第8話

 「よぉし、じゃあここらでツイスターゲームしようぜぇ~!」


 ハイテンションな健の突然の提案も、酔ってノリがよくなっている皆には通ったらしい。健の考えは手に取るようにわかる。


 男女でやって体が触れあってあわよくば・・・・・・・・・・・・ってことだろう。


「ぐふふ」


 極めつけが下心満載の顔。皆多少酔っているから正常な判断ができない。もし体に触れても明日には忘れている、もしくは悪ふざけとして処理できる。


 長井健二郎、おそろしい子・・・・・・・・・。


「ツイスターゲームとはなんですか?」

「あっれれぇ~? れみちゃんツイスターゲーム知らないのぉ~? じゃあお兄さんと一緒に体験してみるぅ~?」


 このやろう。れみを毒牙にかけるつもりか。許さねぇぞこのやろう。


「先輩、ちょっといいですか?」


 俺一人が反対しても阻止しても、空気が悪くなるしまた誤解が深まってしまう。だから先輩にごにょごにょとお願いをする。


 先輩は健の魂胆を察しているから快く承諾してくれた。


「長井くん~。実際に体験させるよりも~。まずはどういうゲームか別の人とやって見学させるのがいいとおもいま~す」

「え!?」


 ビシッと授業中先生に質問する生徒よろしくわざとらしく手を伸ばして提案する先輩に、場の空気も自然とそうなる。


 この流れで断れるほど健はメンタルが強くはない。


「じゃあ誰が―ー」

「俺だ」


 露骨にがっかりした健だけど、こっちだって男と触れあうゲームなんてやりたくねぇよ。


「お前を倒して、俺は先に進む。楽園(女体)が待っているんだ」

「させねぇ。こっちも譲れねぇんだよ」

「・・・・・・・・・なるほど。お互い考えてることは同じってことか」


 違う。絶対に。ただれみをお前から守りたいだけだ。


 けど、めんどうだからスルーする。


 ルーレットを回して、色と体の部位を指定してお互い置いていく。最初は簡単だけど、次第に動かすのがキツくなってきた。


 いつの間にか生まれたての子鹿のように俺たちはぷるぷる震えている。いつどっちが崩れてもおかしくはない。周りは面白がって盛り上がっているけど、目の前に男の尻がでかでかと間近にあるのを眺めていると次第に冷静さを取り戻していく。


 俺なにしてるんだろう。


 唐突に賢者タイムに陥る。


「くそぉ・・・・・・・・・なんで男の股間を眺めてんだよ俺・・・・・・・・・本当だったら女の子の・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 健は俺以上にきついらしい。


「なるほど。メンタルとバランス感覚を鍛えるゲームなのですね。現代社会ではストレスをなにかとかかえてしまいますから、大学生のうちに、と」


 れみはれみで謎の解釈をしちゃってるし。


「じゃあ次は瞬くん左足を赤に移動~」


 顔を動かして場所を確認する。体勢のせいで健の尻に顔を突っ込みかけながら片足と両手に渾身の力をこめて左足を持ちあげる。酔いのせいもあって中々難しい。


「ちょ、瞬! 股間を近づけんじゃねぇ! 当たる当たる!」

「おま、暴れんな!」


 二人でじたばたしていたのが悪かったのか、体勢を維持できなくなってしまった。どちらからともなく崩れる。皆ああ~、残念~ってかんじだけど盛り上がっている。


 それかられみを含めて何人かで再開している光景を疲労困憊で眺めているとあることに気づく。


 れみスカートじゃねぇか! このままやったら下着とか見られることになるぞ! 


 ここで中止させるのは絶対ブーイングでるし、れみもなんか乗り気だし。


「ちょっとこっち来てくれ」

「え、あの?」


 皆にバレないようにそ~っと移動する。適当に洗濯籠の中にあった高校時代のジャージを手渡す。便利だから部屋着として使っているやつだ。


「これは?」

「これ履いてくれ。そのままやると、あれだろ」

「これ、兄さんのですか?」

「ああ。ちゃんと洗ってるから」


 じ~っとジャージを眺めているれみが不意に赤くなった。


「これ、いつのですか?」

「昔の高校時代の」

「高校時代の兄さんの・・・・・・・・・私が履く・・・・・・・・・」


 なに? どうしたんだ? 


「なるほどそういうことですか」


 不意にハッとしたかんじで冷静に戻ったみたい。どういうこと?


