校長せんせーの長くてつまらない話に説得力が宿った瞬間の話

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 ふぁー。


 ねむっ。


 さっきから定期的に子守歌が流れてくるから、あくびを我慢するのがしんどい。


 朝っぱからそんな眠くなる歌うたうなよな。


 といっても、比喩だ。


 実際に子守歌がうたわれているという事はない。


 だって、俺の視線の先にいるのは校長だし。


 それに、その校長がやってるのは朝礼だし。


 体育館のステージの上で、生徒である俺達を見ながらしゃべってる。


「で、あるから友達は大切にすべきだ。いざという時、人を助けるのは人の縁である」


 道徳の教科書でも読み上げてんのかって感じ。


 当たり前の事ばっかりだ。


 うっすい内容をペラペラしゃべってるから退屈なんだよな。


 はぁー。


 なんで朝礼ってこう眠くなるのかな。


 昨日のテレビの話とか、芸能人の事とか、もっと面白いこと喋ればいいのに。


 俺はもう、立ったまま眠る特技でも身に着けちゃいそうだよ。


 体育館の壁についている時計を見る。


 これぞ教育現場の道具。


 ……みたいなシンプルな時計が、壁にかかっていた。


 もうかれこれ始まってから十分も経ってるんだけど。


 俺の学校、他の所と比べて朝礼が長いんだよな。


 隣町の学校の朝礼なんて、たった二、三分で終わるっていうのに、俺の所なんてその三倍、五倍じゃん。


 場合によっては、延長戦に入って十五分くらいかかる事もあるし。


 なんで、そんなに気合いれるんだよ。


 たかが朝礼だろ?


 真面目に聞いてる奴なんていないって。


 って、思ってたらとある日の校長は「一日の始まりに生徒へ気合を入れるため」とか言ってたっけ。


 長ったらしい朝礼の中で。延長戦の中で。


 気合が入るどころか、ダウンしてるよ!


 頑張る良い先生アピールしたいなら、もっと別の所でやってくれよ。


 俺達、そういうの求めてないんだけど。


「誰かの為に行動する事は大切だ。見返りを求めない行動は尊い」


 ああ、はいはい。


「諸君らも、人が困っている所を見かけたら、迷わず手を差し伸べるように」


 へいへい。そうですね。






 で、そんな我が校の話の長い校長先生が、長時間色々くっちゃべってたら、なんか突然辺りが暗くなった。


 ん?


 なんだ。


 ここ室内なのに。


 体育館の照明が落ちたとか?


 いや、今日は晴れだし。


 窓の外は太陽さんさんだ。


 元から電気つけるほどの天気じゃなかったしな。それはない。


 だったら?


 俺達は上を見上げた。

 

 すると、そこには次元の渦っぽい何かが出現していた。


 え?


 映画の撮影でも始まったのか?


 なんか角がはえたあやしげな集団がその渦から姿を現してきてるんだけど。


 しかも、そいつら浮いてる?


 魔法でも使っているのかって感じで、めちゃくちゃ俺達の頭上で浮いてる。


 するとその集団の先頭にいた、ちょっと偉そうな奴が喋った。


 他の連中より角が大きい。


「ふははははっ、勇者よ! やっと見つけたぞ」


 そいつは校長先生に用があるらしい。


 だって、校長先生見てるし。


 校長先生以外目線の先にいないし。


 なんでよりによって校長なんだって思うけど。


 校長も校長でなんか、今まで見たことがないくらい機敏な動きで構えをとってる。


 来ているスーツのポケットに片手を入れていたりするけど。


 そこから一体何を出すつもりなんだよ。


 生徒や他の先生たちがざわつき始めていると、空中に出現した角集団が吠えるように喋り始めた。


 その様は、演技とは思えない迫力だ。


「あの時はよくもやってくれたな! これはその仕返しだ、魔王城での恨みを晴らさせてもらうぞ! 食らうがいい」


 それで、その怪しげな角集団が杖みたいなものを出して、何かの呪文を唱え始める。


 いきなり何の茶番が始まったんだって思ってたら、周囲にいた生徒達が次々に石にされていってびっくりした。


 試しに隣で石化した奴に触れてみたら、固かった。


 マジだ。


 夢とは思えないリアルな手触りだった。


 どうやら現実らしい。


 やべぇ、本物だ。どうしよう。


 って、石化しなかった生徒達が一斉に騒ぎ出す。


 もちろん俺もうろたえる。


 体育館中が俺達がパニックになっていたら、そこにまた別の集団がやってきた。


 体育館の壁をぶちやぶって乗り込んできた。


 今度は人外だ。


「グォォォォン」


 ツバサを生やした悪魔みたいな生物。


 いや、その背中に人間が乗っているぞ!


