第77話 Fランクと様式美
教会でのテイムカードのお披露目も無事に終わり。
さらに、近所にコンビニ的な物を作ろう計画のために始めた、新式屋台の初日の営業も問題なく終わった。
コッペ黒パンの燻製肉サンドやポテサラサンド。
そしてパイタンスープや野菜果物ジュース。
さらに普通の串焼き。
これらはすべて大いに売れに売れまくって……初日の広告としては十分な効果があったと思う。
明日からは参拝者向けになるだろうから、あそこまで忙しくはならんと思う。
味の方も好評で、三区では見かけない燻製肉も受け入れられ、そして塩味だけのマッシュポテトに慣れた人達にはマヨネーズの味付けは驚愕の一言だったようだ。
まぁ冒険者の中でも裕福な層は、高級な食事処とかでマヨネーズに出会った事もあるみたいだったけどもね。
そして、野菜果物ジュースも女性陣を中心に好評だった。
勿論、購入者から問われるお肌や髪やらに対する効果への質問に対しては『分かりません』で通させた。
営業開始時にやった『三人が狩る』とのステマな雑談内容が噂として残っているようで……まぁ肉やパンだけを食う生活よりかはお肌にも効果があると思うけど……あまり大げさに語られないように注意しないとな。
肉の串焼き?
……うん、まぁ冒険者って肉串好きだからね……『これは普通の塩味なんだな』という感想を言われつつも、普通に売れていた。
そして、器返却で渡すジャーキーなのだが……。
ジャーキーその物を売ってくれという声が多くてねぇ……そのうち教会で大規模に制作してジャーキー単独でも販売を始めるかもしれない。
その干し肉は買えないのか? みたいな質問が多かったみたいなんだよね。
なので、『ジャーキーは今の所、器の返却に応じて渡すだけです』と返事をさせているので『ジャーキー』という名前が広がるんじゃねーかなぁと思っている。
このジャーキーと、パンに使っている燻製肉とは調理手順が似ているし、味付けを一緒にしちゃっているので、コストもかなり抑える事が出来たんじゃねぇかな?
ま、後の事は教会の方にまかせるかね、俺は指導者や先生という立場から、助言者へと移行していくつもり。
新しいメニューの屋台を出す時は一緒に考えてあげると、ハゲ司祭さんに伝え済みだ。
……。
とまぁ、今日の出来事を自室の仕事部屋のソファーに座って考えていて。
すでに夕飯も食い終わり、後はしばらく時間を潰してから寝るだけだ。
レッドやピンクもそうなんだが、三区の人達って日が落ちると早めに寝ちゃうのよね……明りの燃料代が勿体ないという生活をしてきたせいもあるんだろう。
こちらの人達の使う〈生活魔法〉にも明りを作り出す能力はあるのだけど、俺のと比べると『カンデラ』や『ルーメン』や『ルクス』が低いというか……うん、ごめん、ちょっと光の強さの単位を使ってみたかっただけで、特に意味のない思考だ。
照明の魔道具はこの家に付属というか、壁に組み込まれているものは残されていたから、魔石を消費すれば夜更かしも問題なく出来るのだけど……無駄遣いを嫌う子達が揃っているのよねぇ。
ブルー君は商売人気質で経費削減を考えるし。
レッドとピンクは三区の出身でもともと早寝だし。
グリーンは清貧を是とする教会に所属している訳だし。
そしてイエローだけが、燃料費の事を気にする事がなかったんだけど、ここでの生活で庶民の暮らしの常識を少しずつ理解していくだろうさ。
そして今は、お風呂に入るべく女性陣が準備している。
だからこそ俺は風呂が併設されている寝室から追い出された訳だし……。
俺の部屋なんだけどねぇここ。
そんな時、仕事部屋の廊下に繋がる扉がガチャっと開かれ、そこから中に入ってきたのは。
赤い髪をポニーテールにしたレッドと、ピンク色の髪をミドルボブヘアにしたピンクである。
二人はその手に、畳まれた布やなんかを持っていた。
お風呂に入った後の着替えとかタオルとかだろうか?
レッドとピンクは俺が座っているソファーの近くを通りかかりながら。
「お風呂は覗いちゃ駄目だからね~タイシ」
「そうですよタイシさん、覗いたらその場でお婿さん決定ですからね? ……あれ? それなら覗かれた方がいいかも? ……いつでも来ていいですからね! タイシさん!」
「二人共ゆっくり温まってきな」
俺はピンクの言動をスルーし、ソファーに座りながら手を振る事で二人を寝室方面に送り出す。
「そういうのはもうちょっと後にしなさいよピンク」
「レッドがそう言うのなら……ではタイシさんまた後で」
そう言って二人は寝室の扉を開けて中に入っていった。
イエローはお風呂にお湯を張ったりしているはずだし、荷物も寝室にあるから、後はグリーンか?
