二ノ巻4話(後編) この場所は我々が
百見はかすみと賀来を見回すと言う。
「というわけで、だ。相手はどうやら『剣』に関わりがある様子……ならばいっそ、直接対決する機会を作れば手がかりが見えてくると思ってね。かといって
それよりよほど
「あの……剣道部を訪ねてみるとか、体験入部してみるとかでは……」
百見は首を横に振る。
「それも考えたが、いきなり試合に応じてくれるとは思えない。剣道経験でもあればいいが、未経験者の僕たちではね。故に、交換条件として道場を占拠した……柔道部には交渉して来るのを遅らせてもらった――試合で人数が足りないときは崇春が助っ人に行くという条件で――上で、入口の引き戸に中からつっかい棒をしてね。これが最適解さ」
その肩を賀来が横からつつく。
「最適解はよいのだが……あれはどうする気だ」
指差した窓の外では、剣道部員たちが集まって話し合っていた。
「何なんだろうなこれ……」
「なんかの冗談だろ」
「けど、実際入れないんじゃ……」
「とにかく、先生呼んでこようぜ」
百見は、かくり、と口を開ける。手にしたメガホンを握りしめた。
「な……何いぃ……っ!?」
かすみはまたしても声を上げる。
「いや、そりゃそうなりますからーーっ! どうするんですか、さすがに先生に知られたら……」
百見はなだめるように、両手をこちらへ向けて言った。
「落ち着くんだ。大丈夫、もしものときの手は考えてあるさ。大丈夫、本当に大丈夫だから」
いつものように眼鏡を押し上げたが。その目はしきりに
そのとき、崇春が足を踏み鳴らした。外へ向かって声を上げる。
「笑止千万! どうしたんじゃい、武道者が揃いも揃って、敵を前に背を向けようとはの! 相手になるのはわし一人……とっととかかって来んか!」
力強く立てた親指で自らを指す。
百見は一瞬顔をほころばせたが。すぐに真顔になり、メガホンを手に声を上げた。
「そのとおりだ。我々が望むのは一対一の真剣勝負! そちらも最強の人材を出してはいかがかな……剣道部のエース、平坂円次とやらを」
剣道部員たちは顔を見合わせる。
「む……」
「何か知らんが、そこまで言われたらな……」
「やってやろう……頼むぞ平坂!」
「行け平坂くん!」
「そうだ行け、ってあれ……平坂は?」
「そういや来てないな」
百見の手からメガホンが滑り落ちる。床に落ちたそれが音を立てた。
「何……だと……」
「どうするんですかこれーーっ!」
「本当にどうするんだ、これ……」
かすみと賀来が口々に言う中。
百見は何度もうなずき、なだめるように両手を掲げた。
「大丈夫だ。もしものときの手は考えてあると言ったろう――」
「そうなんですか、じゃあそれを――」
「――ああ。素直に謝ろう」
「――って、無策なんじゃないですかーーっ! それ失敗ってことですよねこの作戦! これだけ
「何、心配は無用さ」
百見は親指で背後――道場の隅に置いたビニール袋の包み――を示す。
「謝罪用の菓子折ならすでに用意してある」
「なんでそんなとこだけ手際いいんですかーーっ!」
百見は目をつむり、あきれたようにかぶりを振る。
「なんでも何も、他の部員にまで迷惑をかけるわけだからね。作戦の成否にかかわらず、その辺りはきちんと謝っておかないといけないだろう」
賀来は片手を腰に当て、体重を片脚にかける。半目を開き、じっとりとした視線を百見に向けた。
「なんていうか……貴様は。常識があるのか? ないのか?」
百見が手を一つ叩く。
「さあ、切り替えていこう。崇春、さっそく謝罪の――」
視線を向けたそこに崇春はいなかった。見れば、窓際に寄って外の部員と話をしていた。
「ほう、お
窓の外で男子部員が声を上げた。
「ええ、円次だけが強いと思われたのでは
かすみはつぶやく。
「……誰?」
賀来がつぶやく。
「なんか、まとまってしまったぞ……話が」
百見は表情を変えず再び手を叩く。
「よし、切り替えていこう! 頼むぞ崇春!」
崇春は強く胸を叩く。
「おうよ! どーんとわしに任さんかい!」
「いいんですかそれで……」
つぶやき、大きく肩を落とすかすみだった――そして今さら気づいたが、かすみも覆面をかぶっていなかった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます