第9話 好き勝手に

 アンセルム王子の行動は、国王陛下に全て報告済みだった。


 彼が、王族という立場にプレッシャーを感じていたこと。私に隠れて、ディアヌという名の女性と会っていたこと。近いうちに、何か問題を起こしそうということを。


 国王陛下と王妃は真剣に、私の話を聞いてくれた。どうにかして問題を回避する、その方法を話し合った。


 アンセルム王子に忠告して、教育にも力を入れてきた。彼が王立学園に入学した頃から、両親に強く反発するようになった。それで国王夫妻は干渉や小言を減らして、王子の資質を見極めることにした。学園を卒業する頃に、王国を背負っていけるのかどうかを判断されることになった。


 こうして、両親からの干渉が減ったのをいいことにアンセルム王子は自由気ままに行動するようになる。そして、ディアヌという女に引っかかってしまった。


「王室から除名される貴方は当然、王位継承権を剥奪されます。代わりに、貴方の弟であるライオネル様が第一継承者の王太子となります」

「な、なにを言っている……? 王位継承権を剥奪だと……!?」


 呆然とするアンセルム元王子に、更に突きつける。


「王室から除名される貴方は、王都から出てくように陛下から命令されます。指示に従って、速やかに立ち去って下さい」

「はぁ? な、なぜ王族の俺が王都を追い出されなければならないのだ!?」

「陛下が承認された、この書状をお読みください」

「……くっ!」


 私が彼に突きつけた羊皮紙には、アンセルム王子が婚約を一方的に破棄した場合は王位継承権を剥奪して、王室から除名すること。王都から出ていくようにという指示が、しっかりと書き記してあった。先程、私が彼に言ったことが。


 本当は、王都から追い出すんじゃなくて、死刑になる可能性もあった。でも私が、彼の助命を願った。かつて愛していた人だから。それでも、彼には生きていてほしいと思ったから。


 将来に禍根を残す恐れがあるのに、陛下と王妃は私の願いを聞き入れてくれた。


「なぜだ!? なぜ、こんな仕打ちを受けるんだ……! ただ俺は、真実の愛に生きようとしただけなのにッ!」

「真実の愛、ですか……」


 廃嫡すると知った時にディアヌの表情が引きつるのを、私は目撃していた。やはり彼女は、打算を働かせて王子の婚約者という立場を奪おうとしたようね。残念ながら思い通りにさせないよう、阻止することは出来たかしら。


 アンセルム王子も、きちんと手順を踏んで事を進めるべきだった。心の底から彼女を愛して、幸せにしたいと思っていたのなら。


 彼の口から出た言葉は、場当たり的な考えで軽々しく出てきただけのもの。でも、真実の愛。それは、私が求めていたものだった。


「真実の愛に生きる、と言うのなら! まず私と話し合って、婚約を円満に解消するべきでした。その後に、国王陛下と話し合い、ディアヌとの婚約を認めてもらうのが筋でしょう? それなのに貴方は逃げ出して、自分勝手に動いた。今日の婚約破棄も思いつきで、陛下の許可も無い独断専行。身勝手な行動をした罰を受け入れなさい」

「だけど、それだけで、こんな……」

「それだけ? この国の王が決めた婚約を好き勝手に破棄しようとしたのですよ? 貴方は王族であり、継承順位一位の王子でした。ですが、陛下よりも立場は下です。国王陛下に逆らったのです。それは、とても重い罪ですよ」

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