言葉にいつも力を貰ってるんだ。それこそ、魔力以上に俺の体を動かす力をね」
「私……そんなすごい言葉を言ってましたか?」
マホロは腕を組んで、真剣に今まで言った言葉を思い出しているようだ。
本人にその気はなくても、何気ない言葉に救われることはある。
「今まで通りのマホロでいてくれたら大丈夫。じゃあ、俺は廃鉱山に行ってくる!」
「はい! 頑張ってください、ガンジョーさん!」
マホロが街の防壁の中に戻ったのを確認した後、俺は再び廃鉱山に向かった。
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