第41話 Fランクの価値

 おはようございますタイシです。


 今日は早朝から『女神の軌跡』クランの本拠地となる俺の家に来ています。


 見習い宿舎の管理人でもある教官には、宿舎を出る事は挨拶と共にしてある。

 見習いのFランクがクランを作り、拠点をすでに購入済みな事に驚いていた。


 お世話になりました教官、それとちょっとお聞きしたい事が……。


 ……。


 ブルー君にはクランの副リーダーとして、冒険者ギルドに拠点の場所の報告をして正式な登録をお願いしておいた。

 設立に関しては登録料に数百エルかかるくらいで済むのが良いね。


 まぁ実績も何もない俺達のクランには、ギルドからの直接依頼とかはないだろうけども、『四色戦隊』と俺が一緒にいられる理由なだけなので、それは別に構わんだろうて。


 レッドとピンクには食材のお買い物を頼んだ。

 屋敷の倉庫にあった手押し車を使い、日持ちがする食材とかを一月分くらい。

 それと今日のお昼用の角ウサギ肉とかもいっぱい買ってきて貰う。


 朝こちらに来るついでに、皆で持てる分くらいは買ってきたんだけど、食材の備蓄はもっと欲しいからね。


 そして子供達を受け入れるべく、使用人用のトビラを開けて道の方を見ながら待つ事しばし。

 教会の方から幼児から成人したくらいの子らがずらずらとやってくる。

 そう、ずらずらずらずらと……ちょっと待って?


「何人いるんだこれ……?」


 そう呟きながら横にいたグリーンを見る俺。


「孤児全員よりは少ないと思う、予算増額に伴って集めた孤児達は、まだ躾が出来てない子もいるから……」


 グリーンは俺の呟きにそう応えてくれた。


 確かに何人でも良いって言ったけどさぁ……うぐぐハゲ司祭さんめ……。

 俺がこの状況にどう反応するか試している可能性も?


 ……いいよ来いよ!

 タイシ有言実行する男だから!


 でも食材はさらに買い足す必要がありそうだな。

 あ、そうだ! 朝早くから天然酵母を使って作ったナッツ入りライ麦黒パンも作り足さないと!


 子供達を全員屋敷の敷地内に受け入れて使用人用のドアを閉める。


 入口のドア型魔道具に登録してあるのはクランのメンバーだけだから、子供らは自由に出入り出来ない。

 外側に呼び鈴もついていて対応する鈴型の魔道具から音が鳴るようになっている。

 いくつかある鈴型魔道具は俺の腰にぶらさげたり、屋敷の主要な場所に設置してある。


 子供らは一階の多目的ルームに一旦全員入って貰う。

 何もない部屋にずらっと並ぶ子供達。


 田舎にある人数の少なめな小学校の朝礼かな? といった感じで、五十人以上いるよねこれ。


 そこに十三、四歳といった所の金髪ショートの女の子が声をかけてくる。


「初めまして雇い主様、私が今回の仕事のまとめ役をさせて頂きます×××と申します、早速初めてもよろしいでしょうか?」


 丁寧な言葉遣いに礼儀作法、教会でずいぶん仕込まれているようだ。

 きっちり躾がされているんだなぁと、ウンウンと頷いて感心している俺だった。


 俺がその子に『頼むよ』と返すと、部屋に置いてあった箱のような足場に乗ったその子は。

 きっちりと整列して並んでいる子供達に向かって、校長先生のように向かい合い。


 そして金髪ショートの女の子は息を大きめに吸うと。


「いいかおめーら! 孤児達にまともな仕事ときっちり報酬を支払ってくれる人なんて滅多にいねーんだ! こんな金づ……貴重な篤志家の方に迷惑かけたり半端な仕事をするんじゃねーぞ! きっちり仕事をこなして認めて貰い次の仕事も貰うぞ! 分かったなおめーら!」


 威勢よく子供達に発破をかける女の子だった……。

 さっきまでの俺の感心を返して欲しかった。


 それと君、いま金蔓かねづるって言いかけなかった?


