閑話…天羽 奏(あまば かなで) の日常 1


――これは、ボクがまだ高校生だった頃のお話。




□◆□



 日が沈みはじめ、教室の窓から差すオレンジ色の光が少しづつ影にのまれていく。そんな中でボクは一人、ノートを広げてシャーペンを走らせていた。



「よう!奏は今日も残って勉強か?」


「うひぁっ!!え、なに?!……って、なあんだ。悠人ゆうとか~…びっくりしたぁ」



 彼の名前は大嶋おおじま 悠人ゆうと。ボクが幼稚園児のころからなんだかんだで一緒にいる幼馴染であり、唯一の親友だ。


 学校では学力テストで常に一位を取るほど頭がよく、ボクの勉強をよく手伝ってくれる。そのおかげで中の上をキープできているといっても過言じゃないんだよね…。

 それに、悠人は体力テストでも上位に位置するほど身体能力が高くて、いろんな運動部から引っ張りだこになってる。いわゆる、助っ人で参加してる感じで、ボクと同じく悠人はどの部活にも所属してないんだけど……イケメンだしモテるし黄色い歓声はいつでも上がってるし同性からも好かれるほどだし先月はたくさんチョコ貰ってたし…



「むぅ…悠人は小憎らしいんだからもうしらない!」


「んあ?!なんで俺が怒られてるんだ?あれ、なんか悪いことしたか…?」


「しーりーまーせーんーっだ!」


「あぁ?あー(いつものあれかぁ…)どうどう。とりあえずまぁ落ち着け。ほら、シャーペンの芯折れてっから。力入れすぎだから、な?」



 悠人はなんだかんだ言ってボクに甘くって、拗ねたり泣いたりしたときは決まってあたまを優しく撫でてくれるんだ~。

 というのも、ボクが小さいころはいじめられてて、他にも転んで怪我して泣いたときとかに、よくこうして慰めてくれてたんだよね。だから、その癖が残ってるみたいなかんじ。



「えへ~♪……はっ!ゆ、悠人は相変わらず、ボクにあ、甘いんだかりゃっ!」


 そうなのだ、甘々なのだ。

 中学1年のときなんか、運動会前日に家で足を怪我しちゃって。それでもクラスの輪から外れるのが嫌で、怪我を隠してリレーに参加しようとしたら、なぜか悠人に怪我してることが見透かされちゃって。結局、悠人がボクをおんぶして走ったんだっけ。

 まぁ、当時は公開処刑みたいに感じて恥ずかしすぎて、悠人とは話聞いてあげないモードに入ってたんだけどね。けど、反対にクラスのみんなはボクに親しく接してくれるようになってて……いつのまにか悠人とよりを戻していたんだよね。



「…はぁ~。(甘いっつうか、こうしないと機嫌悪くなるのはそっちだろうに…)



 ってか、そろそろ下校時間だ。早いとこ片づけて出ないと、また見回りの人に叱られんぞ」

 

「えっ、うそ!…って、ほんとじゃん!い、急がなきゃっ、あの強面のおじさんに怒られるのだけはいや!」


「まぁ、注意されるたびお前半泣きになってるもんな…」


「な、泣いてなんかないしっ!目にゴミが入ってるだけだもんねっ」


「あぁ、ね。ゴミはしかたないな、うん。

 とりま、その強面さんが来るまであと十分くらいだし、準備できたなら帰るぞー」



 速攻で片づけをおわらせて、急いでカバンをしょって校門に向かう。


 悠人とは幼馴染ということもあり家が近く、当然ながら帰る方向は同じ。だから、こうして一緒に帰路に着くのは小さいころから変わらない時間だ。



「あー、なんだかんだであと一年で俺らも受験生かぁ。時の流れははえーよな」


「ほんとそうだよね。ボク…ちゃんと国立に行けるのかなぁ…」


「まぁ、ほぼ毎日勉強を見ている俺に言わせてみれば……学力そのものは悪くねえんじゃないか?」


「つまり…メンタルなのかー…」


「まぁ、そればっかりは俺にはどうしようもできないからなぁ。」


「でも、悠人ならどこにでもいけるよね!たしか、国家公務員を目指してるんだっけ?」


「あー、それなんだが……いっそのことAIエンジニアなんかを目指すのもいいなって思っててな」


「えっ、なんで?!」


「いやさ、ほら。奏は結構前から動画投稿とかやってんじゃん。ああいうのをみるとインターネットに関わる職業も面白そうだなって」


「そうなんだ…でも、悠人ならすぐに一角の配信者になりそう!……それに比べてボクは――」


「あー、やめやめ!この話題しゅーりょー!メランコリックな話を始めた俺が悪かったわ。もっとこう、明るい話をしようぜ!


 ほら、今日はホワイトデーだったろ?」


「え?…あ、うん。(ボク誰からも貰ってないじゃん…)」


「いやぁ…奏も知っての通り、俺いろんな人から結構な量渡されてただろ?……おかげさまで、俺の財布がすっかすかなんよ…」


「うー…ま、まぁ、ドン…マイ?」


「さらには、休み時間お返しするために学校中を駆けずり回る羽目にもなったしな…まさか放課後もそのために時間を割くことになるとはなぁ…」


「あー…お疲れ様だよ。モテるって大変なんだね…」


「ははっ、たしかにな(他人事じゃないんだがなぁ…)

 まぁ、なんだ。つーことで、ほれ。」


 

 なにやら丁寧に包装された小さい箱を取り出したかと思うと、それをボクの方に向けた。



「えっと?…これは、受け取っていいやつ?」


「もち。まっ、お前さんも先月にくれただろ?そのお返しだ。」


「えっ…あれは、そ、その、いつもの三人組がボクにお菓子作りを教えてくれるってことで、作ったやつで……べ、べつにボクはバレンタインを意識したとか、そういうのじゃ…」


「(やっぱりあの腐女子三人衆の仕業かよ…)友チョコにも俺はお返しするタイプでな。特に奏との間柄だ。親しき仲にも礼儀ありっていうだろ?」


「え、あ、うん!…その……あ、ありがと」


「あいよ。

ちな、中身はこの日にちなんでホワイトチョコだ。甘いの結構好きだろ?」


「うん!好きっ」


「あとは帰り際どっかの自販機でコーヒーでも買えば完璧ってところか。

 つうか、甘いもの好きなのにブラックとかの苦いものも好きってわりと変わってるよな」


「そうかな?でもボクの意見を言うなら――」








 このあと食べた、悠人から貰ったチョコはとても甘く――









―――そこに酸っぱさなぞ、奏は微塵も感じなかったのであった。


 



 

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“世間一般”ではホワイトデーということで、高校時代のかなでちゃんを書きました!




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落ちてから始まるボクのキラキラV生活!! 四葉 さつき @yotsuha_satsuki

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