集団の恐ろしさと連携の崩し方

「フッ!」


俺は先手必勝ということで、後衛のゴブリンスナイパーとゴブリンアークメイジに鉄球2つを両手で思い切り投げつける。


これが決まれば後衛に気を裂く必要がないからだいぶ楽になる。


だけどそう簡単にはいかないようだ。


投擲された鉄球はゴブリンスナイパーとゴブリンアークメイジに一直線に飛んでいった。


だが、その鉄球はゴブリンスナイパーとゴブリンアークメイジに当たることはなく、ゴブリンアーマーナイトに片手剣と盾で弾かれた。


そして、弾かれた鉄球は俺の方へと戻ってくる。


「そう簡単にはいかないか……」


俺は弾かれた鉄球をキャッチしてから、今度はゴブリングラップラーに鉄球を投げつけた。


こっちは武器らしい武器も装備していないし、ゴブリンアーマーナイトとゴブリンファイターは少し距離がある。


ゴブリングラップラーのステータス的にも俺が投げた鉄球のスピードなら避けるのは難しいはずだ。


俺はそう考えていた。


でも、ゴブリングラップラーの方が一枚上手だったようだ。


「……ゴーブァッ!」


ゴブリングラップラーは俺が投げた鉄球を他のゴブリンに当たらないようにうまく逸らした。


そして、逸らされた鉄球は壁にめり込んでしまう。


「はぁ!?」


「ゴブァー!」


「ゴブァッ!」


「ゴブゥッ!」


ゴブリンアーマーナイト、ゴブリングラップラー、ゴブリンハンターの3体は、俺が呆気に取られている隙に俺に向かって走り出してきた。


その後方ではゴブリンスナイパーは弓を構え、ゴブリンアークメイジは既に詠唱を開始している。


「やばっ!」


最初に俺に到達したのはゴブリングラップラーだった。


ゴブリングラップラーは、俺の顔面目掛けて右ストレートを放つ。


それを咄嵯にしゃがみ込むようにして避けたが、そのまま左足を軸にして回し蹴りを放ってきた。


それもなんとかムーンサルトの要領で体を反らしながら後ろに飛ぶことで回避する。


おいおい、勘弁してくれよ。


こっちは防御のステータスが低いんだ。


お前の攻撃なんて食らったら一発でダウンだぞ?


それにこのゴブリングラップラー……めちゃくちゃ速い!


俺がゴブリングラップラーの動きに驚いている間にゴブリンハンターが俺の背後を取り、逆手に持ち替えていたナイフを突き刺そうとしてくる。


それを見た俺はすぐに振り向きながら両手鎌で受け止めて、力任せに押し返す。


すると、押し返されそうになったゴブリンハンターは後ろに飛び退き、再び俺の背後に回り込もうとしている。


まずい……!


嫌な予感がしたと思ったら背後からゴブリンアーマーナイトが片手剣を上段から斬り下ろしてきた。


俺はそれを間一髪で横に転がるように避ける。


「ゴブァー!!」


そこにゴブリンアークメイジが炎の玉を放ってきた。


しかも結構な数だ。


「【ウインドカッター】!」


俺は魔法を発動させ風の刃を放ち、炎の玉を全て相殺させる。


知力のステータスにはかなり差があるらしく、ゴブリンアークメイジの放った炎の玉は全て撃ち落とせた。


危なかった……


そして、相殺したことで爆発が起こり、煙が発生する。


その瞬間、俺はバックステップで距離を取るが、ゴブリンスナイパーの矢が頬を掠めた。


危ないな……


煙が晴れると、そこには無傷のゴブリン達が立っていた。


どうやらダメージを負っていないのはゴブリンアーマーナイトだけのようで、他の奴らはさっきの爆発で多少なりともダメージを受けたみたいだ。


「ここまでか……」


連携は1階層の奴等より遥かに上だし、ステータスも圧倒的に高い。


だけど正直ここまでとは思ってもいなかった。


今まで戦った中で間違いなく一番強く、面倒な相手だろう。


ゴブリン達との攻防の後、俺はゴブリン達の後方にいるゴブリンスナイパーとゴブリンアークメイジを見据える。


2人は何をするかわからない俺を警戒してか攻撃の手を止め、様子見をしているようだ。


このままだとまたさっきと同じ状況になっしまう。


そうなれば負けることはないが、時間がかかってしまいそうだ。


そう思った俺は一気に片を付けることにした。


身体に魔力を回す。


「フッ!」


息を吐き、全力で駆け出す。


ゴブリンスナイパーとゴブリンアークメイジはいきなりの行動に対応できずに固まっている。


俺はそんなゴブリンアークメイジに狙いを定めて、両手鎌を振り下ろす。


「ゴブッ!?」


ゴブリンアークメイジは反応出来ていない。


とった!


そう思ったのも束の間、ゴブリングラップラーが俺とゴブリンアークメイジの間に割って入ってくる。


そして、俺の振り下ろした両手鎌をゴブリングラップラーは両手鎌の刃の横を殴ることで軌道を逸らす。


逸らされた両手鎌はその刃先を地面に突き刺し、止まる。


「うっそー……」


そして、ゴブリングラップラーはそのまま俺に殴り掛かってきた。


俺はすぐさま両手鎌を地面から抜いて、後ろに飛び退く。


本当に【柔術】のスキルは厄介だな!


「これでもダメなのかよ……それじゃあ【アシストパワー】!【アシストスピード】」


魔法や【投擲】なんかの遠距離攻撃で攻めたいところだけど魔法は避けられる。


【投擲】の鉄球は弾かれたり逸らされちゃうせいで当たらなそうだし、近接戦闘しか勝機は見いだせない。


ならやるしかないよね!


