第102話 Fランクは運ばれる

 公爵家が出してくれた大人数用の馬車がガタゴトと音をたてながら走っている。


 普段俺を迎えに来てくれる馬車が乗用車なら、この馬車はワンボックスカー……いや、マイクロバス? とかかなぁ。


 あ、おはようございます、タイシです。


 昨日は雨が降っていたので、外にも出かけずにお屋敷の中で過ごしました。

 ピンクの提案した農家の大人な休暇の過ごし方は却下し、お屋敷に残されていたボードゲームなんかで遊ぶ事にした。

 そんな日の夜に公爵家から明日早朝に迎えがくると伝言を受けた。


 そしてあくる日の早朝が今で。


 朝からお屋敷に、公爵家からこのマイクロバス的な椅子が何列も連なっている大き目な馬車がやってきて、侯爵家の迎えが来ている所まで送りますときたもんだ。


 事前に荷物はまとめていたが、冒険者ともなると鎧櫃よろいびつなんかも必要で、結構かさばるんだよね。

 正直な話、いつもの街中用お貴族様仕様馬車だと狭かっただろうなとは思う。

 そこらへんをちゃんと考えてくれる公爵様はさすがというべき……セバスさんの指示かも?

 ついでに公爵家に預けてあるレシピ貯金からいくらか引き出した分を、迎えの人から貰っている。


 向こうで金が必要になるかもしれないからね、昨日の夜に来た使いの人にセバスさんへの伝言を頼んでおいたんだよね。


 今この馬車の中には俺と『五色戦隊』の皆しかおらず、お迎えの人は御者と兼任しているので、馬車の外で操縦中だ。


「二区に向かわずに三区の北東に向かっているっぽいわね」

 レッドが馬車の外の景色を小さな窓から眺めながら言った。


 北東? 侯爵家の迎えとやらは公爵様の館にはいないのかな?


「北東って確か……川に面した大規模な船着き場があるんだっけか?」

 あまり詳しい内容までは知らないのだけど、狩場を調べる時とかに軽く説明は受けているからなんとなくの情報は知っているのだよな。


「ええそうですタイシさん、僕も親に連れられて一度だけ行った事がありまして、船がたくさん川岸に並んでいて、荷運び人がいっぱいで、すごい賑わいでしたよ」

「北東の船着き場は三区とはいえかなり遠いですし、私やレッドは行った事がありませんねぇ……」

 王都に住むブルー君とピンクだが、二区の商売人と三区の農家では親の行動範囲も違うのだろうな。


「前に僕達家族が王都に来た時は船を使ったから、一度だけ利用した事があるかも……何年も前の話なんでよく覚えてないけど……」

「交通の要所」

 イエローは使った事があるんだな、そしてグリーンは単語しか言わねぇ……。


 そういやココは王都生まれじゃないとか言ってたっけか? 引っ越してきたのかな?

 まぁそんな事は置いておいて、船着き場に向かっているという事は。


「船で移動するのかもな……確かエルフの侯爵領は川向こうのずっと東の方なんだっけか?」

 冒険者ギルドの図書館にある地図だとさ、広い範囲の地図は縮尺とかがすげぇ大雑把なんだよな。

 戦略上わざとそうしているのかもしれないけど、地図ごとに大陸の形が違っていたりするからな……。


「船かぁ……昔ピンクと一緒に溜め池に浮かぶ小舟に乗った事があるくらいかも……」

「あの時は怖かったです……レッドがわざと小船を揺らすから私は泣きながら小船のへりを掴んでいたんですよ……」


「あ、あれ? そうだっけ? うーん……小さい頃の話だからよく覚えてないわね」

「私はきっちり覚えていますので、どれくらい怖かったか話して聞かせましょうか? レッド?」


「あはは……えっと……ごめんなさい!」

 レッドとピンクは子供の頃の事を思い出し、レッドがピンクに頭を下げる事態になっている……何してんだか……。


 ……。

 ……。


 ――


 三区をぐるりと一周する環状道路を時計と反対周りに移動する事しばし、お昼にならないあたりに王都北東にある船着き場とやらに着いた。

 そこは船着き場に荷揚げされた荷物を移動させる荷馬車や、肉体労働者である荷運び人が沢山行き来していて、ここまでの賑わいはこの世界に来てから初めてかもしれない。


 冒険者街の屋台街や市場もそれなりに人は多かったけど……これにはかなわないかなぁ……。

 日本のイメージで言うと渋谷のスクランブル交差点みたいに人がわらわらと蠢いているって感じかねぇ?

