ウチの兄はわたしに関することのみハイスペックです
あひる隊長
第1話 兄と妹
ルドルフ・マイヤーの妹、リーリエは見た目は可愛らしい女の子だ。兄と良く似たフワフワした柔らかな栗色の長い髪、クルクルと良く動く榛色の目、そして声が可愛い。両親に溺愛され、2歳歳上の兄にも溺愛されている。
歴史だけは古い男爵家であるマイヤー家は領地はあるものの、目立った産業もなく、代々名ばかりの領主が王都の木っ端役人をして賃貸住宅の家賃を払うがごとく生き長らえてきた。
しかし、名のある冒険者をしていた先代が買った山に魔石が出た事でど貧乏から脱却。
もともと貴族と言えど底辺の男爵家が急に名を上げた事で、古くから続く家柄にしても先代が冒険者上がりと言うこともあり、成り上がり者、成金、マイヤー家如きが貴族を名乗るなど烏滸がましいと言われる事も多々ある。
そんな家だからこそきっちりとした淑女に育てないといけないはずなのに、甘々すぎる両親と兄。お互い自分だけは娘(妹)に厳しくしていると思っている。
リーリエには、小さな頃から少し変わった所があった。ルドルフや両親に不思議な話をし、見た事もないような料理や菓子を食べたがったりした。困惑した両親は方々を探し回ったりしたが、見つからないものが多かった。
甘々の兄は幼いながらかわいい妹の為に自ら調理場に立ち、いつしか妹の不思議料理担当になっていた。ルドルフはリーリエに一番厳しいのは自分だと思い込んでいたので、自らが一流職人が如く、ほとんどの妹の要求に応えていた事に全く気付いていないのだった…
リーリエの妄想が酷くなったのは11歳の夏の日、彼女考案のシルクのように薄く削った果実氷に蜜を掛けた冷たい菓子(いわゆるフワフワかき氷。もちろん作ったのはルドルフだ)を食べていたときだった。リーリエは淑女らしからぬ動きで口の中にかき込んで…テーブルに突っ伏して「うー…」と唸ったかと思うと突然顔を上げて叫んだ。
「これ、乙女ゲームの世界だわ!」
………はい?
ルドルフが困惑する。
「いつかあなたの元に届くまで〜花乙女と8人の騎士たち〜略していつ花の世界よ‼︎」
「…何言ってるの、リーリエ。…もうちょっと上品に食べれないかなぁ…もう、いつつでもむっつでもいいから、食べ終わったのなら口を拭きなさい。そして、口からおつゆが飛んでいるよ、はしたない。」
ルドルフは白いハンカチを出してリーリエの口を拭った。来年からは中等部に上がると言うに、目を離すとまだ小さい子のような事をする。
ルドルフの
ルドルフには乙女ゲームと言うのはわからないけど、乙女と言うからには女の子の読むお伽話の様なものだろうかと思った。
しかし、そう、リーリエは転生者だったのだ。リーリエの言う所の『いつかあなたの元に届くまで〜花乙女と8人の騎士たち〜』略して『いつ花』とそっくりな世界に紛れ込んだ…。
「兄様、兄様の学年にフィアツィント様っていらっしゃる?」
「…まぁ、いらっしゃるね、ずっと。」
フィアツィント・フォン・プロイセン。我が国の王太子だが、ルドルフが通う学校は貴族が接点の無い庶民と交わるための学校でもあるので、王太子はずっといる。今更改めて確認することもないくらいずっと同じ学年でいるのだ。
多分、貴族令嬢としてよっぽどの子供でも知らないはずのない事を彼の妹は知らないのか?
興味が無かったのだ。
「リーリエ、それでそんな事に突然興味を持った理由を話してもらっていいかい?」
『そんな事』で済まないのだか、年齢以外で王太子に交わることのない男爵家なのでスルーする。
「フィアツィント様は『いつ花』の8人の攻略対象者の一人よ。そして、ヒロインは私の親友のローゼ・リッシェ。」
急に王太子の名前なんか出してきたから興味を持ったのかと思いきや、自分の友達をヒロインだと言い出す妹。しかしこれまた王太子に興味を持ったわけで無いのならスルーする。ルドルフのスルースキルは高いのだ。
ローゼ・リッシェは何度か会ったことがある。長い少し癖のあるピンクゴールドの髪の、ぱっちりした目をしたかわいい女の子だ。もちろんリーリエ程ではない。(勿論ルドルフ目線)
「対するライバル令嬢はクリュザンテーメ・ヘンネフェルト様。黒髪のご令嬢よ。」
ヘンネフェルト家は公爵家で先代の公爵が先王の妹を娶ったバリバリの中心貴族だ。
「いつ花のいいところは悪役令嬢はいなくて、ローゼもクリューも良きライバルなのよ。」
はて?リーリエはヘンネフェルト嬢と愛称で呼び合うほど仲が良かったのだろうか?ルドルフがどんなに思い返してみても今までヘンネフェルト嬢の名前が出てきた記憶は無い。しかも宰相をも務める公爵家としがない男爵家、接点は無い。
「アンチからは設定がぬるいとか言われたけど、私は有り余る悪役令嬢ものよりもお互いを思いやる友情も感じれる『いつ花』はとてもすてきだと思うの。」
夢の話にしてはやけに話が出来上がっている。超絶かわいい(勿論ルドルフ目線、再び)が理路整然とした話ができないリーリエが、荒唐無稽だが筋の通った話をしている。
「リーリエ、大丈夫か?熱でもあるのか?」
ルドルフはリーリエの顔を両手で挟み、心配そうにのぞき込んだ。リーリエは顔を真っ赤にしてルドルフに怒る。
「リーリエはもう小さい子じゃないんだから止めてよ!」
「ハイハイ。ごめんね、お姫様。」
リーリエはプンッ!っと拗ねて横を向いてしまう。それすらも可愛いと目を細めて妹を見る姿は醸し出す雰囲気がまるで好々爺であった…
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