っと、また廊下側の扉が開くと、緑色のロングヘアをうなじあたりで紐を使ってまとめているグリーンが部屋に入ってきた。
いつもの教会服から寝間着用の簡素な服に変わっている。
もう寝間着を着ちゃうって、お風呂は?
「風呂は入らんのか? グリーン」
グリーンは俺が座っているソファーの空いているスペースに腰掛けると、半身になって俺に向き合い、顔を左右にゆっくりと振りながら……。
「あのノリは無理……昨日ので学生時代の修学旅行とかを思い出した……黒歴史」
風呂に入るだけで思い出す黒歴史って何だ?
「一体グリーンの学生時代に何があったんだよ……まぁ……風呂は一人でノンビリ入りたい時もあるから、気持ちは分からん事もないけどな」
「タイシお兄ちゃん? その言い方だと……誰か一緒にお風呂に入る人がいるの?」
グリーンが無表情になった顔をコテッっとナナメに倒しながら聞いてくるので、俺はそんなグリーンのオデコにデコピンをしながら。
「おまえはメンヘラな妹か何かかよ……顔が怖えよ、さっきのは一般論だよ……」
と、いう事にして誤魔化しておいた……危ない危ない。
「イタッ……そういう事にしておいてあげる……私の日本でのお兄ちゃんも姪っ子とお風呂に入った時の事を楽しそうに話してくるの……そんな事よりもっと妹を構えって思わない?」
……なあ、それってさぁ、グリーンの兄とグリーンの姪っ子だとすると、そのお兄さんが自分の幼い娘を風呂に入れてあげてただけの話だよな?
……ブラコンを拗らせてるよなぁこいつも。
「まったく思わんが、まああれだ、皆と風呂に入らないのなら、この部屋に備え付けてあったボードゲームでも俺とやるか?」
この家を買った時に生活雑貨なんかもある程度残された状態だったので、そういう安めの品物なんかは色々と残してあったのよね。
高く売れる物は回収されていたっぽいので、本とか万年筆とか紙とかは残されてなかった。
他にも置物が置いてあったっぽい場所が空だったりね。
グリーンは俺の提案に対して首を振って否定すると、俺の目を真っすぐと見つめてくる。
「遊ぶ前に伝るべき事があって、女神様からタイシお兄ちゃんに神託による伝言が来てるの」
ほう、カードに関する事か何かかな? まさか新たなアップデートの告知とか?
さすが良運営な女神だ……なんちゃってな。
「へぇ、それで女神様は何て?」
「コホンッ、えーと『テイムカードに対する人々の反応を注意深く検証してから、世界に魔物カード化を実装する事になるのだけど、タイシがどーーーしても早く実装して欲しいというのなら、この! 賢くて! 麗しくて! 優しい女神様が! 眷属神達にそういった提案をしてあげてもいいわよ? 勿論! 対価はきっちり頂くけどね? そういえばこの間奉納されたチョコのお菓子は美味しかったわねぇ……また誰かがあれくらい美味しいお菓子をたくさん奉納してくれないかしらねー? チラッチラッ』以上です」
なげーよ!
「なげーよ!」
おっと、心の声がすぐさま声に出てしまった。
「というか、女神様からの神託ってのは文字数制限があるんじゃねーのか?」
確かそんな事を女神が言っていた気がするんだけども。
「数十回にも及ぶ女神様からの神託が聞けて嬉しかった……やはりタイシお兄ちゃんの側にいる事こそが至高」
……さっきの伝言は神託を繋ぎ合わせたのか……。
「……数十回の神託の内容を暗記したのか?」
グリーンは確か、記憶力を上げる系のスキルは持ってなかったはずだよなぁ?
「最初にメモを取れという神託がきた」
そっか……。
やはり、あの女神が相手だと、信仰心の欠片も湧いてこないよな……。
「その内容の神託伝言ゲームを受けても、まだ女神を推すのか?」
内容がアレだし、グリーンの女神に対する好意が反転とかしかねない気もするんだが。
「フレンドリーに接して来ているけども、女神様のおっしゃりたい事を要約すると『タイシのために世界に早くカードドロップ機能を実装してあげるからね? 一方的に施されるとタイシが恐縮しちゃうし、お菓子のためっていう建前にしておくわ、か、勘違いしないでよね!? タイシのためだけにやるんじゃないんだからね!?』という事になる、やはり女神様は優しくて素晴らしい存在」
「要約すると言いつつ、何故新たにツンデレの要素をぶち込んだんだ?」
「様式美?」
「そういう物か?」
まぁ確かに内容だけ聞くと、魔物カード化現象を世界に実装する時期を早めてあげる、と聞こえなくもないけど……。
推しの女神が大好きなグリーンフィルターを通すと、どんな言葉でも良い感じに変えられちゃいそうだよな……。
ちなみにこの後、グリーンといっぱいボードゲームで遊んだ。
俺というお兄ちゃんにいっぱいかまわれたグリーンは大変満足していたようで……ブラコンを拗らせてるなぁと思う俺であった。
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