ダンジョン溢れる地球の世界線 ~青春に焦がれる青年は脳筋スキルで最強を目指す 「え、冒険者ってモテるの?ならなります」~

海堂金太郎

第一章 冒険者登録編

第1話 モテたい。(加筆修正済)

 "モテたいか―――"


 全国の悩める男子学生。いや全人類の男に聞いたら9割5分の男たちはイエスと答えるであろうその質問。


 もちろん俺もイエスと頷く。イグザクトリーイエスだ。


 女の子と一緒に新宿で映画を見たり原宿でパフェ食べたり定期テスト前なら表参道のカフェで勉強会を開いたり。あぁ、どれほど楽しいのだろうか。しかし悲しきかな、俺はその楽しさを想像することは出来ても体験することは出来ない。


 え、何故かって?いないんだよ。彼女が、女友達が。というか男友達すらいない。

 せっかく中高一貫の男子校という6年地獄を3年で抜け出して共学の高校に入ったというのに……。これじゃあ、男子高生より灰色じゃないか。


「どうしてこうなった……」


 花の高校生活が始まって丁度三か月になる今日、教室でただ一人ほうきとちりとりを持ちながら灰色の現状を嘆く。


 3年間別世界に隔離されていたブランクを埋めるためネットで勉強したというのに。清潔感は保ちましょうって書いてあったから服はピシッと着ているし、髪だって不自然にならないくらいのワックスをつけて整えている。それにプラスでミステリアスな雰囲気を出していれば女の子から声かけてもらえるって書いてあったから席替えでわざわざ窓側を選んで外眺めてたじゃんか。


「クソ……やっぱ、顔なのか……」


 母さん、あなたは結局最後に選ばれるのは内面がしっかりしている人よって言っていたじゃないか!


「はぁ…」


 掃除が終わり、自分の席にかけてあるリュックの中に教科書を詰める。ちなみにしっかり座った状態で、だ。机の中に入ってる教科書って立ったまま取り出すとなんか途中で引っかかるんだよな。俺、あれ嫌いなんだ。


 机の中に何も入っていないのを確認して、さぁ帰るかとバックを持ち上げようとしたそのとき。廊下から甲高い声が聞こえてきた。


「マジごめんね~、うちが忘れ物しちゃったせいで」

「いやいいって。それより早く取ってカラオケ行こ~よぉ」

「賛成。期末終わったしね」


 その声の主たちはあろうことか1年B組の教室。つまりは俺がいる教室に入ってきた。しかも三人ともうちのクラスのカーストトップの女子だ。お洒落な着崩しに明るい髪色。元男子校生には眩しいぜ。


 (どうしよう……)


 モテたい。俺はモテたい。


 内心軽いパニック状態になりつつも高校受験した目的は忘れない。ミステリアスな雰囲気を出していれば女の子は話しかけてくれるとネットに書いてあったが、面白い話を出来る男もまたモテると書いてあった……気がする。


 まずは親近感を持ってもらうために笑顔で話しかけるか?でもカーストトップはキツ過ぎやしないだろうか。こちとらカースト最下位どころか組み込まれてすらいないボッチ君だぞ。無理じゃね?レベル1の状態で始まりの街出るようなものでしょ、そんなの。ボッチに優しいギャルは創作の中だけである。


 …ていうか学校で最後に声出したのいつだっけ。あ、昨日の「おばちゃん、コロッケパン一つちょうだい」か。今日出してねぇじゃん……。


「―――ねぇ、彼氏にするんならどんな男がいい?」


 女子たちに話しかけるかかけないかと悩んでいる間に女子たちは帰るのではなく駄弁り始めた。しかもその内容は俺が今一番知りたいものであった。激アツ。


 (作戦変更。作戦名『陽キャ』から作戦名『ミステリアス』に、いえっさー)


