満開の

『満開の』


桜の満開が苦手だった。


青く抜けた空に弾けるポップコーンのようにご機嫌な白の塊が僕を焦らせた。


この不意に訪れた幸福を最大に活かせと責め立てているように感じた。

曇天に埋もれる薄灰色や、雨粒に滲んだパステルピンクや、がくの紅色が目立つ頃を無価値と糾弾しているように思えた。


僕は今日もコンクリート路を睨め付け歩く。

麗らかな日差しに透け、少しざらついた風に踊る5枚一組の季節の欠片。排水溝に詰まる生白い生爪たち。頭上から聞こえるカサカサという笑い声。


僕は耳をつぶり、眼をふさぐ。鼻先から垂れゆく水晶もそのままに、この命の浪費が終わるのをじっと待つ。


花弁に不埒な緑が混じり始める頃、僕はやっと顔を上げた。

かまわないさ、いつの日かに見た桜にはどうせ勝らない。今年も。来年も。その先も。

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