第6話 犠牲者

「クソッ!」


 一国は、さっきまで会話していた隊員が、面倒を見てやっていた可愛い部下が、あの潰れた車両の中に居たとは信じたくなかった。


 自分が目を離さなければ、間に合ったかもしれない。

 そんな後悔が彼に押し寄せる。


 しかし、彼はこの部隊の隊長であり、これ以上の被害を出さないよう最善を尽くす義務がある。

 奴は次の獲物を狙うかのように、再度こちらに向かって走り出した。

 時間がない、今は悲しむより、まずは現状確認だ。


 奴の大きさは間違いなく10mはある。

 そして揺れが一瞬収まったのは、奴が高くジャンプしたからであろう。

 そして着地の衝撃で最後尾にいた機動戦闘車を踏み潰した。

 中に居た隊員が生きていることはまず無いだろう。


 先程の2つの選択肢、仮に後者を選んでも奴のジャンプで一気に距離を詰められる可能性がある。

 となれば取るべき行動は決まった。


「全隊員へ通告! 安全な速度を維持しつつ、M2と主砲で奴の足を狙い速度を落とさせろ! 潰された車両は...あきらめろ」


 仇を取りたいところだが、我々自衛隊は復讐の組織ではない。

 足を狙い、奴の速度を落とすことが出来れば、それで我々全員が生還することが出来る。


 最後の発言に異議を唱えたかった隊員も居ただろう。

 しかし、あそこまでぺしゃんこになった装甲車を見て、まだ生きていると思う隊員もまた、居なかっただろう。


 奴がまた目視できる距離に追い付いてきたタイミングで、一斉に主砲が放たれる。

 その中の1発の弾が足の間接であろう部分に命中し、吹き飛ぶとまではいかなかったが、かなり損傷を与えることに成功した。


(105mmであの程度か...)


 奴はバランスを崩し転倒し、我々との距離がどんどん離れていく。

 熱探知機能も反応が遠くなっていることから、再度向かってくることも無いだろう。


「今度こそ、誰も追ってこないだろうな」


 一国は出口に辿り着くまで警戒を怠らず、着いた後は敵性勢力と出くわし、交戦したこと、そして隊員4名と機動戦闘車1台を失ったことを報告し、待機していた医療チームに全員検査を受けた。

 後続の調査班による調査は当然中止となった。

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