俺は【アシストパワー】で攻撃力を上げて、【アシストスピード】で素早さを上昇させてからゴブリングラップラーに向かって走る。


その【付与魔法】とは別に魔力で身体能力を強化しているから、強化率はかなりのものになってるはずだ。


それを見たゴブリングラップラー、ゴブリンハンター、ゴブリンアーマーナイトの順番に俺に向かってくる。


俺は勢いそのままに跳び上がり、先頭のゴブリングラップラーの顔面目掛けて飛び蹴りを放つ。


しかし、それを予測していたのかゴブリングラップラーは両腕でガードする。


ゴブリンハンターの方は俺を警戒してあまり前に出てこないし、ゴブリングラップラーは俺に攻撃を当てようとしてくる。


ゴブリンアーチャーの矢は嫌な俺を狙ってくるから厄介だし、ゴブリンアークメイジは魔法を使ってくる。


「ゴブゥ!」


すると、ゴブリングラップラーはゴブリンハンターに何かを言った後、突っ込んで来た。


「それは甘いんじゃない?」


俺は突進してきたゴブリングラップラーをひらりと避ける。


「ゴブッ!?」


ゴブリングラップラーはいきなり避けれたことに驚いているようだ。


だけど、俺はそこで止まらずに追撃する。


「シィ!」


すれ違いざまに横一閃。


だが、ゴブリングラップラーはガードの構えをとった。


俺の攻撃をガードの上からもろにくらったゴブリングラップラーは右腕を切り飛ばされる。


そして、切り飛ばした腕が地面に落ちるよりも早く、俺は振り返ってゴブリングラップラーに蹴りを入れる。


「ゴブァッ!」


蹴った衝撃でゴブリングラップラーは後方に吹っ飛ぶ。


そして、俺はゴブリングラップラーにトドメを刺すべく駆け出す。


「ゴブァッ!」


ゴブリングラップラーは吹き飛びながらも残った左腕で俺に向かって殴り掛かってきた。


だけど、そんな遅いパンチなんて当たるわけがない。


俺はその拳を避けながらゴブリングラップラーの首に向かって思いっきり両手鎌を振り下ろす。


「ゴブァッ!!!」


ゴブリングラップラーは首が半分以上切断され、声にならない悲鳴を上げながら絶命して塵になって消えていった。


俺はゴブリングラップラーがいた場所に立ち尽くす。


ゴブリングラップラーの最後の一撃、あれは完全に死を悟った者の最後の攻撃だった。


もしかしたら仲間の死を見て焦っていたのかもしれない。


もし、その焦りがなかったら俺の斬撃を逸らすなり出来ただろう。


それに、ゴブリングラップラーは俺の武器のリーチを理解していた。


だから死を覚悟してたんじゃないかな?


ゴブリングラップラーが最後に放ったのはただの悪足掻きなんかじゃない。


自分の命と引き換えに俺に少しでもダメージを与えたかったんだと思う。


ゴブリングラップラーが倒れたら残るのはゴブリンハンターにゴブリンアークメイジ、ゴブリンスナイパー。


純粋な前衛がいないから、ゴブリンハンターとゴブリンアークメイジが俺を遠距離から攻撃を仕掛けてくる。


だけど、俺はそれを全て【投擲】や魔法で相殺したり、弾いたりして防ぐ。


そうしているといつの間にか消えていたゴブリンハンターがゴブリンスナイパーもゴブリンアークメイジの元に現れた。


これで残りの敵は3体。


あとはゴブリンハンターとゴブリンアークメイジだけだ。


「ゴブァッ!!」


ゴブリンハンターが雄叫びを上げると同時に俺は残っている3体に向かって走り出した。


まずはゴブリンハンターからだ。


そう思って駆け出したのだが……


「うおっ!?」


後1メートルというところでなにかに足が引っ掛かる。


俺が足元を見るとそこにはピンッと張られた糸があった。


これは罠!?


罠なんて無かったはず!?


そして、ゴブリンハンターのスキルを思い出す。


なるほど、さっき姿を消してたのはこれを仕掛けるためだったのか……


ゴブリンハンターは【罠設置】のスキルを持っているからそれによるものだろう。


そして、さっきのゴブリングラップラーの突撃は俺にダメージを与えるものじゃなくてこの罠を仕掛けるための時間を稼いでいたんだ。


「ゴブッ!!」


ゴブリンハンターが俺に向かって短剣を構えて突撃してくる。


……マズイ。


今は両足共に宙に浮いてしまっているから踏ん張ることが出来ない。


だから防御は無理、じゃあ……


身体を空中で捻って回転して風車のようにゴブリンハンターに向かって鎌を振る。


「ゴブゥッ!?」


ゴブリンハンターはそれをギリギリで短剣でガードしたけど、風車のように回ったことで俺の攻撃に遠心力が加えられて威力が増している。


そのままガードした短剣ごとゴブリンハンターを切り裂き、塵へと変えた。


後はゴブリンアークメイジとゴブリンスナイパー。


だけど、前衛の居なくなった後衛なんて俺の相手にはならない。


ゴブリンアークメイジとゴブリンスナイパーは俺が投げた螺旋回転する鉄球を避けることが出来ずに塵となって消える。


「ふぅ~……終わったか……」


こうして、なんとか苦しい戦いを終え、ゴブリン達の殲滅に成功したのであった。


……いや、マジできつかったわ……

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