落ちてから始まるボクのキラキラV生活!!

四葉 さつき

Vtuberになりました!!

1. ここから伝説は始まった…

『うぅ…き、緊張がすごいやばい。手がぷるぷるしてきた―』



――ガシャン!!



『あっ!こ、コップが…!み、水を!って違う、そうじゃなくて…タオル!タオルとってこないと……』



――ドンッ!――ガンッ!



『……ったぁぃ…あ、マイクが倒れ――』



 ボクには緊張すると下を向く癖がある。だからだろうか。マイクに目を向けたとき、ようやくモニターに目がいったのは。




【チャット欄】

:透き通るような声で、すこだわ

:わりと中性的でささる

:がんばれー

:事故?ネタ?

:もちつけ、もちつけ

:さては配信慣れしてないな?

:この初々しい感じがたまらんのよ

:こりゃ、コップかやして足ぶつけたな?

:まさかのドジっ娘か!

:あわあわしててかわいい

:声途切れたな…気づいたかな?



『あ……え?――もしかして、配信ついてる?』



【チャット欄】

:お、気づいた

:いぇーい!みってるー?

:気づいちゃったね…

:かわいかった!

:もうちょっとだけ見たかった

:見てるのはこっち側のはずなんだけども

:気づいたのかー



『えっ……えっ?―あっ、ど、どうも!ボクの名前は……ちょっとまって!――えっと…あ、あれ?メモ帳がない!』



【チャット欄】

:おいおいマジかよw

:まさかの自己紹介キャンセルでワロタ

:wwwwwww

:名前ド忘れする新人w…大物になる予感がするな

:メモ帳ってww

:初っぱなからメメタァ!



『なん、で?……ど…こぉ…な" い!――めもぢょうなぐしだぁ……ひぐっ……ううっ……』



【チャット欄】

:大丈夫だよー、怖くないからねー

:落ち着けww

:これを見越してのトリだったのかw

:泣き声かわええ、もっとほしい!

:↑鬼畜かよw

:落ち着いてー!

:がんばれ、がんばれ

:マネージャーからの連絡とか来てないのかな?

:たしかに



――ピロンッ!



 何かしらの通知音がしたと同時に、画面右下にディスカーションのメッセージが映る。



マネちゃん[大丈夫、落ち着いて。メモ帳のコピーをここに張っておくから、頑張って!]




『う、うぐっ……あ、ありがとう…――えっと…こ、これだよね―カチッ』




 クリック音がしたかと思うと、画面めいいっぱいにメモ帳が載った。

 公式プロフィールとあまり変わらないものの、一点だけ明らかに増えている項目があった。



--------------------------------------

Profile

所属:イドラ&リアリティⅢ

名前:大空おおぞらかなで

"性別:――"

年齢:17歳

身長:152cm

好きな物:甘いものと苦いもの。

嫌いなもの:辛いもの。酸っぱいもの


クールな性格のため、感情の揺れはばが小さい。そのため、ゲームやみんなとの交流で感情表現を豊かにしたいと考えている。

--------------------------------------



【チャット欄】

:クール(笑)

:クール…?

:クールとはww

:メタだけでなく、ぶち壊していくスタイルで草

:wwww

:あら?




『あ、あれ?……ってちがう!ちがうの!け、消さなきゃ!んあっ!まち――』



≪この放送は終了しました≫

[初配信]初めまして。よろしくね[大空かなで/イドラ&リアリティⅢ]

1.8万人が視聴中 0分前に配信済み

#大空かなで初配信

⤴️4946 ⤵️低評価 🗨️チャット ➡️共有 ≡+保存 …





【チャット欄】

:クッソワロタ

:wwwww

:wwwwwww

:wwww

:ヤバすぎるだろこの新人ww

:ま さ か の 初配信キャンセルwww

:実際のところ、どうすんだこれ?

