第15話 最恐の男
鬼の一族である悪鬼の百名ほどの集団は、緑がある南を目指していた。
単純に岩肌で暮らす者などいないと思ったからだった。
奴らにとって全てが獲物であり、全てが敵であった。
だから獲物がいそうな場所へと移動していた。
その頃、サツキとアツキは高閣賢楼にいて、他の者たちは書物を読み漁っている中、アツキの千里眼とサツキの探知能力でヴァンベルグを調べ上げていた。
それは第六位の天使長ウルフェルの死から始まった。
ヴァンベルグの雪や氷は全て水となって流れ落ち、緑の大地と岩石の大地との間に、川を作り出していた。
更に北の施設は周囲を雪山で囲まれていたせいで、水の底に沈んでいた。
そして問題なのはイシドルの気配が突然消え、新たに現れた何者かによって命を絶たれた可能性が高かった。
実質上、ヴァンベルグ王国は滅んだと言える状況になっていた。
そして、新たに現れた者たちの強さはそれぞれ違うが、一番強いであろう者の強さの限界がサツキでも捉えきれていなかった。
二人は状況を整理し、ディリオスに報告する為話し合っていた。
高閣賢楼の番人が、いつもは外で釣りや
そして一番上にいた二人に、外に出てもいいと言うまでは、決して出るなと命じられた。智の番人に、ディリオスに緊急時には連絡しろと言われている事を話したら、奴なら大丈夫だと言われた。
そして番人は、中から非常に強い結界を張った。
その結界の強さはサツキには感じ取れる事が出来たが、上位の結界であり、擬態化も兼ねている程の結界だと分かった。
つまりは見つかれば襲う連中、悪魔か第四の勢力どちらかになる。
しかし、番人が今までどんな相手でも、用心する事は無かった。
そこから導き出される答えは、第四の勢力だと言う事を示していた。
アツキやサツキの知らない所で、
初めて見せる番人の顔つきから、自分たちでは足手纏いな相手だと言う事は知ることは出来た。そしてそれは意味の無い事だということも、情けなくも仕方のない現実として、二人は受け止めた。
智の番人はその二人の様子を見て、状況だけ教える事にした。
ヴァンベルグ王国で起きた事や天使長ウルフェルの力で今や雪国では無く、ただの岩石地帯であり、居城もウルフェルの力で崩した事を話した。
そしてウルフェルには封印されし第四の勢力がいて、イシドルは何も出来ないまま、おそらくは死んだであろうと話した。
その第四の勢力は今、南下してきている最中であるため、外に出たり、ディリオスと交信すると、場所が特定される恐れがある事を説明した。
「何故、ディリオス様は大丈夫なのですか? イシドルをもあっさり倒す相手のはずです。ディリオス様も戦いになれば、勝てるとは言い切れないほど、強い敵と言う事になるはずですが」サツキは番人の元にいれば安全だと、皆に昔から言っていた。
それはディリオス様が彼女に伝えた事であり、
彼を疑う必要は無いが、その番人も用心する事に対して、不安が過った。
「仕方ないのぅ。ディリオスは第四の勢力について、詳しく既に調べ上げている。
全ては先手を取る為のものであったが、調べていくうちに、お主らの始祖も第四の勢力として封印されておる事が分かった。しかし、その者たちが誰に封印されているのかは誰にも分からんことじゃ」
「お主らというより、皆の想定では、強い天使や悪魔たちが、強い第四の勢力を封印しておると考えておるはずじゃ。しかし、そうではないのだ。最大限まで弱らせ、力を使い果たさせた後に、意識を失わせて封印する。それ故、中位以上の者たちにも封印されておることがある。イシドルの戦闘をわしは見ていた」
二人は通常の理論が通じる相手では無い事を理解した。
そして、イシドルの戦いがどうだったのか気になった。
「イシドルは第四の勢力の鬼の一族の中でも、一番弱い鬼にあっさりと敗れ去った」
その言葉で二人の顔色が変わった。そして本のほうに目をやった。
「鬼の一族の本ならディリオスが既に持って行っておる。読んだからと言ってあまり意味を成さんがな」
「それは何故ですか?」アツキがすぐに問いかけた。
「鬼の一族は……どう言えばよいかのぅ。ああ、そうじゃ。お主らの仲間のブライアンのように己の肉体を最大限にまで強化しておる奴らなのじゃ。だから、ダメージを与える事が可能なら勝てる見込みはあるが、奴らにダメージを与えるとなると、相当な強者でないと無理なのじゃ。そして鬼の大ボスは、身の丈が5メートル以上ある」
「強い結界を張ったのは、ここに来られても戦えるのはわしだけじゃ。分かったら無駄な心配はせず、知識を身につけよ。ディリオスはお主らよりも数手先を見ておる。上手くいけば鬼を全滅させれるかもしれん。無理だとしても相当な被害がでるはずじゃ。お主らもよく知っておる場所に行く事になるからのぅ」
二人はその言葉でようやく理解した。すっかり忘れていたが、
最恐の人物を思い出した。
互いに頷いて、番人の言う通り、心配は無用だとようやく気付いた。
ディリオスでさえ、戦いを避ける相手で、ある意味、第四の勢力と呼ばれる者たちに近い存在の恐ろしい獣。
ミカエルが大火球を落として、館は消し去られたが、ディリオスは絶対に生きていると思っていた。仮にあの大火球を受けたとしても、奴の執念は変わらない。
実弟だが多くの事を知らないが、その強さと恐ろしさだけは知っていた。
ディリオスは本気で考えていた。
奴とは絶対に戦いたくないと。それは実弟だからでは無く、その誰にも負けない執念と、悪魔でもないのに、生肉を食らおうとする行為に、彼は恐れを抱いていた。
奴なら例え、鬼が来ようとも、逃げる事も無く、絶対に戦う事を知っていた。
勇気はあるが、勇者では無い。
奴の恐ろしさは肌で感じないと分からないものだった。
そして、その恐ろしさを知っているのは、ディリオスだけだった。
ディリオスは状況次第では、助けに入る事も視野に入れていた。
鬼の一族相手にして、人間である以上、奴に限って絶対は無いが、
一時的ではあるが、協力関係が生まれれば、勝機が見い出せると思っていた。
それは実弟だからでは無く、鬼の一族を倒せるチャンスだからであった。
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