5.Re:初配信


「よ、よし……今度こそ、だいじょうぶ…なはず、だよね?

う、うぁぁ……動画だけじゃなくて配信もしてたらこんな失敗は……やめやめっ!過ぎたことを考えてもしょうがないから…とにかく、いまに集中しないと…。」


 

 もう、失敗することで迷惑はかけられない。次はないんだという想いをいっそう強くして準備を行う。

 

 何回も配信を始めるにあたって必要な手順を確認していると、ディスカーションのアイコンに 赤い◎ が表示されていることに気づく。



――マネージャーさんから一件。そして、イドラ&リアリティのサーバーから複数。



マネちゃん[ごめん!!私もちょっと緊張しちゃって気づけなかったんだけど…かなでちゃん、Murmurerで配信予告するのわすれてるよ!それでも2万人以上待機してるからすごい魅力だよ!!自信をもって、れっつごー!(/・ω・)/]



「あっ……忘れてた!!か、開始まであと5分切っちゃってる…い、急がなきゃ」



 サーっと血の気が引くのを感じつつ、小刻みに震える手でスマホを取り出し急いでアプリを起ち上げる。



 急いで事前に用意しておいたのを呟こうとするも、そこに貼ってあるURLは前回のものであることに気づき、咄嗟に全消去した。


 消した直後に自分の失態に思いが至り、慌てて時間を確認すると残り時間三分になるところだった。



 Funtubeを開いてこの配信のURLをコピーしてくるだけでも時間が厳しいと感じて、すべて手打ちで行うことを決心する。


 挨拶の文は、咄嗟に思い浮かぶものがないのでシンプルに“よろしくお願いします”にした。文字の反映が遅く、バグなのか通信環境なのかつぶやきが2回ほど無効化されたけど、配信のサムネが表示されたつぶやきがあったので問題はないはず。



 


 配信開始まであと1分とちょっと。

 ディスカーションのイドラ&リアリティのサーバーには、ボクのことを応援するメッセージで溢れていた。




――みんなから勇気をもらったボクは、再び配信開始のボタンを押した。





『あ、あー…聞こえてる、かな?は、初めまして?に、2度目まして…なんて言葉はない、よね…お、大空 かなで、です!』



【チャット欄】

:yolo!

:yolo~

:よぉ!

:聞こえてるよ~!!

:がんばれ~!

:yolo~~

:yolo

:yolo!!!

:yoroではないのなw

   ┋



『よ、よかった…ちゃんと聞こえてるみたい……ところで、その yolo っていうのは、挨拶みたいな感じで、いいの…かな?』



【チャット欄】

:あれ?そうじゃないのか?

:ちがった?

:もしかしてこれw

:あぁー、なるほどねww

:まぁ、さすがにそうだよな

:発祥はそっちなんだよなぁ!ww

:ヒントはMurmurerのつぶやきな

:初めての呟きだったから、てっきりww



『え?つぶやきって、この配信予告の…だよね?ボクはそんな言葉入力してない…………あれ…?そういえば、最初キーボード入力だった…よ、うな……』



 咄嗟にスマホの電源を入れて画面を見る。そこには、先ほど開いていたMurmurerでの呟きが映っている。しかし、よく見ると下にスクロールできるようで……初めての呟きは“yolo”となっていた。さらに2番目の呟きも存在し、それが“よぉしくおねがいします”とだけ書かれたもの。3つ目に、ようやくちゃんとした配信予告のつぶやきができていた。




『うあぁぁ……初めからフリック入力になってればこんなことにはならなかったのに…っていうか、そもそもキーボード入力でもラ行はRじゃん!なんでLでやったの?!ボク!

 うぅ……うがぁー、ボクのばか ばか ばかぁ!』



【チャット欄】

:wwwww

:たしかにwww

:天然ボクっ娘とかかわいいかよww

:なんかあたまを自分でポカポカしてる画が浮かんだわ

:Lがラ行になるってあんまり見ない間違いだよなww

:この娘、いろんな意味でファンアートがはかどりそうで草



『うぅ…Vになってから今のところミスしかしてないよ、ボク……ただでさえ2回目の初配信なのに……』



【チャット欄】

:2回目の初配信っていう言葉のインパクトよなww

:矛盾してるが事実なのである!!

:ネタじゃない2度目の初配信なんて初めて見るわwww

:かなでちゃんをトリに持ってきた人マジでグッジョブ!

:かわいくておもしろいからよし!w

:ま、まぁyoloは“You Only Live Once.” の略でも有名だから…

:なんかかっこよくて草

:どういう意味だっけ?



『Vtuberが初めてのつぶやきで、脈絡もなしに“人生は一度きりだ”っていろんな意味で複雑だよぉ!それこそ深淵の魔王が言うようなセリフだよ!!ボクみたいな設定も特徴もあんまりないのが口にする言葉じゃないよね、それは!』



【チャット欄】

:いや、十分特徴があるというか、尖ってるというか…

:アビスwwwたしかに言いそうではあるがww

:いやぁ、アビスちゃんは言葉の意味しらないと思うぞー?

