現代ファンタジーから異世界ファンタジーに召喚されたけど元の世界の能力があるので楽勝……になりますか?
戸川 八雲
異世界召喚されました編
第1話 異世界女神との会話
そこは真っ白い世界だった、下は真っ白い床、上は真っ白い空? 天井?
前は延々と続く空間で遠い視界の先で床と天井が繋がっているように見える気もする、湾曲しているのか?
ったく! 怪しい輸送依頼で依頼相手の無知に付け込んで騙して報酬たんまりのはずが、騙されてたのは俺の方だったなんて笑える話だ。
罠だったであろう玉手箱と呼ばれるそれを、輸送先の相手に出会ったダンジョン内で手にとった瞬間、体も動かずスキルもほとんどが使えずこんな場所に飛ばされた訳だが……。
「ここに閉じ込める罠だった? まいったね何処だここ、ダンジョンとも違うようだが……」
そこで後ろから声がかかる。
「ここは天界、私のような神々の住まう場所ですよ、貴方こちらの気配に気づいてたでしょうに、世界を統べる女神を無視するとか良い度胸していますね」
うん、気付いてたんだけど、罠で飛ばされた先の相手だろう?
ロクな相手じゃないと思ってあえて無視してたんだ……。
攻撃してこないなら話が通じる相手かな?
元の場所に帰してくれたりしないだろうかね。
俺は振り返って女神とやらを見てみる。
その女性はウエーブの入ったロングの金髪、白を基調にした古代ローマじみた服装、女神っぽいなぁという感じだった。
「まず座りましょうか」
そう女神が言うやいなや、俺は椅子に座りテーブルの差し向かいに女神が居る状態になっていた……。
真っ白い平野の様な場所から白い石で出来た百畳くらいの部屋に移動している。
この間わずか一秒もかかってないし、自分の姿勢が変わった事すら認識出来なかった。
……やべぇこれは逆らったら駄目な相手だ。
「そ、それで女神様? 私はどうなるのでしょうか?」
「使い慣れてなさそうな心の籠っていない敬語とかいりませんよ、そうですね、貴方は私の作った玉手箱によりこの世界に召喚されました、説明が終わったら地上……貴方から見たら異世界に降り立って貰います」
はぇ? 怪しい罠の玉手箱で飛ばされたらそこは異世界だったでござるってか。
輸送の依頼主が俺を殺すための罠ではなかった?
それともあの玉手箱がどんな物かも知らずに、何処ぞに消え去る魔道具か何かだと思っていた?
まぁもうそれを依頼主に確かめる術はなさそうだけども。
うーん。
「異世界ね、そうか異世界かぁ……アニメや漫画では色々読んでいるけども、やっぱり魔王と戦わせたりするのか?」
敬語はいらんと言うので普通に話をさせて貰う事にする。
心の中とか読んでるかもだしな。
女神はうっすらと笑みを浮かべた表情で話をしていて。
「ふふっ、やはり日本人は話が通じやすそうですね、魔王なんてのはいません、強き魔物という意味でそう呼ばれているような存在はいますが、私の目的というか頼みは、地上世界に文化的な揺らぎを起こして欲しいのです」
「文化の揺らぎとな?」
「ええ、地上には魔物が沢山いるせいなのか文化の変化が起きづらいのです、他の世界、特に貴方のいた世界のように様々な文化に溢れる世界が羨ましくて羨ましくて、昔はこっそり玉手箱で人を呼び寄せていたのですが、近年そちらの世界のダンジョン作成に必要な情報やら魔物の魂や異種族の魂を交換するという盟約を地球の神々と公式に組みまして、おかげで玉手箱を堂々と送り込む事が出来るようになったのです!」
昔は大変だったんですよー、と、うふふと笑いながら話す女神だった。
地球の神様何してんねん……いやでもダンジョン作成に必要だったなら仕方ないね。
俺はダンジョン大好き人間、いや、もっと細かく言うとダンジョンで魔物から出るカードが超好きだったからな。
「昔からって事は、この異世界には俺以外にも転移者がいるのか? ああいや転生者って可能性もあるか」
「ああ、やっぱり説明が楽な最近の日本人は良いですねぇ……、交換で得た魂を記憶保持したまま転生させる事もありますし、地上の異世界召喚魔法に応じて生身で送り込む転移も両方ありますね、年に数人以上は記憶保持転生させていますし、地上の召喚魔法に応える時はルールがあるので天界に留めている全ての転移者を送り込んじゃいますね、貴方の世界と契約出来たおかげで、ここ七十年は毎年転生者を送り込めて楽しいです」
異世界との魂の交換比率とかは良く分からんが、年に数人も送り込んでいるのか……。
俺の世界でダンジョンが出来たのが五十年前の1999年なので、地球でダンジョンを作ろうとしたのが七十年前って事かね?
