二ノ巻2話(後編) 剣士邂逅(かいこう)
かすみは男の去った方向を指差す。
「えっと……行かせて、良かったんですかね」
百見が肩をすくめる。
「さて、ね。仮に彼が怪仏として、何をしたかと言っても……木を倒しただけ。ここの管理者でもない僕らが
賀来へ目を向けて続けた。
「それよりも、彼に覚えが? 隣の部とか言っていたが」
目を瞬かせ、賀来がつぶやく。
「柔道部の隣……同じ道場の、剣道部。あんな感じの奴……確か、いた」
校庭の片隅には別棟があり、柔・剣道場として使われている。見た目には平屋造りの日本家屋、いかにも道場といった風情だ。
それにしても剣道部。なるほど、あの格好や木刀からしてそうなのだろう。
とはいえ、それより気になるのは。賀来と共に見た、あの怪仏の影。剣を使う、六本腕の怪仏。一撃で木を切り倒すほどの怪力を持った。
それと戦うことになるのか、崇春や百見は――そして、かすみは何もできない――。
かすみは自分を抱くように腕を組み、うつむいて唇を噛んだ。
崇春が声を上げる。
「むう……そりゃあそれとしてじゃ。せっかくお
そのまま茂みをかき分けて大股で歩き、参道の方へと向かう。
かすみはつぶやいた。
「えーと。やってる場合ですかね、っていうか……そもそも神社って、仏教じゃないんじゃ……」
百見が言う。
「神社は日本古来の神々を
かすみは首をかしげる。
「ん? 半分?」
「そう、半分。もう半分の答えとしては『
眼鏡を押し上げて百見は続ける。だんだんと早口になりながら。
「もっとも
賀来が半歩後ずさり、かすみにだけ聞こえるようにつぶやく。
「ね。何言ってんの、こいつ……」
かすみは力なく笑って首を横に振る。
そうだ、百見もまた――ある意味崇春と同じく――仏教な男、いや不器用な男。なのだった。
そうする間にも崇春が参拝しているのか、大きな
かすみは息をついて――とりあえず話を切り上げようと――言う。
「あー、その。百見さん、せっかくですし。私たちもお参りしておきませんか」
いよいよ早口になっていた言葉と早送りのような身振り手振りをぴたりと止め、一呼吸置いてから百見が答える。
「――なるほど、そうだね。実践、それもまた仏教徒としての在り方か」
そうして参道の方へと歩き出しかけたとき。何かに気づいたように、百見は茂みの奥に目を向けた。そちらへと分け入っていく。
「どうしたんですか?」
言いながら後をついていった、その先には。
木が倒されていた、二本。今日見たものと同じように。何かを叩きつけたかのように、ささくれ立った荒い断面を見せて倒れていた。
違うのはその太さで、一本は竹刀ほどの太さ、もう一本は手首ほどの太さ。どちらも、今日切り倒されていたものより細かった。
百見はその断面に触れる。
「乾いているな……特にこの、細い方は」
ということは、この二本は今日切り倒されたものではなく。細い方は特に、一番最初に倒されていたということか。
「もしこれも、怪仏が倒したのなら……以前から、二回はここに来ていた、ってことですか」
「ああ。僕らと出くわしたことで、今後も来るかは分からないが……この場所は、今後確認しておく必要がありそうだ。それに平坂といったか、彼の学校での様子もね」
かすみは唾を飲み込む。
ついて来た賀来は隣で目を瞬かせる。
「どうしたんじゃい、皆参らんのかー?」
崇春の声だけが、場違いに間延びして響いていた。
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