 しかして子供達は。


「「「「「「「「はい! あねご!」」」」」」」」

「あねご~」「おねぇちゃん」「がんばるの!」「おねぇちゃんおしっこ~」


 ある程度以上の歳の子らはしっかりと返事をし、小さな子は……って三歳くらいの子とかもいるね……いやまぁいいけどさ。


 そんな小さい子達に金髪ショートの女の子……アネゴちゃんは怒ったりせず他の子にトイレにいかせたりと指示をパパっと出している。


 子供達も班がすでに決まっていたようで、班長達へと矢継ぎ早に指示を出し全員を庭に送り出した金髪ショートのアネゴちゃん。

 いやーすごい指導力で、子供達の動きがキビキビとしていて心地よい。


 子供達全員を送り出したアネゴちゃんが俺に近寄り。


「では始めさせて頂きます雇い主様、抜いた雑草は何処に集めておいたら良いでしょうか? なんなら教会の方で処分しますけれど」


 と聞いて来たので、雑草は隅っこにでも山にしておくように頼み。


 ついでに、俺らしかいない時は言葉遣いは普段通りでいいよと言ってやる。

 だってアネゴちゃんの肌に鳥肌がたっているんだもの……どんだけ無理して丁寧な言葉遣いをしているんだか。


「いいの!? ありがとう雇い主様……いやタイシ兄貴! さすがクランリーダーになるような人は器が広いね、いやー司祭様に言われて丁寧な言葉を使ってみたけど鳥肌立っちゃって痒かったんだよ、あんがとタイシ兄貴、それに聖女様もありがと、今回の事を勧めてくれたんだってね……いつも差し入れとか本当にありがとうございます」


 アネゴちゃんはグリーンに向かって深々と頭を下げている。


 それを受けてグリーンは困り顔でオロオロしている。

 人見知りなのに孤児院への支援とかもやっていたみたいだな。


「んじゃ皆への指示出しや監視もあるんで、あたいは失礼しますタイシ兄貴!」


 アネゴちゃんは短い金髪を跳ねさせるような勢いで部屋を駆け出て行く。


 さて、グリーンには裏庭で作業の監視を頼み、俺は食事作りをするか。

 グリーンは首を横にフルフルしてたけど、観念しなさい子供相手なら多少は話せるんだろ?

 雇い主側が孤児達の仕事を見ているって事が大事なのよ、そうじゃないと後でボーナスをあげられないじゃんか。


 仕事の進み具合によって賃金の増額はありという約束だったが、進み具合を決めるのは雇い主、つまり俺だ。

 なので始める前から全員の賃金がプラス一エル以上される事は決定しているのです。

 基本賃金は一般的な額にするけどね。


 なのでグリーンは頑張って端っこで確認する事。

 あと子供達が無理をして倒れられたら嫌なので、そのあたりも注意する事、おっけー?


 グリーンは子供が倒れるかもという話を聞いたら、覚悟を決めて裏庭に出ていった。

 よろしくねグリーン。


 さて俺の仕事場は厨房だ。


 朝買ってきた麦粉を追加で発酵状態に持っていかねばな。

 スキルをふる活用して天然酵母を使ったナッツ入りライ麦黒パンを作っていく。


 ふふん、ふんふ~んふ~~ん。


 ハハンハンハ~ン、ライ麦六わりこむぎ四~くだいた~ナッツも入れちゃおっかな~っふふん~ふ~ん、にほんのパンよりかったいけど~もっちりしってて~おいしいぞ~ふんふんふ~んハチミツさとうにヨーグルト~あまさがやさしく付きまして~ふんふんふ~ん。



「今日も鼻歌でノリノリだねタイシ、買い物してきたよ!」

「今日は黒パンの歌ですねタイシさん! プラス十ポイントです! 私は串焼き肉の歌も好きなんですけど」


 レッドとピンクが帰ってきたようだ。


「おうご苦労さん、んじゃ食材倉庫に運んでおいて、野菜やお肉はそこに置いとく感じで……ふむ、悪いんだけど肉だけ追加でもう少し買ってきて貰えるかな? お子様達五十人以上来たのよ」


