ブルーノート

古朗伍

プロローグ

 この世で一番強いヤツは誰だ?


 情報屋にその事を求めるのは、ある意味金を無駄にする行為だった。

 何故なら、誰もが口を揃えてこう言う。


 暗黒街に住む“クティノス”に勝てる生物は世界に存在しない、と――






「やぁ、久しぶりだね。クティノス」


 クティノスが行きつけの酒場で酒を飲んでいた所に一人の優男が声をかけてきた。


「消えろ」


 友好的な笑顔の優男を見てるが、クティノスはそう吐き捨てて視線を外す。


「ハハ。君の罵倒は逆に安心する」

「おい、隣に座るな」

「マスター、一番高い酒を一つ。彼にも」


 何がクティノスの逆鱗に触れるのか解らない。

 カウンターの席に隣り合って座る二人を、他の客は腫れ物を触るようにハラハラして見ていた。


「君は相変わらずだ。相変わらず“最強”であるらしいね」

「……有象無象のカスばかりだ」

「メデューサを倒したんだって? アレは『神話生物』の類いだよ?」

「そこらの蛇と同じだ」

「そう言えるのは君くらいさ。誰もが君の強さを羨ましがる」


 すると、マスターが注文の酒を二人に各々置く。


「回りくどい言い回しは止めろ。不愉快だ」


 そう言ってクティノスは出された酒に手をつけず席を立った。


「僕の奢りなんだけど、せめてこの一杯を飲み終わるくらいの間は話を聞いてくれないかい?」

「……」


 すると、クティノスはカウンターに戻るとおもむろに酒を手に取り一気に飲み干した。


「じゃあな」


 空になったコップを叩きつけるように置くと、有無を言わさず帰ろうとする。

 その彼の背に優男は嘆息を吐きながら告げる。


「君の名前を出している“奴隷”がいる」


 すると、クティノスの足が止まる。


「どこのどいつだ? そのバカは」

「だよね。君の名前はある種の禁止札ジョーカーだからね。君を知ってるなら普通は使わない。逆に君を知らないなら使いようがない」


 クティノスは踵を返すと元の席に不機嫌そうに腰を下ろす。


「ジェンダー、お前の話を聞いてやる」


 優男――ジェンダーは同じ酒をもう一度注文してクティノスへ奢る。


「僕も顔は見たんだけどね。蒼髪の可愛い女の子だったよ」

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