 ……まぁ、渋谷には優良なダンジョンがあったから訪れる人が多いってのはあるんだけどさ。


 でまぁ、そんな船着き場には船がずらりと連なっており……建物とかが邪魔で端から端までは見えないけど……帆船が何隻あるんだろ……たぶん百以上はあるよな。


 ガレー船のような手漕ぎ型の船はないのかな? 川を遡上するのに帆船ってどうなんだろ……まぁ王都に隣接している川は川幅がキロ単位くらいあるっぽいから流れも穏やかなのかもしれないけど。

 実は今回初めてこの大河を直接見たんだよね。

 川の対岸がよく見えないというか……日本みたいな島国ではありえない風景だよな。


 そうして大賑わいな船着き場周辺を馬車が通り抜け……船着き場の中でも整備が行き届いた感じの場所へと辿り着く。

 ここに着く前に関所を通過したので、たぶんお貴族様専用エリアとか、そんな感じの場所だと思われる。


 停泊している船も奇麗で、船首にある女神像なんかも、俺の中の〈彫刻〉スキルが唸る程の出来だったりする。


 俺達がお貴族様所有らしき船なんかを順番に観察して楽しんでいると、馬車が止まった。

 公爵家の御者さんに促されて馬車を降りた俺達の前では、何人ものエルフが一つの船の周りで作業している。

 恐らくあれが俺達の迎えで、出航の準備をしているのだと思われるのだが。

 ……他の船に比べて帆が少ないし、帆船というよりは宿泊施設も付随してそうな大型木造クルーザーといった方がイメージしやすい形かも?


 っと、俺たちが周りと比べて少し毛色の違う船を眺めていると、一人のエルフさんが近付いてくる。


「お久しぶりですタイシ君様」

 近づいて挨拶してきた赤髪のエルフさんは……えっと……お久しぶり?


 誰だっけ……。


 ……。

 ……。


 ……えーっと……赤髪の騎士っぽいエルフ女性……あー! はいはいあの時の。


「こんにちは、チョコパーティの時以来ですね」

 確かココの頼みでチョコパーティをした時に、途中参加してきた銀髪エルフ少女や妖精の護衛だった人だよね?


 銀髪エルフ少女は、侯爵様である銀髪お母さんエルフの娘さんだから、お偉いお貴族様だったんだよなぁ……しかも俺が求婚したみたいな事になっていて……あの時の侯爵様からの殺気は痛かったっけか……。

 チョコ塗れになっていたフィギュアサイズの妖精は……どういう地位なのかは聞けてないのでまったく分からん。


「このたびタイシ君様の案内役を侯爵様から仰せつかりました××××と申します、どうぞよろしくお願いします」

 赤髪の護衛役だったエルフさんは、胸に手をあてる貴族式の礼をしてきた。


 だがしかし……『女神の軌跡』クランではなく俺個人のか……まぁ皆はおまけとして見られているって事だよな。


「ええ、俺と皆の案内、よろしくお願いしますね赤髪護衛エルフさん」

 連れもちゃんと案内しろよ? という事を言外に含ませながらも笑顔で挨拶を交わしていく俺だった。


 ……。

 ……。


 他の皆もそれぞれが赤髪護衛エルフさんに挨拶して、赤髪護衛エルフさんもちゃんと皆に丁寧な挨拶を返していたから……杞憂だとは思うけどね。


 ……というかグリーンがしっかり挨拶出来た事に驚いた。

 まぁグリーンの表情が観音様みたいになっていたから……人見知りを無心になる事で抑えていたんだろうなーとは思った。







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