ROYAL MIX JUICE
くりすてる
第1話 天下布武ーTENKAFUBU
本能寺の変。今まさに、織田信長が燃え盛る本能寺と共にこの世を去ろうとしていた。ーーそしてそこにはもう一人。
「…何者だ?」
炎でよく見えない対面している人物に問うと、その者はゆっくりと口を開け、笑った。
「俺が何者かって?」
男は燃え盛る炎を物ともせず、まるで何年もそこに佇んでいたかのように、あぐらをかき自然に振る舞う。
信長には、いつからその男がそこに居たのかは分からない。ただ、これから自害をしようとしている自分の前にあぐらをかき佇むその男に、生涯最後の好奇心を持った。
その者は、織田信長を目の前にニタニタ笑いで見つめている。
お互い沈黙のまま、数十秒が経過し、信長は辛抱強く問いに対する答えを待った。すると、ーーka!ka!!ka!!!ーーと、その者は高笑いした。
「あんた、さすがだね~!これから死のうとしてるやつが他人に興味を持つのかい」
「そんなに堂々と居られては死ぬに死ねん。…答えてもらおうか。」
「俺はヴァンパイアさ」
すでに炎は本能寺全体を包み今にも屋根が崩れようとしている。
「ヴァ…、異人の者か?」
「まぁ、そんなようなものだ」
「ヴぁん…、ぱイあ。そんな名前の人種がいるとは、まだまだワシも知らない事だらけのようだ」
「あんたとはもしかしたら、もうちょっとだけ早く出逢ってたら仲良くできたかもな」
ヴァンパイアは息をふぅー、と吐き目の前の炎を消し去った。
そんなこともできるのか!と信長の驚く顔に、ヴァンパイアはうっすらと笑う。だが、すぐに笑顔を引っ込め、今度はしっかりと信長を見つめた。少しだけ空気が張り詰める。
目の前の炎が消えたことでヴァンパイアの姿が露になる。白髪に長髪でカラフルな着物を着ており、女性のように細く、肌は透き通るように蒼白い。一見すると、吸い込まれるような美しさだが、伸びたキバと爪が、異様な存在感を放っている。
信長も肌がピりつくのを感じたが、ただ目の前の一点を見つめている。
「…ヴァンパイアという生き物は、少数でよ。常に絶滅危惧種な存在だ。気を抜いたらすぐに滅んでしまう。…だから強力な血が欲しい。」
「…強力な血、か。たしかに、強力な血筋があればワシもここで死ぬことはなかったのかもな。」
「まぁー、俺が言ってるのはもっと直接的な意味だがな。…たしかに、血筋が強くあれば安心だ。」
「……」
「……」
すぐそこの柱も派手な音を立て崩れ、二人とも時間が無いことを悟った。
「信長!お前の意思は俺が引き継ぐ!」
「なんだか分からんが、良いかもしれんな」ーー最後にまた他人を信用するのも
京都の夜。こうして、本能寺と共にひとつの伝説が幕を下ろし、歴史の裏には語り継がれないもうひとつの物語があった。
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