:ってか、意味は知ってたのな

:英文で気づいたか?

:だが、残念!既に“yolo”と“大空かなで”、“大空かなで初配信”がトレンドに載った模様

:トレンド入ってるじゃん!!

:おめでとー!!!

:おめ🎉



『いや、結構有名だもん、その英語の熟語は……yoloって略されるのは知らなかったけども……ってぇ?!ト、トレンドに載ったの?…ボクが?ま、まだまともな配信とかできてないよね?!


 って、そうじゃん!準備した内容にまだ触ってないじゃん!ちょ、ちょっと待ってね、いま、プロフィールを……』



【チャット欄】

:なにこの子、めっちゃ推せる

:ついに自己紹介パート突入か?!

:でも、だいぶ落ち着けるように…はないけど、堅さは少し減ったよね

:もうそろそろ10分になりそうだけどもww

:プロフィールってクール(笑)のやつか?www



『あ、なんかプロフィールが更新されてるみたい!マネージャーさん、ありがとうございます!…というわけで、どーんっ!』


--------------------------------------

Profile

所属:イドラ&リアリティⅢ

名前:大空おおぞらかなで

"性別:――"

年齢:17歳

身長:152cm

好きな物:甘いものと苦いもの。

嫌いなもの:辛いもの。酸っぱいもの


クール(笑)な性格のため、感情の揺れはばが小さい…?そのため、ゲームやみんなとの交流で感情表現を豊かにしたいと考えているらしい。

--------------------------------------


『…うぇっ?!・・・あ、あっれー?な、なんか…ちがう……いや、まぁ、クールはないなって、思いはじめてはいるけどさぁ…で、でも、クールキャラってかっこいいじゃん!そういうふうに設定したくなるよね?!みんなもTRPGとかするとき、1回は寡黙で冷静なキャラシを作った憶えあるでしょ?テキストのみのセッションなら特に!!』


【チャット欄】

:公式がクール(笑)にしおったでww

:確証が一切なくなったなww

:TRPG…?

:うぐっ…その言葉は刺さる…

:ふ、封印されし、闇の記憶が…

深淵ノ魔王 : や、やめろ…オレのアビスの制御が…

:ぐわあぁぁ

:・・・グハッ…

:よ、よせ!それ以上、踏み込んではいけない…

:な、なぜわかったんだ?

:わ、わりと刺さる人いてく、草…なんだよなぁ…ハハッ

:しれっとアビスちゃんいたのね



『………うん、とりあえずスパナつけておくね……え~っと、方法は……あ、これブロック………よし、これでつけられたはず!深淵の魔王がアビスの制御ってなんかややこしい、というよりもアビスに制御なんて概念があることにびっくりだよ!あれなのかな、ダクソみたいなもやもやした感じとか?』



【チャット欄】

:おおっ!ダクソ知ってるのか!

:少なくとも深淵歩きのところまで行ってる感じかな?

:アビスちゃんからそこに話がいくのすげえなww

   ┋

  


『やったことがあるって言っても、友達の家でときどき遊ばせて貰ってるくらいで、がっつりやってたわけではないんだけどね。

 そもそも、うちにはゲーム機なかったし……ボクの持ってたノートパソコンで動かせるゲームもあんまりなかったからなぁ……


 って、時間!そ、それじゃあ、自己紹介にいきますよー―――




□◆□




『ふぃ~……な、なんとか予定していたことを全部言えたよ!ここまで付き合ってくれてありがとうございますっ!!』



【チャット欄】

:お疲れ様~

:おつかれー!

:めっちゃ笑ったわww

:おもしろかったよー!

:かわいくておもしろいのはもう最強っしょ!

:いやー、最高の癒しだわ

:カワイイは正義!

:こちらこそ、ありがとー!!

:早く…投げさせてくれ…

:↑は早すぎwwでもわかるわw

:結局、いろいろ決まらんかったけどなww



 そうなのだ。今回の配信でファンネームやファンアートなどのタグを決めようと予定してたんだけど、みんなとおしゃべりするのが楽しくなっちゃって……ついつい、ほったらかしに…。


 い、一応、切り抜きのタグだけは決めたんだよ?“#雨粒かなで”っていうんだけど……ボクの持ってきた案はみんなに不評だったんだよね。“カッティング・スカイ”はさすがにないって……ボクはかっこいいと思ってたんだけどなー。



『ま、まぁ!ファンアートとファンネームは次の配信で決めるということで…!ボ、ボクもいい案を考えておくから、みんなも何かいいの思いついたらよろしくお願いします!』



【チャット欄】

:おう!

:まかせて!

:うん、まぁ。かなでちゃんの名づけセンスがないことはわかったからね…

:いい案を考えないと!

:次の配信が楽しみだ!

:こんなに可愛い子から頼まれちゃあ断れねえぜ!

