37話 祠
「やっと着いたな」
蜘蛛に襲われて以降、特に何もなく大木の下の祠に辿り着いていた。
「ふぅん? 中の方に魔術陣があるのか。しかし隠すためとはいえ面倒なことをするな。石にあんな複雑な物を刻むのは大層難しいだろうに」
祠を見ながらルネは自らの考察を述べる。
「いえ、ここの魔術陣は石に刻まれている訳ではないんです」
「ん、どういうことだ? 媒体が違う、ということではなさそうだが?」
「見ればわかると思います」
ルネの考察を否定したレティシアは祠の門を開けてはルネに覗き込むことを促した。
覗き込んだルネは見たものに対して片眉を上げた。
「これは、魔術陣が浮いてる、のか?」
ルネの見たそれは空中に浮かびながら仄かに光る魔術陣であった。
「はい、その通りです」
「だがどうやってそんなことを? 石に刻むのでは駄目だったのか?」
宙に浮かぶ幻想的な魔術陣はルネにとって遊び心を注ぎ込んだ物にしか見えず、珍しさに目を見張りはしても凄さはいまいち伝わらなかった。
「石などの鉱物に刻むとなると壊される可能性がありますから、おそらくそれを警戒してのことだと思います」
「なるほど、じゃあこれは壊される心配はないと?」
「壊される、というよりも自動で再構成を出来るようにしているといった方が適切でしょうね。私の魔術にも似たような理論が使われていますから、間違いないでしょう」
こんな風に魔術について語れることは今まで一度もなかったので若干満足げな雰囲気をレティシアは出した。
もちろんルネは微笑ましげにレティシアを見つめては口元を手で覆い隠しながら静かに笑う。
「·······っと、そろそろ行こうか。祠の魔術陣を起動してくれ」
「はい」
レティシアが祠に手を翳し、魔力を注いでいく。
前回も注いでいるで魔力の必要量は覚えている。
だから違和感を覚える。
(·······必要量が、少し多い?)
確証はなかった。
水で満ちているプールにコップ一杯の水を足される様な、些細すぎる違い。
普段なら「まぁ、いいか」と気にしなかったが、最近は色んな事が身に降りかかって来ているし、何より
面倒な事に気がついたと言わんばかりにため息を吐き、魔力の供給を止める。
―――停めようとした。
「·······ッ!」
「おっと、これは不味いなぁ」
祠の魔術陣は燃えるように熱を発し始め、仄かな光は朝日のように目映い。
危険を感じたルネは直ぐ様レティシアの腰に手を回しては後ろに飛ぼうとする。
しかしその判断は遅く、魔術陣の発動が先をいった。
「レティシアさん! 結界!」
「はい!」
レティシアが即座に結界を展開したと同時、眩い光は辺り一帯を白く染め上げレティシア達もを包み込んだ。
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