第二十一話

「はい、小澤さん、真鍋さん、そして野上さんのうちの誰かが予備のキーを持ち出した。

 つまり三人のうちの誰かが犯人という場合です」


 新田は、困惑した表情で告げた。


「え? あの三人のうちの誰かが犯人? とてもそうは思えませんけど……」

「はい、今の段階では私もそう思います。ですから、あくまで可能性があるという話です」

「うーん、なるほど……。で、次はどうしますか?」

「はい、夕夏さんがもし殺されたのなら、その犯人はこのホテルの宿泊客の中にいる可能性もあります。ですから六人の宿泊客に話を聞きたいと思います」

「はい、分かりました。お供します!」と、二人は注文した飲み物を飲んだ後、レストランを後にした。


 そして取りあえず、一階にある101号室と102号室の宿泊客を把握することにした。


 101号室のドアの前に立った一柳は、早速ドアをノックした。

 すると少ししてドアが開き、ぼさぼさ頭の女性が顔を出した。髪は右から分けボリュームがあり、少しあごが出ていた。そして聞いてきた。


「あんた誰? 私に何の用?」


 一柳は宿泊客に言うべきセリフをすでに考えていたので、それを言った。


「お休み中、申し訳ありません。私は一柳、こちらは新田と申します。一つ伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」

「え? 何?」

「はい、今朝、折り紙の塔で死体が発見されたのですが、それについて何かご存じありませんか?」


 女性は、取りあえず答えた。


「折り紙の塔? ああ、そういえばホテルの隣に何か塔があったわね……。

 ふーん、あれ、折り紙の塔っていうの。で、何? 死体が発見されたって? いや、私は何も知らないわよ」

「そうですか。それで大変申し訳ありませんが良かったら、お名前を教えて下さらないでしょうか?」

「え? 名前? 別にいいけど。私は堀之内千穂ほりのうちちほ。これでいい?」

「はい、ありがとうございました。それではごゆっくり、お過ごしください」と一柳はドアを閉めた。


 そして新田が、ちゃんとメモを取っているのを確認すると、隣の102号室のドアをノックした。

 しばらくしても何の反応も無かったので、今度は大きな音が出るように少し強めにノックした。すると急にドアが開き、男性が顔を出して喚いた。


「何だよ、うっせーな! 俺は、まだ寝てんだよ!」


 男性は少し長い髪を後ろで束ねて、広いあごをしていてフチなし眼鏡をかけていた。


 一柳は、挨拶をした。


「お休み中のところ、大変申し訳ありません。私は一柳、こちらは新田と申します」


 一柳の丁寧な物腰に、男性も少し気を許した。


「お、おお、何の用だよ?」

「はい、今朝、折り紙の塔で死体が発見されたのですが、それについて何かご存じありませんか?」

「折り紙の塔? ああ、そういえばホテルの隣にある塔が、そんな名前だったな。

 何? 今朝、死体が発見された?! こうしちゃいられねえ!」と男性はドアを閉め、少しすると着替えて一眼レフカメラを持って出てきた。


 一柳は聞いた。


「あれ? どちらに行かれるんですか?」


 男性は、当然のことを言うように言い放った。


「どちらにって、折り紙の塔に決まっているだろ? 死体が発見されたんだろ?」

「はい、確かに」

「だったら取材するしかねえだろ!」

「取材?」

「おお、俺は浮島周作うきしましゅうさく。フリージャーナリストだ。じゃあな!」と浮島は、折り紙の塔を目指して駆け出した。


 一柳は新田に言った。


「フリージャーナリストですか。初めて見たような気がします」

「私もです」

「ま、いいでしょう。次は二階の201号室へ行きましょう」と二人はエレベーターに向かった。


 そして二階でエレベーターから降りると201号室の前に行き、早速ドアをノックした。

 少しして何の反応も無かったので、再び大きな音が出るように少し強めにノックをした。しかしやはり、何の反応もなかった。


 一柳は言った。


「うーん、どうやらここは留守みたいですね。隣に行きましょう」


 そして202号室のドアの前に立つと早速、ノックをした。するとすぐに

「はーい」と若い女性が顔を出した。前髪は右に流れていて髪は肩までの長さがあり、あごは短めだった。


「お休み中、大変申し訳ありません。私は一柳、こちらは新田と申します」


 若い女性は、少し怪訝な表情になって聞いてきた。


「はい、一体、何でしょうか?」

「はい、実は今朝、折り紙の塔で死体が発見されたのですが、それについて何かご存じありませんか?」

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