「つまり自分の服を着せることで周りにアピールするということですか」

「は?」

「このかわいい女子高生は俺のものだぜって。義兄としての自尊心も男としての独占欲も満たせる。一石二鳥の作戦ということでしょう。私でなければ見抜けなかったでしょう。それも優しさを装ってなんて。いつもしているんですか? 見境ないんですか?」

「う~ん、今どう反論しようか考え中」


 苦笑いしかでねぇよ。


「兄さんは変わりました。それとも昔から私のこと異性として意識していたんですか?」


 なにを馬鹿なことを。そんなことあるわけないだろ。


 って伝えかけたけど、小田先輩たちがいないことに気づいて騒がしくなっている。


 れみを促して二人で戻るとき、酔っているから昔みたいに頭をポンポンとやってしまった。それきりれみは顔を真っ赤にして、無口になった。


 「ずるいです」「ばか」「私だけ」とかぶつぶつ呟いているけど、意味がわからない。


「じゃあそろそろれみちゃんやってみる~?」

「はい。お願いします」

 

 先輩は相手を探すけど、健たちはまだ疲れているし、何人か酒盛りで盛り上がっている。


「じゃあ瞬くんやってみようか~」

「はいはい俺ね―――――ってえええええ!?」


 てっきり先輩がやると油断していた。


 謎の采配すぎる。


「まだれみちゃんに悪感情抱かれてるでしょ? 二人でやれば仲良くなれるってお姉さんおもうなぁ~」


 先輩の優しさは嬉しいけど、逆効果な気が。


「じゃあこれ飲めばどうでもよくなるよぉ~。それともこの子としたくない理由あるの~?」


 この人酔ってる? それともわざと? 


 ・・・・・・・・・。逆らえない雰囲気。


ええいままよ! 


 差しだされるお酒を一息に呷る。


「「「おお―――!」」」


酔いが一気に回っていくから心地よい。そのおかげでだいぶ忌避感がなくなってる。


「じゃあやるぞ~~い」

「はい。初めてなので優しくお願いします」

 

 変にもじもじしてるから勘違いしそうだけど、ゲームだ。


「はぁ~い。じゃあまずれみちゃん右手青~」

「はい。よっと」

「瞬くん左手緑~」


 酔いがさっきより回っているからか難しさはない。


 逆に進めば進むほど楽しくなってきてテンションも上がってくる。あまり考え成しに移動を繰り返したから左手がれみの腰、右手は頭の上という見ようによってはいやらしいことに。


「ちょ、兄さんお酒臭いです。息も耳に当たってくすぐったいです」

「ん~? んんんんふっふっふふふ~。せんぱ~い。お酒補充してもいいですかぁ~?」


 変なテンションになっているせいで、合間にビールを飲んでしまう。


 そのせいで酔いが加速して体と視界が揺れてふらふらする。それすら楽しくなって、変な笑いが出てしまう。


「どうしたんだぁ~? 俺はまだまだ余裕だぞ~? それともこれしきで限界なのかぁ~?」

「な、馬鹿にしないでください。小田先輩。次の色と場所を」

「え、え~っとぉ、じゃあれみちゃん右足黄色~」

「黄色黄色。あそこにしか」


 れみは向きをなんとか変えて顔と体を反転。俺の股間の辺りに尻を晒す体勢に。ジャージを履いているせいで色気はないけど、なんだかおかしくなってくる。


「あなたのほうこそ、もう辛いんじゃないですか?」

「舐めるなよ~?」


 負けず嫌いなのは相変わらずなのか挑発してくる。昔もゲームして俺が負けるまで何度も挑んできたっけ。中々諦めないで。はは、変わってないな。まさかれみとまたこうして遊べる日がくるなんて。



            ―――おにいちゃん、いかないで――――


 あ。


「ちょ!?」


フラッシュバックした記憶が、体の動作を停止させた。


 ちょうど腕を移動させようとしたタイミングで体勢を維持できなくなって。


 バッターン! 


 けたたましくれみを巻き込んで倒れてしまう。


「二人とも大丈夫~?」

「いたた、私は大丈夫ですけどおにい・・・・・・ランドルフさんが」

「ええ~?」

「大丈夫ですか?」


 身動ぎしない俺を心配してのことか。不安げに覗き込んできたれみの顔が、あのときのれみと重なって。頭も正常じゃなくて。重い瞼に逆らえず。強烈な眠気も襲ってきて。


「ごめんな」

 

 それだけ言うのが精一杯だった。


 れみと皆の声が遠くなっていって、そして眠りに落ちた。

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