 厨房のテーブルに積み重なっていく食材や調味料を確認するが、肉がちょっと足りなそう。


「ええ? そんなに来たの? それじゃすぐ行こうピンク!」

「了解レッド! じゃぁちょっと買い足しに行ってきますねタイシさん」


 急ぎなのを理解しているのか、雑談もそこそこに足早に買い物に行く二人。

 よろしく~と手をひらひらさせつつ二人を見送る俺。


 だがしかし、スキルを使って肉の下処理はすでに始めている。

 両手を使わずに調理できるって楽だよね。

 日本式〈生活魔法〉さん、本当にありがとう。


 パン生地をコネコネして、発酵はスキルを使って時短するしかねーかなぁとか考えつつ、作業を進めていく俺、ふふんふんふ~ん。


 ……。


 ――


 お昼になった。


 ブルー君やレッドやピンクも帰ってきているので、各自仕事を手伝って貰う。


 ブルー君とレッドは孤児達の仕事の監督で、ピンクとグリーンは調理の手伝い。

 グリーンも手慣れているし二人共手際もそこそこ良いので、頑張ればいつか調理系スキルが発現するんじゃないかなー。


 お屋敷の一階にある食堂だが五十人だとさすがに狭い。

 申し訳ないが大きい子達は立ったまま食べて貰う事になる、すまんね。


 みんなの前にはナッツ入り黒パンをスライスした物が三切れと、大き目に切ったウサギ肉の串焼きが二本、それとリトルボア肉と野菜のスープだ。

 スープは味噌味じゃないけども豚汁っぽいイメージで作ってみた。


 ……しかし皆困惑してご飯に手を出さない。


 子供たちが食べないからレッド達も食べられなくて困っている。


「どうした? 食べないのか?」


 俺は子供らにそう呼び掛けると。

 何故か覚悟を決めた表情をしたアネゴちゃんが俺に向かって。


「あ、あのタイシ兄貴! こんな豪勢は食事をあたい達が頂いていいの? それに……もしかして今回の賃金って……この食事なのかな……?」


 声がだんだん小さくなっていくアネゴちゃんだった。

 あーなるほど、食事代を賃金から引かれるんじゃないかって思っちゃう文化だったか……。


 いよっし!


 スキル〈ガイド〉さん発動!


「賃金はしっかり別に払うつもりだ! しかも皆頑張って仕事をしていたし、午後も同じような仕事ぶりなら賃金の増額も考えている! 心配しないで食え、この食事は俺のおごりだと思え!」


 〈ガイド〉さんのおかげで俺の言葉にほんの少し説得力が追加されたはずだ。


 ちなみに俺自身が相手を傷つけると思うような言葉だと、このスキルは発動しない。

 つまり悪い事には使えないスキルって事だ。


 俺の言葉を聞いたレッドがすぐさま大きな声で。


「美味しそう! ありがとうタイシ! いただきまーす!」


 そう言って食べ始めた。

 ……レッドは察しの良いええ子やでほんま。


 ブルー君やピンクもレッドの行動の意味を理解したのか、大きな声で頂きますと言って食べ始める。

 グリーンは小さい声で言っていた、頑張ったね。


 アネゴちゃんもブルー君達の行動で察したのか、子供達に向けて大きな声で。


「おめーら、タイシ兄貴の奢りだ! 感謝して食べるぞ! 今日も糧を得る事が出来る事に女神様とタイシ兄貴に感謝の祈りを捧げ……頂きます!」


 そう皆を促して食べ始めた。


「「「「「「「女神様とタイシ兄貴に感謝の祈りを捧げ頂きます!」」」」」」」

「いただきますなの」「たいしあにきあいあと」「いのるの」


 子供達も一斉に食べ始める。


 ……いや、女神と同列に置いて感謝しなくていいから……。

 そうして始まったお昼ご飯。


「うっま! 何これタイシ! 肉とかはいつも通りの美味しさだけどパンがすっごい美味しい!」

「スープにつけなくても食べられちゃいますね……ほんのり甘さもあってモッチリした感触も……タイシさん五十ポイントアップです!」

「これって……二区で食べられている白パンに似ていますね、でもこれは黒いし材料が小麦だけじゃない? どちらにしろ発酵パンのレシピは秘蔵のはず……」

「おいしぃ」


 ブルー君達はほどほどに驚き。

 アネゴちゃん達は……。


「なに? これなに? パンが柔らかい……ナッツの歯ごたえとローストされた良い匂い、そしてほんのり感じる甘さと……スープも美味しいし……串焼き肉も祝祭の日に食べた事のある味と違う……ここは女神様のいらっしゃる天界だった? タイシ兄貴は女神様だった?」


 アネゴちゃんが混乱の状態異常にかかってしまったようだ。

 誰が女神やねん、あんなお菓子好きの食いしん坊と一緒にしないでくれよ。

 しかしアネゴちゃんは、まだましだった事を俺は知る。


「「「「「ぐすっ……おいしいよーうぁぁーん……」」」」」


 ……待って? なんでご飯を食べたら美味しいと言いつつ子供達が泣いているの?


 タイシ理解出来ない。


 小さい子らは素直に美味しいと食べているのに、中くらいの子や大きい子も少し泣きながら食べている……どういう事?