「少なくても七十年間最低でも数人ずつの転生者がいるのなら、文化とかそこそこ変わるのでは?」
世界は広いと言っても有用な情報はすぐ周りに伝わりそうなもんだがね。
「ああいえ……貧富の差もそこそこ有りますし、魔物がいたり王や貴族のいる世界ですから、絶望してしまったり諸々で……養殖の稚魚を川に放流するような物だと思って貰えれば……なのである程度成長している転移の方が生き残り易いので転生より有難いのですよね」
……女神にとって転生や転移は魚の養殖漁業だった?
いやまぁ神が個々の人間を一々気にしない事は理解出来るが……神ってのは大雑把やなぁ……。
「なるほど、転生については理解しました、それで転移は地上からの異世界召喚魔法とやらに応えるとありましたが、女神様が好きな時に好きな場所に送り込む事は出来ないという認識で合ってます?」
女神様は本当に嬉しそうに語る。
「そう! そうなのよー! やっぱりここ最近の日本人は説明が楽ね、細かく説明しなくても理解してくれるもの、転移は地上から異世界召喚魔法の儀式が行われた時に送り込むルールに成っています、こうやって説明してからスキル等を与えた後に転移者の時間を凍結して地上の召喚魔法を持つのです、貴方からすれば凍結なんて一瞬の事ですので安心してね、それにね、たまたまとある国で召喚の準備をしていますし、もう数日で送る事になりそうなんです、今回は四十人ちょいくらいでしょうか? 多すぎだけど溜まった分は全部送るのが天界ルールだからね」
「よ、四十人ですか? その人達は今現在時間を止められていると認識しても? もしそうなら俺のいた世界のいつ頃の時間軸なのでしょうか」
同じ日本人でも生きてきた時代が違うと話が合わなそうだしな。
「ああえっと、貴方の世界の日本からで八年前くらいの子が一人と……後はその八年前から半年くらいずれた日本の修学旅行生が、玉手箱を寺だかどこかから盗んだ奴とぶつかった時に学生らの真ん中で玉手箱が発動しちゃった奴ね、まさか一クラス全部を飲みこむなんて私もびっくりよ……」
八年凍結されていても本人からすると一瞬なのかね、盗人が手にした時に発動しなかったのは……俺の時みたいに封印がされていて尚且つ解け易いように細工されていた?
「玉手箱は盟約により〈異世界に好意的な興味を持つ人間〉が触ると発動するようになっているの、盗人はお金にしか興味なかったみたいよ、触った学生や貴方は……言うまでもないわよね?」
「心を読まないでください、はいはい魔物や異種族を召喚出来るダンジョン産のテイムカードとか大好き人間でしたよー、そんな俺が異世界ファンタジーに興味がない訳ないじゃないですか」
でも八年前の一人って、なんか嫌な予感というか本家の馬鹿がやった実験の話が思い浮かぶんだが……まさかね?
「そうねぇ、その子は自分の事を魔法の名家だとか選ばれた人間だとか言ってうざかったし、からまれたら面倒ね!」
なんでそんなに嬉しそうに語るんだろうかこの女神は、名家ってそれ……いやいやまだ分からんし違うかもしれない。
そしてもう心を読まれるなら俺は心で会話する事にしますよ。
「分かったわ、それでね転移者にはスキルやらを与える事になっているんだけど……貴方の器には地球世界のダンジョンで手に入れた能力でいっぱいなのよね、この能力達はまだ私の世界に馴染んでないから器の中で反発しそうなのよ……数が少なければ他の子みたいに天界で馴染ませちゃうんだけど、貴方はちょっと多すぎよ……多ければ多い程に馴染ませるのに神力消費効率が悪くなるのよね、貴方の覚えているスキルとか少し減らしていい?」
いやいやまてまて、ダンジョンに潜り続けて手に入れたスキルスクロールは元より。
稼いだ金は全てカードやスクロールに投入して来たんだぞ? 勝手に奪うなよ!
普通の転移者はどんな能力を貰うんだ?
極アイテムボックスとか、超鑑定とか、能力コピーとか、経験値千倍とか、地球の品物が買えるとか、そんなのか?