 試験管を持った白衣の女性が、高笑いしていた。


 こいつらもステージの上にいる校長に用があるらしい。


「あはははっ、よくも私の野望を打ち砕いてくれたわね。お返しにウイルスをばらまいてやるわ!」


 試験管をちらつかせて、何か危険な物を散布するとか言っている。


 その中身を見て見ると、あきらかにやばそうな色をした液体が入っていた。


 近くにいた生徒や先生達が、慌ててそこから逃げ出す。


 しかし、まだこれで終わりじゃない。


 極めつけは、銀ピカロボットだ。


 体育館の屋根を壊して入ってきた。


「ワレワレ神威帝国に逆らったものは、どこへ行っても、けっしてミノガシハシナイ」


 うん、それも校長先生を見てた。


 見間違いようがないくらい直視してた。


 けど、校長先生も何もせずに突っ立っていったわけじゃない。

 なんか、ポケットから出した怪しく光る薬を地面にぶちまけている。


 そして長い呪文を唱えて、「いでよ!」とかもやっちゃってる。


 そんな中二病な。


 テレビや漫画じゃあるまいし、なんて思いながら見つめていたら、なんかその薬がぼわっと煙を吹きだし始めた。


 もくもくした煙が辺りに満ちるけど、風もないのに不思議とすぐに晴れていく。


 煙があった場所には、突然現れたみたいに人が立っていた。


 その人は、可愛らしいドレスのお姫様みたいな女性だった。


「召喚秘薬を使われたという事は、何かの危機なのですね。勇者様! あの時助けて下さった恩を返します」


 お姫様っぽい人は、きりっとした表情で校長の前に出る。

 そして、すばやく体育館を見回した後、どこからか杖を取り出した。


 何かの呪文を唱えると、杖の先端からキラキラした光が出現して、それらが石化した生徒達にふりかかる。


 すると、固まっていた生徒達がみるみる内に元に戻っていった。


 しかも、現れたのはお姫様だけじゃない。


「よくぞ呼んでくれた! 日の当たらぬ道を歩んでいた我らを、ウイルスとの長き戦いから解放してくれた恩、今こそ返す時だ」


 様々な武器を持った、白い制服のきりっとした集団もいる。


 そいつらは校長に敬礼したあと、刃物とか弓とか剣とかを手にして、あやしげな集団に襲いかかっていった。


 後は。


「おう! ようやく俺達を呼んでくれたな! 別の世界と言えども平和な世の中が脅かされていくのを、黙ってみていられるわけがない! レジスタンスの底力みせてやる!」


 古びたジャンクパーツを継ぎ合わせて武装したような集団も、機械スーツみたいなのを身にまとって、戦いに加わっていったりしていた。


 で、極めつけに校長先生は、どこから取り出したのかなぜか大きな大剣を持っている。


 普段の姿、よぼよぼした足取りで廊下を歩いている時とは全然違った。


 背筋はぴんと伸びて、足取りもしっかりしていた。


 おだやかを通り越して気弱そうな光を宿していた瞳には、今は強い光が満ちている。


、そんな校長は、体になんかキラキラしたオーラをまとわせる。


 すると、すぐに筋肉ムキムキになっていった。


 校長はそこに集った仲間っぽい人達に向けて、大声を放った。


 マイク無しじゃ体育館の向こう側まで到底届かないような普段の声量とは全然違う。


「お前達、よく来てくれたな! また共に戦えて嬉しいぞ。よし、力を合わせて敵に立ち向かおう!」









 それからなんやかんや、大騒乱が発生。


 俺達は、よく分からないままやべぇ戦いに巻き込まれていった。


 当然、そんな大事件が起きたので、その日は休校になった。


 体育館は欠けたり、燃えたり、溶けたりしてボロボロだ。


、でも、次の日に登校した時にはすっかり元通りになっていたので、最初見た時は夢でも見たのかと思った。


 朝礼もいつものように滞りなく行われたしな。


 でも、


 俺は気が付いた。


 体育館の壁にくっついてる時計の一部が焦げていることに。


 あ、あれ現実だ。


「で、あるから友達は大切にすべきだ。いざという時、人を助けるのは人の縁である」


 校長は昨日と同じ話してるけど、なぜか妙な説得力があるんだよな。


 珍しい事に、その日の朝礼は皆起きて聞いてたな。


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