「タイシさんも罪な事をしますね」


 ブルー君がそう言って来るが、どういう事?

 話の先を身振りで促すと、ブルー君はナッツ入り黒パンをジッと見ながら。


「彼らは気づいてしまったんですよ、今までの自分達の生活は最低だった事に、いえ気づきというより勘違いと言うべきかもしれません、この食事が冒険者街の普通だと思い……それに比べて自分達は……と悲しくなってしまったのでしょう」


 俺の心に矢が刺さる、すごくイタイ。

 そうか……知らない事が幸せな事もあるんだな……食事が美味しすぎる事が彼らを悲しませる事になるなんて……。


 ……。


 ……ってタイシ悪くないじゃんこれ! 知っている方が良いに決まってらぁ!

 はいはーい、シリアスさんは即しょーりょーでーす。


 俺は大き目な声でブルー君と雑談する事にした。

 他の子に聞こえるようにって事ね。


「それでブルー君! 新作のナッツ入り黒パンはどうだった? 原価が冒険者街で売っているパンの数倍以上しちゃうと思うんだけど、あそこで普通に食べられているパンよりは美味しく出来たと思うんだが?」


 ブルー君は俺の思惑に気づいたのか、やはり大き目の声で返事をくれる。


「そうですね、原価が数倍なら売る値段は冒険者街の五倍以上にしたい所ですが……パン一個五エルは出し辛いですね、こんなに美味しいパンは僕も二区くらいでしか食べた事がないですし、三区では初めての味ではないでしょうか? でも五倍の値段では売れないでしょうし……商品としてなら失格です」


 さすがブルー君やるなぁ、俺はそのまま畳みかける。


「そうかぁ三区で一般的に食べられているパンの代わりにするのは無理か……五倍の値段じゃなぁ、まぁ調理系スキル持ちの俺が作ったパンなのだから三区のどの店より美味しい自信はあるけどな! 串焼きだってスープだってどの屋台より美味かっただろう?」


 ブルー君も続けて周りに聞こえる声で返してくる。


「ですね、さすが『鼻笛料理人』の二つ名を持つタイシさんです! 調理系スキルを複数持つ料理人が作る食事なんて、普通の人は毎日食べたり出来ませんしね、この美味しさなら冒険者街の屋台で数倍の値段がしてもおかしくないですよ、僕たちはそんなすごい料理が食べられて幸せですよ、ありがとうございますタイシさん」


 ちょいちょいちょーい! ねぇブルー君?

 俺の二つ名をわざわざ言う必要あった?

 ねぇねぇ、そんな必要あった!?


 俺達のそんな雑談を聞いている子供達、大きい子達は何となく特別なご飯だった事に気づき泣き止んでいる。


 アネゴちゃんも状態異常から立ち直り、俺に質問してくる。


「あ、あの! タイシ兄貴、それならこの食事は冒険者街とかで皆が普通に食べているような食事じゃないって事なのかな?」


 うむうむ気づいてくれたようで良かった。

 最後に駄目押しをしてしまおう。


「そうだな、俺のような調理系スキルを複数持つ、二つ名が『料理人』タイシが作る料理なら、お前らが食べている一人前で五十エル以上はお代に貰いたい所だな!」


 ちょっとお代を盛って伝えてみる事にした。

 それを聞いた子供達も自分の勘違いに気づいてくれた事だろう。


 ただしアネゴちゃんは。


「そうかぁ、そんな高いのなら……ってタイシ兄貴! そんな高いの私達が食べていいの!?」


 違う意味で混乱し出した、うーむアネゴちゃんは状態異常耐性の低い子だな!

 しょうがないから再度フォローする俺だ。


「料理の値段ってのは料理人の腕、つまり手数料がそれなりに入っているもんなんだよ、最初に言っただろう? 俺のおごりだって! 俺が作ったんだから高くするもおごるも俺次第なんだよ、心配すんな! いいから気にせず食え! もう一度言うぞ? 俺のおごりだ!」


 そうセリフの中で〈ガイド〉さんを再度使いつつ子供らに声をかける。

 アネゴちゃんは、感極まったのか。


「タイシ兄貴! あたい一生ついていきます! うぉぉ~んおいしいよ~!」


 違う意味の涙を流し、食事を再開するアネゴちゃん。


 どうやら俺に舎弟が出来たようだ……いや、タイシ、舎弟とかいらないよ?

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