:もしかして2度目の初配信か?ww

:2回目の初配信やんのかな?w

:re.初配信ってネタじゃなかったんやな…




「…終わっちゃった……ど、どうしよう…?うぅ…ま、マネージャーさんに、れ、連絡!」



 どうしてこんなことになったのか。

 事の発端は一か月前にあった。



□◆□




「ひぐっ……うぇっ…ご、ごめんなさい。ボク――ボク…お、落ちちゃった…。」


「……そうね。でもだいじょうぶ。かなでの人生はまだまだ長いもの。いくらでもチャンスはあるわ。」


「で、でも!」


「そ・れ・に!こんなにも かなで は可愛いんだから、チャンスさんの方から勝手にやって来るわ。それまではママに任せなさい!」


「けど…ボク…ボクもそろそろ大人だから……」


「あらあら、背伸びしちゃって。そんなに伸びても身長は大きくならないわよ?たしかに私の力及ばずで経済的に苦しいのは事実ね。」


「そ、そんなことはないもん!」


「うーん、優しいのはいいことだけど、それで事実を曲げちゃダメよ?」



 ボクとしては、衣食住に加えて、学校にも通わせてもらってたので嘘を言ったつもりはなかった。

 だからこそ、お母さんの顔を見上げながら反論したんだけど。


 お母さんはそんなボクの頭を撫でながら、優しい声音で話を続ける。



「私はママだからね。かなでのことならなーんでも知ってるのよ?」



 少しだけ細められた目に思わずビクッとなる。


 というのも心当たりがいくつかあったのだ。部活動と偽って放課後こっそりバイトをしていること。土日には、ボランティア活動に参加してくると言ってバイトをしていること。

 

 そして、超大手の動画共有プラットフォーム[Funtube]で活動していること。


 配信こそしていなかったけど、元々の声が中性的だったから、それを活かした女声講座…的な動画を投稿したり。あとは、一人二役で歌ってみたを投稿したりしていた。


 一昔前だと、収益化は18歳以上だったのかな。今では成人年齢が18歳になったことで、これを機にと諸々の年齢制限が16歳となったんだ。


 だからこそ、高校一年の三学期にようやく収益化できるようになったので、お小遣い稼ぎをしていたんだけど。三年生になってからは投稿頻度がけっこう減って、今ではもう失踪したなんて言われてる。



「かなで からしたら、ママは一人で頑張ってきたように見えるかもしれない。けれどね?私にも親はいて、友達も数多くいるのよ?お金の貸し借りだけは厳しいんだけど。」


「……と、とりあえず。ボクの知り合いに、こ、困ったらおいでって言ってくれてる人がいるんだ!だ、だからその人に相談してみる……のは、どう…か、な?」


「はぁ…もうっ。そんなにママは頼りないですかー?悲しくなっちゃうなぁ」


「え、あっ、いや。そうじゃ、なくて」


「かなでのいいところは、気配りができて優しいところ。だけどね?一人でなんでもかんでも背負っちゃうのは悪いところ。あと、慎重なわりには楽観的…というよりも、天然で抜けてるかんじね」


「それ、は!……そう、だけど」


「でも、そういうところが愛らしいんだけどね!天然なところは私ゆずりかしら?


 と に か く!こういうときくらいママに頼りなさい!絶対力になれるわ」


「……け、けどぉ……」


「んもぅ、いつの間に反抗期に入っちゃったのかしら。仕方ないわねぇ。あと、2日……あ、やっぱり3日後、かなでに大きなチャンスが訪れるでしょう!」


「えっと……チャンス、って…?」


「んふふ、奏の予言者たる私が言うもの。絶対に当たるわ。だから、しばらく かなでは休んでていいの。今まで色々と頑張ってきたんだから!ね?」



 頭に置かれた手の温もり。

 優しく、今までの自分を認めてくれる暖かな言葉。


 心の傷が完全に塞がったわけではないけど。


 それでも、涙と一緒に少し…心の澱が流れ出た気がした。

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