第50話 前門の筋トレ後門の争奪戦
上限の分からないスキルレベル、終わりの見えない筋トレ地獄―――。
しかし、だからといって筋トレやーめた、とはならなかった。
【スキルボード】から逃げたみたいになるし、何より冒険者業以外でモテる方法を俺は知らないから。
冒険者辞めたら残りの夏休み約一か月、家に引き籠る未来しか見えないので女子と触れ合うチャンスはゼロになる。学校が始まってたとしても女友達は疎か男友達すらいない。な?冒険者を辞めるという選択肢がないんだよ。
それをいいことに【スキルボード】は好き勝手やってくれているが…。
「カイ君どしたの?ボーっとしちゃって」
はぁスキルレベル上げ頑張るかぁと思っている間に朝陽さんは正気を取り戻したらしい。つい先ほどまで俺の存在を忘れていたというのに
ただそれよりも今は<渾身の一撃のスキルボード>のノルマを最大限効率よく達成させれるダンジョンの情報とつい先ほど追加されたスキルLvの上限問題に関することを彼女に聞きたい。
朝陽さんが朝陽さんなことは置いておこう。言っても治らないし。
「いや~スキルレベルの最大値ってどれくらいなのかなぁって考えてたんですよ」
「あ~そういえばそうだね。ゲームとかだったらLv10が上限な気もするけど、【スキルボード】によるとLv10でやっと平均値らしいからね」
「ですね。だから参考までに聞いておきたいんですけど、現在確認されている【身体能力向上】のスキルで一番高い
確認されている中で最も高い
確定ではないがスキルLv上限の指標くらいにはなるはずだ。
強くなるためにはなるべく高くあってほしい、けれども心のどこかでそこまで高くなくていいよという思いがせめぎ合う中、朝陽さんが口にした数値は―――
「んっとね~、【身体能力向上】だと確かアメリカの9つ星冒険者、オリバー・アンダーソンの1720%上昇だったかな。あと【自然治癒力向上】はスイスの誰かさんが1210%上昇だった気がする」
―――まさかの4桁、1720%上昇だった。Lvに直すと172Lvである。
172Lvが上限のLvと決まったわけではない。スキルのLvが人それぞれ違うように上限も違う可能性がある。
だがしかし、172という数字はあまりにも衝撃的すぎた。
「ひゃ、ひゃくななじゅうにレベルかぁ……はは…」
<常設【身体能力向上】>がこのまま変わらず同じように続くとすれば、実に腕立て85万回、懸垂25万6500回、ランジジャンプ42万7500回、ランニング8500㎞の積み重ねを経なければ辿り着けない極地である。
そして忘れてはならない。俺がLvUpさせなければならないスキルは【身体能力向上】だけではないことを。
「…えぇ~っと、カイ君。何も上限が172と決まったわけじゃないからそこまで落ち込む必要はないと思うよ、うん。それに先のことを考えても仕方がない、今を見ようよ、今を……まぁ上回る可能性もあるけど…」
流石の
「そうですね、今が大切ですね……最後の一言は余計ですけど…」
朝陽さんの言う通り先のことを考えるのはやめよう。まずは【渾身の一撃】のノルマを終わらせることを目指すか。毎日筋トレやってたら知らないうちにそこそこのLvまで行くはずだ。考えない考えない。
「朝陽さん、話題変わって【渾身の一撃】のノルマのことなんですけど…」
「おっけ~、聞きたいのは効率がいいダンジョン?」
「はい」
「ノルマは?」
「『八等級以上の怪物を100体倒す』と『等級を問わず100連続で怪物を一撃で倒す』の二つですね」
「なるほど~、二つ目が少し厄介だね~。連続をどこまで連続とするかが問題になりそうだ。…あぁ、どこが効率よく、だったっけ。
―――うん、『渋谷』でいいと思うよ。遭遇率が低めで見通しの悪い洞窟型は問題外だし、迷宮型は
「分かりました、ありがとうございます。ちょうど第11層以降に行きたいと思っていたので異論なしです」
朝陽さんの助言によって午後からの予定が決まった。ここ『渋谷』ダンジョンの第11層攻略だ。
「じゃあ俺はこれで…。明日も筋トレしに来ていいですか」
「もちろんさ。……あ、『渋谷』は『府中』と違って怪物も冒険者も多いから気を付けてね~」
「了解です」
ダンジョンラボを後にする。
(考えない、考えない)
自己催眠をかけながら。
◇◇◇
「お、やっと出てきたな…。どんだけラボにいんだよ…。冒険者なら冒険しろよ…」
一等級ダンジョン『渋谷』、第一層。ダンジョンラボ近くの茂みに息を潜めていた男は今しがた建物の中から出てきた青年を見て悪態をつく。
5時間弱もの間、匍匐前進の格好をしていたのだからキレたくもなる。
例えそれが上層部からの指示だとしても、だ。
「んでこんなことしてんだろなぁ……」
男―――
どうして深く考えることもせずに契約金だけで選んでしまったのだろう。何故そこまで浅はかだったのだろうか。
思い出すごとに昔の自分が恨めしくなっていく。
「はぁ……やめだやめ……おっと…急に走り出すなよ」
だが現状を嘆いても変わらない。
ならば与えられた仕事を早々に
臼井はぶつぶつと独り言を唱えていたかと思えば、突然走り出した観察対象の青年をジョギング感覚で追う。もちろん気づかれないよう、自身のスキルを使いながらだ。
「悪く思うなよぉ青年…。どうしてお前さんが氷室の狸に目を付けられたのかは知らねぇが、俺のために犠牲になってくれ………」
前門の筋トレ、後門の争奪戦―――。
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