「なんで貴方は彼らが要求して来た事をまるで見て来たかのように言えるのよ……、ほんっとに似たような事を言う子ばっかりで疲れちゃったわ……私が与えるのは地上世界の人型種族が主に使っている共通語を理解出来る物や、後は……今回の人数が多すぎて神力リソースが勿体ないから普通に人々が獲得しているようなスキルから二つくらいよ、剣術とか裁縫とか火魔法とかね、それがあの学生達はあれやこれや煩いったらなかったわ、話をまともに聞かない子らはルーレットで勝手に決めてから時間凍結しちゃったわよ」
女神は少し疲れたような表情を見せる、あー……異世界に興味のある人間が交渉を出来ると知ったら……うん、理解出来る事だな。
「理解しないでよ苦労したんだから……、うーん貴方スキルで〈空間倉庫〉持っているわよね?」
うちの家の血統スキルだからな、まぁダンジョンが出来て似たような効果のスキルスクロールをばらまかれて俺の家の裏世界での権威なんてカスになっちまったけどな。
「さっきも言ったけど今貴方にスキルを付与しちゃうのは危険だし、スキル付与が出来る水準まで馴染ませるにも神力消費がすごい事になりそうなのよ、召喚で地上に降りてから……貴方の持つ弱いスキルから順に勝手に世界に馴染んでいくと思うから、ある程度馴染んでからスキルオーブで習得する感じでいいかしら? あ、スキルオーブって言うのは貴方の世界のスキルスクロールと同じような物ね、ダンジョンから産出されるわ」
何! こちらの世界にもダンジョンがあるだと!?
ならテイムカードもあるのか!?
そう思うや俺は自身の能力である〈空間倉庫〉からダンジョン産のカードがびっしり収められた透明なファイルを出し、それをドサッっとテーブルに置き女神に示した。
てかこの場所で普通に〈空間倉庫〉スキルが使えるのな。
「それが例の魔物からドロップするカードというやつね、ふむふむちょっと一枚借りるわね……ほーなるほどこんな術理で作っているのねぇ……残念ながら私の世界にカードはないけど、スキルにテイムがあるからそれで魔物を捕まえればいいと思うわ」
ファイルからゴブリンカードを一枚抜き取って調べていた女神がそう言った。
ないのか……そうか……じゃいいや俺は転移しないでこのまま消滅させてくれ……。
「ちょ! どうしたのよ急に? 魔物はテイム出来るって言っているでしょう? それに奴隷紋とかもあるし
だって……カードがない世界なんだろ?
……俺は探索者になってから、いや、なる前からお小遣いで買い、自分の稼ぎで買い、自らの力で魔物を倒してカードを集めた。
狙いのカードを出すために物資を空間倉庫で大量に持ち込み、数カ月間ダンジョンに籠った事もあった。
カードオークションで、いけ好かない投資家気どりの探索者と競り合った事もある。
二十歳になったばかりだが俺の短い人生はカードと共にあったんだ……。
だからカードがない世界ならもう意味ないだろう?
なんなら魂にして記憶を消して転生でもいいからよ……。
「まってまって! 貴方みたいに簡単に死にそうにない様々なスキルを持っている人間は早々手に入らないのよ! 貴方の感覚で言うならスーパーレアカードって奴ね、考え直してくれないかしら? 私にできる範囲でなら融通を利かせてもいいから、ね?」
SRカードか……それを削除するのは嫌だよな、でもなぁカードが無いとなぁ……。
うんやっぱもういいや。
「待って! 待って! そうね……カードか……うん、魔物をカード化するスキルを作ってあげるから!」
ほわっと? 今何と申しましたか? 美人で可憐な女神様。
あ、取り敢えずカード召喚出来る知性ある種族用に買っておいた、高級なご褒美用ケーキとかいかがでしょうか。
テーブルに〈空間倉庫〉から高級ケーキを箱ごと出し、尚且つ紅茶を入れる準備を始める俺。
「貴方今まで私の容姿に関して特に感想がなかったくせに急に褒めだすとか……現金なやつね……」
そりゃ女神様、昔俺が別れた金目当ての恋人になんとなく似てるんだもの……。
おかげで美人だからって性格も美人とは限らないんだなって教訓を得られたわ、紅茶もどうぞ。
「……そんな子と一緒にしないで欲しいのだけれど……ってナニコレすっごい美味しいケーキなんですけど! うーやっぱり地球世界の文化は素晴らしい……転移者が料理文化もある程度広めてくれたんだけど、お菓子に関して奉納されるのはまだクッキーとかバターケーキくらいなのよねぇ……、あら? 紅茶も良い茶葉を使っているわね美味しいわ」
飲んだね? 食べたね? 女神様がまさか食い逃げみたいな事はしないよね?
ではカードをゲット出来るスキルについて話し合おうか?
「……あの学生達よりタチ悪いわね貴方……いいわよ上等じゃない話し合ってあげる……だからケーキのお代わり頂戴!」
どうぞどうぞ、どれでも好きなのを選んで下さい。
「どれにしようかなーっと、あ、そうだ、新規のそれもユニーク級のスキル作成になるから神力リソース消費がつらいのよね……天界ルールだとここで貴方のスキル群のうちいくつかを世界に馴染ませるんだけど……そのリソースをスキル作成に回す事になるけどいい?」
カードが手に入るなら何でもいいですよ、スキルはそのうち世界に馴染むんでしょ?
問題ない、問題ない。
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