 脳内管制室からの指令に俺は物憂げな表情で窓の外を眺めながらも耳を傾ける。


「ん~、わたしはモデルとかやってるような爽やか系かなぁ」


 まず初めに好みの男を発表したのはゆるふわ系の相川さん。小柄で甘え上手な彼女は男子人気が高いため女子受けが悪そうに見える。が、そこは立ち回りが上手いのか特に疎まれることなく女の子友達も普通にいる。好き。


 そっかぁ、爽やか系かぁ…より厳密に言うと韓国系かな?この前は韓国アイドルの話で盛り上がっているところ見たし。相川さんは長身韓国系イケメンと。メモメモ。


「え、マジ?あたし部活に命かけてますって感じの男かな」

「うわぁ、筋肉オタク出たw」

「違うし、筋肉もいいけどなんか努力してる人っていいなぁって」

「なに?美少女漫画のヒロイン?」

「面食いに言われたくないわ」


 そしてお次は容姿性格共に姉御っ気ある木村さん。長身に切れ長の眼、中性的な顔立ちに加えて面倒見がいいため女子人気が圧倒的な女の子。高校生離れしたプロポーションと男女関係なしに距離感が近いためもちろん男子人気も高い。好き。ナニがとは言わないが俺氏、ないよりはある派である。


 なるほどねぇ、一生懸命な筋肉が好きなのかぁ…いい趣味しているのね。今はボッチしているけどこう見えて俺は中学時代結構有名なバスケ選手だったりする。身長178センチ体重72キロ。高過ぎることなく筋肉質。だからワンチャンあるかもしれない。え、今はボッチだから無理?そうですか。


「佐紀は?」

「冒険者かな……」


 そして最後は小松さん。ただ俺は他の二人と比べて彼女のことをよく知らない。何故かというと小松さんは休み時間になるとすぐに教室を出ていってしまうからだ。他の子は理由を知っているのかそのことについて触れないけどなんでだろうね。ボッチの俺は知る由もない。でも好き。可愛いから。


 そんな小松さんであるが正直冒険者の男はあまりお勧めしないかなぁ。男子校では冒険者=ヤリちんというのが定説なんだ。そこには女の子と触れ合えないことから来る嫉妬心が多分に含まれているけどそれを差し引いても冒険者の男はいけません。あぁいけない、けしからん!


 けれども今の俺に彼女を止める権利はない。というかそもそも話す権利すらない。ボッチなので。だから彼女の友人である相川さんと木村さんに期待しよう。さぁ止めるのです。お友達がヤリちんの餌食になる道をここで絶たなければ後悔するぞ!…お願いします、クラスから選択肢を一つ減らさないで!


「あっ、わたしも冒険者がいいかも!顔がいい人も多いって聞くし」

「あたしもやっぱ冒険者かも、筋肉だし」


 ぅぁぁぁボッチの願い空しく相川さんと木村さんは小松さんを止めるどころか冒険者派に流れていったぁぁぁ。


「筋肉だしって何それ、結局筋肉じゃんw」

「うるせー。で、なんで冒険者がいいの?」

「同い年でもお金持ってそうだし、遊び慣れてそうだし?」

「あ~確かに。てかなんで疑問けーなの、うける」

「余裕がある男子っていいよね~」


 けれども話を聞いていくうちに俺の中で冒険者に対する認識が変化していく。ヤリちん、無学、社会の敗者復活戦。今まではマイナス面ばかりを見ていたけれどもそれ以上のプラス面もあるのでは?実際、冒険者になればこの三人のような異なるタイプの女子たちの好みになれるってことだもの。


「明日土曜だし渋谷行ってみる?」

「いいよ」

「おけ、でも今はカラオケね?」

「あーね、忘れてたわ」

「んじゃ、いこっか」


 女子三人組が教室から出て少し、校庭で部活に励むモテ男たちを窓越しに見ながら俺は決心した。


「冒険者なろ」


 全てはモテるため、青色の春を送るためだ―――。

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