第4話 未知との遭遇

「こ...これは、どうなっているんだ?」


 自衛隊が穴に入ると、中はそれほど暗くなく、もし機動戦闘車のライトが無かったとしても、辛うじて奥まで見える程には明るかった。


 さらに嬉しい誤算もあった。

 無線を確認したところ、どうやら、穴の中同士での通信は可能なようだ。


 しかし、それよりも彼らが驚いたことがある。

 中が明らかに入り口よりも大きい空間が広がっていた事。

 体育館に入った時の感覚と言ってもいいだろう。

 1つ体育館と違うのは、外から見ると、入り口の奥には何もないように見えることだろう。


 だが、任務を中止する理由にはならない。

 一国達は、周囲を目視とレーダーで警戒しながら中へと進んでいく。


「この穴を出現させた国は、一体どれ程の技術力を隠し持っていたんだ?」


 一国がそう呟くと、1人の隊員がそれに答える。


「やっぱりSNSで噂されてる通り、ダンジョンなんすかね」


 穴が出現した日からSNSでは穴の話題で持ちきりだった。

 特に多いのがだ。


 ただ穴が出現しただけではなく、世界中のいたるところに、しかも奥まで続いていそうに見えるのに何故か横や後ろから見ても、続いているようには見えない。


 今の世界にそんなことができる技術力を持った組織はない。

 それは政府だけではなく国民も思い始めているのだ。


 ダンジョンだという証拠が無くても、それをネタにするには十分な理由だった。


「今は任務中だ。冗談はよせ」


 だが、一国は、隊員の呟きを一蹴する。

 一国もSNSでそんな話題が挙がっているのは知っていたが、

 信じてはいなかった。

 気にしていないといってもいいだろう。

 そもそもダンジョンであろうが無かろうが、どのみちこの穴の安全を確保するという我々の任務に変わりはないのだから。


「いいか、憶測ではなく現実を見て任務にあたれ。俺達はそういう組織......!? 全車停止!」


 突如、一国が全車に停止命令を出す。

 機動戦闘車の熱探知機能が前方に反応したのである。

 人間かどうかはまだ不明だが、

 一国曹長は作戦に従い、まずは拘束を促す音声を再生する。


「国籍不明の者達に告ぐ。諸君らが今いる場所は自衛隊の作成区域内であり、作戦内容に従い諸君らを拘束する。両手を後頭部に回し、うつ伏せになりなさい」


 勿論、日本語が通じる相手とは限らない為、英語やロシア語など、主要言語は一通り流す。


 しかし...


「駄目です! 全目標こちらに向かってきます!」


 言葉が分からないのか、聞く耳を持っていないのか、そもそも人間なのかも分からない。

 だが、その反応は確実にこちらに向かって前進してくる。


 そしてそれが目視で捉えられる距離まで近付いたところで、その姿...いや体色に驚く。


「ゴ...ブリン......」


 誰かがそう呟いたが、その言葉に反応する暇はない。

 そいつらが、こちらに向かって走り出したタイミングで、一国曹長は威嚇射撃を行う。

 しかし、止まる気配は一切ない。

 よって、作戦内容に従い、攻撃の旨を先程と同じように、様々な言語で伝え、全隊員へ指示を出す。


「全隊員へ通告! M2による足への攻撃を許可する! 繰り返す、M2で奴らの足を狙え!」


 一国の指示により、機動戦闘車から放たれた弾丸は、奴らの足に命中し、転ばせる事に成功した。


(おかしい...確かに効いてはいるが、12.7mmだぞ。あんな大人の男より細い足、吹き飛ばしてもいいぐらいだが)


 しかし、横に広がって押し寄せてくる為、全ての進軍を抑える事が出来ず、機銃の死角まで距離を詰められてしまう。


 奴らは機動戦闘車にしがみつくと、短い剣のような武器で装甲を攻撃し始めた。


「クソ! 離れやがれこの野郎!」


「おい! そんなに走るな! ぶつかるぞ!」


 攻撃が届かないことでパニックを起こした隊員が、振り払おうと機動戦闘車を暴走させ、他の機動戦闘車に追突してしまう。


「落ち着け! 奴らをよく見ろ! 重火器のような武器は持っていない! あんな剣では機動戦闘車の装甲は貫けん!」


 追突したこと、そして一国曹長の指摘により徐々に落ち着きを取り戻す隊員。


 だが、


「しがみついてきた者は後回しだ! 徐々に後退しつつ、M2が届く範囲で対処し...」




「装甲が壊されてる! う、うわあああああ来るなぁーーー!」

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