003

 出てきたパンケーキは、バトルロワイヤルという名にふさわしいてんこ盛り、異種族格闘状態であった。


 バナナ、パイナップル、リンゴ……ここら辺はまだいい。ピスタチオ、生ハム、ブルーベリー、小豆に抹茶、ウエハースのぶっ刺さり。それに大量の生クリームがとぐろを巻いている。


 見ているだけで胸焼けしてきそうなそれを、有馬は幸せそうに頬張っている。


 その姿はまるで子供だ。


 彼女は頬張りつつ水をぐいっと飲み干して僕を見る。


「まぁ話すと長くなっちゃうんですけど、一言で言うと一昨日鎧武者に襲われちゃったんです」


「……は?」


「嘘じゃないですからね。これは大マジなんですから」


 びしっと指をさされてしまう。この言い方、嘘は言っていないみたいだ。



        《回想》


 有馬いろりの話は実はいたってシンプルだった。


 一昨日彼女は隣町まで遊びに行っていたらしく、帰りに林を通って近道をしようとしたらしい。


 その最中、何か黒い影のような存在に襲われてしまったのだという。


 時刻は夕方とはいえ暗く、辺りが見えにくかった。


 襲われたと云っても刺された、殴られた、というような物理的な痛みを伴ったわけではなく、それは有馬曰く。


 【『喰われた』、ですね】


 噛まれた、でもない。

 斬られたわけでも。

 舐められたわけでも。


 感覚として。

 概念として。

 事実として。


 そういう表現方法が最適で、実際彼女はこれ以外その感覚を表現し得ないと言っていた。


 そうして意識が朦朧とする中、意識が完全に消える寸前で彼女の瞳はとらえた。


 朧げな、鎧武者の姿を。


 ————————————暗転


      《回想 終ワリ》



 喫茶なぽれおんにて多量の小遣いを消費し、少々寂しくなったポケットに手を突っ込み外に出る。


 カランカランという鈴の音をBGMに僕と有馬は二人並んで歩く。


 有馬はスイーツをたらふく溜め込んだ自分のお腹を満足そうにぽんっと叩いた。


 あれだけ食べてけろりとしている。


 こいつ思った以上の大食いなのかもしれない……。


「しかし、信じられない話だな。そんなおかしな格好の奴がこの町をうろついてるってことになっちゃうぞ?」


 彼女は腕を組み深く考える。


 うーんうーんと真剣に悩んでいる。


 考え慣れていないだろうに頭をこねくりまわしている。


「でも見ちゃったものは変わらないんですよねぇ。あれは間違いなく、鎧武者でした」


「うっそだぁ……」


「本当です!」


 力強い。


 ぐいっと有馬は僕に寄って顔を見つめる。


 太眉はⅤ字を描き目力を強めている。


 自信はたっぷり。


 そりゃ被害者なんだから自分の見たものを疑われたらこうもなる。軽率な発言をしてしまった。


「…………疑って悪かったよ」


 バツが悪くボソリと吐き出す。


 有馬はチッチッチと指を振ってにこりと笑う。沈んだ僕を励ますみたいに。


「気にしていませんから。荒唐無稽なのは重々承知です!」


 ぐっと腕を伸ばす。


 有馬は目をきらつかせて、さっきまでの雰囲気は何処に行ったのやらワクワクしている。


「探しに行きましょう。鎧武者さんを」


 自分で見る前から相手を否定するんじゃなく、探して自分の目でまず確かめてみる。


 非日常が大手を振ってやってきたのならこっちも礼儀正しく飛び込んでみようじゃないか、というスタイルなのか。


 有馬は嬉しそうに僕の袖を引っ張る。


 こっちだ、こっちだと誘うのだから。

 とことこ、僕も動き慣れていない足を動かした。

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