二ノ巻1話 怪仏の影
夜の
けれど誰かが小枝を踏み折り、思わず小さく悲鳴を上げた――四人の一人、
火がつくように、後ろの一人が高い声を上げる――
「ちょおお!? 何っ、やめっ、気づかれるだろ!」
――銀髪の混じるツインテールを震わせた、
二人の前にいた者が小さくため息をついた。賀来を指差し、口の動きだけで言う――『それは君もだ、カラベラ嬢』
――銀縁眼鏡を指で押し上げた、
その動作が気に
かすみは慌てて人差指を自分の口の前に立て、しーっ、と息を漏らした。
それでどうにか、何も言わずに収まった。
が。その三人の前を行く、大きな背中の男の方から。すうぅ、と息を吸い込む音がした。
「頼もおおおおぉぉぉうっっっ!!」
鎮守の森の
その男――はち切れそうな筋肉をぼろぼろの僧衣に押し込めた、
「
かすみが崇春を指差して、ぱくぱくと口を動かし。賀来が口を開けて固まる中。
百見が、手にした本の背表紙で崇春を叩いた。
「君は馬鹿かっ! 何やってる、静かに近寄っていた意味が分かっているのか!」
打たれた後頭部をさすりつつ、崇春は言う。
「何言うちょんじゃ、忍び寄ったところでどうにもならんわい。どうせ、正面から向き合わにゃいかんのじゃ。怪仏とは……人の
崇春がそう言う間にも。茂みの向こう、
誰かがいる。おそらくかすみと賀来の見た、
それぞれ戦利品の素晴らしさを
やがてその道は、背丈ほどに積まれた石垣の横へと差しかかる。その真ん中には道から上がる、同じく石積みの階段。その先には
そういえば、この間の
その奥から音がした。まるで火花の
その高く鳴る音に、二人同時に身をすくませ。それから、目を見合わせる。
何でしょうね、と、かすみが言う前に。賀来は石段を上っていた。
「え、ちょ……」
かすみの声と、止めるように思わず出した手を気にした様子もなく。鳥居の向こうを見据えたまま賀来は言う。考えるようにあごに手を当てて。
「神社の森、夜、そして甲高い音……これはおそらく――」
その手を一つ振ると同時、人差指を立てて言う。
「――あれだ、ワラ人形の、ほら……
振り向き、白い歯を見せた。
「――気になる! いや、そう、魔術的に、魔王女たる我としてはな!」
嬉しげに緩む賀来の頬とは対照的に、かすみの頬は引きつった。
いや、前の怪仏騒ぎ。遠因のいくらかは、あなたのやった呪い――それ自体に効果はなかったにせよ――ですからね?
夜闇のせいかどうなのか、かすみの表情に気づいた様子もなく。賀来はいそいそと石段を駆け上がる。帰りを急ぐシンデレラだって、ここまで素早くは階段を駆けられまい。
「かすみ、我に続け!
「ちょ、待っ、えええ!?」
ともかく必死に、賀来の――その手の鞄で揺れる、蛍光色の骨格模型の――後を追う。
そして二人は見た。竹刀を振るう何者かと、六本の腕を備えた影が、木を一息に断ち斬るのを。
――そしてその後。二人はすぐにその場を離れ、崇春と百見に連絡を取った。
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