:メンバー解禁されたときの未来が見えたような気がしたww

   ┋



『あ、ありがとうございます!まだまだ配信に慣れてないし、失敗ばかりだけど……みんなの応援を励みにしてがんばっていきます!だから、ボ、ボクを……お、推してくれると…うれしいな……



 あ、あと!配信終了してから5分後に歌ってみた動画を公開します!そ、それでは!おつかれさまでしたー!!』




 締めのあいさつを言ったからなのか、スイッチが切れるように身体が弛緩していくのを感じる。


『き、緊張したぁ~……でも…すごく、楽しかった……暖かいコメントをしてくれるみんなのおかげだよね……ボクがカワイイ…かぁ……なんか………というか……なんて反応すればいいのかわかんないや…あはは…』



 ボクは男だから、カワイイと思って観てくれてるみんなに申し訳なく感じるんだよね…。なんというか、みんなを騙している…みたいな。たぶん罪悪感なのかな。


 こんなに後悔するなら、最初の自己紹介で男性ですって言うんだった…。でも、嫌な気持ちにはならなかったんだよね……このまま隠しておきたいって思う自分もいたんだ……ボク、おかしくなっちゃったのかなぁ……ま、まぁ、TRPGで女性キャラを作って遊ぶこともあるしね!そ、それと、おんなじ…はず。



『……うん!まずは歌動画の公開設定をして……っと…よし。あ、忘れないうちに今回の反省会をしなくちゃ。Murm――』


――バタンッ!


 まとめていた考えを吹き飛ばすかのように、ドアを乱暴に開ける音が響いた。思わず後ろを振り返ると、そこには こころ がいた。



『うぇ?』


『かなで!配信!まだ切れてない』


『あっ!ご、ごめんなさい……」



≪この放送は終了しました≫

[Re:初配信]は、初めまして……よ、よろしく…です…[大空かなで/イドラ&リアリティⅢ]

3.4万人が視聴中 0分前に配信済み

#大空かなで初配信

⤴️1.9万 ⤵️低評価 🗨️チャット ➡️共有 ≡+保存 …



【チャット欄】

:おつかれさまー!

:よく頑張ったぞー!

:気づいてよかった…今のはマネちゃんかな?

:呼び捨てってことは結構仲いいのかも

:てぇてぇ~

:切り忘れはさすがにマズいっしょwww

:どっかで聞いたことある声だったけど…

:失敗からまなんでこーぜ!

:切り忘れといえば初期の唄意を思い出すわーww

:おつかれさまだよー!

:さぁ!歌ってみたに急ぐぞ!

:おおっ!“雨き声残響”か!

:どういう歌い方なんだろうな?

:個人的には表現力が必要な歌だと記憶してるが

  ┋





「こころ……ごめん…声、のっちゃった…」


「大丈夫。それは気にしてない。声をのせずに伝える方法はあったから。」


「……えっ?……のって良かった…ってこと?…いや、さすがに…そうじゃないよね…」


「私とかなでの仲の良さを広めるために狙った。お父さんから、許可はとってある。」


「うぇっ?…え……え?」


「でも、切り忘れは注意して。2回チェックするのは基本。猫宮は泥酔して5時間睡眠配信してたけど……あれは反面教師。マネしない…わかった?」


「あ、うん…今後は切り忘れがないようにする!……今日はありがとう」


「ふふん♪……ん、そろそろ歌ってみた公開されるから聞く。かなでも一緒に」


「えっと、自分のを聞くのはちょっと…飽きたというか…」


「いいの!楽しい時間を共有するのが大切。」


「うぅ、わかったよぉ…―――」




【説明】  

[歌ってみた]雨き声残響 / Orangestar[大空かなで/イドラ&リアリティⅢ]

大空かなでch -イドラ&リアリティⅢ- 3.1万人が待機中 04/22 21:05に公開


大空は常に晴れてるわけじゃなくて、雨雲に覆われることもあるよね。そんなボクでも居ていいんだって、意味があるんだって。そんな証人にみんながなってくれると、うれしいな。


▼ 歌・動画・イラスト・Mix

  大空かなで


▼ 尊敬している本家様

  雨き声残響 (feat. IA)

作詞・作曲・編曲:Orangestar

URL[ https://www.youtube.com/watch?v=0KK5vQlCVYo ]










―――――――――――――――――――――

▪あとがき


本作品では、話の流れや思いを伝わりやすくするために、実際にある曲名の引用を行います。それに伴い、引用元としてyoutubeなどのURLを記していきます。そのため、本作品に登場する様々な架空のプラットフォームは現在の数十年後にできたという設定で物語が進むこととなります。読み手にごちゃごちゃとした設定を押し付けてしまうのは、単純に私の技量不足であり非常に申し訳なく思います…。


追記となりますが、本作品の主人公である“大空 かなで”のファンネーム(リスナーの総称)やファンアートのタグに関する案がございましたら、ぜひコメントにて紹介してくださるとうれしいです!共感や応援のコメントも非常に励みになります!

読者とともに物語を作ったり、感想を述べあったりできる作品でありたいと思っています!









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