やばい奴と決着、そしてダンジョン

「ギィイイ!!」


考えてる内にもホブゴブリンは攻撃を仕掛けてくる。

その攻撃のタイミングで、俺は今度は余裕を持って避けて【アイテムボックス】から鎌を取り出す。

そして斧を振り下ろしきっていてすぐには戻せないだろうホブゴブリンに向けて鎌を振り下ろす。


「――ッ!?」


だが、俺が振り下ろした鎌は空を切った。

ホブゴブリンの姿を見失ったのだ。


(どこだ!?)


俺は咄嵯に後ろに振り返ると、そこには斧を持ち替えているホブゴブリンがいた。

どうやらあの一瞬の間に体勢を整えていたらしい。

そしてホブゴブリンはその隙だらけの俺に向かって斧を振るう。

その攻撃に対して俺は――


「……は?」


思わずそんな声が出た。

それもそのはず、何故ならさっきまで目の前にいたはずのホブゴブリンが消えてしまったからだ。

いや正確に言うと消えたわけではない。

ただ単に俺の視界から外れるように動いただけだ。

それに気づけなかっただけなのだ。


「――っ!」


その事実に気づいている間にもホブゴブリンの攻撃が迫ってきていたので、俺はそのまま横に転がって避ける。

そしてすぐさま立ち上がって反撃しようとするが、それよりも先にホブゴブリンが行動を起こした。


「なっ!?」


ホブゴブリンは突進してきて斧を横薙ぎに振り抜いてくる。

それに対して俺はなんとか反応してしゃがみ込むように回避する。

しかし、そこから更に追撃を仕掛けてきた。

斧を持っている内の片手で拳を作り、それを下から上へと殴り上げてくる。

それを見て俺は咄嵯に後ろに飛び退いて距離を取ろうとするが、そこでホブゴブリンの動きが変わる。

今まで振り上げた手を途中で止めずに振り抜いた勢いを利用してその場で一回転したのだ。

それにより遠心力が加わり威力が上がった一撃を繰り出してくる。

しかもそれは飛び退いたことで距離が取れていない俺に向かってきた。


「くそっ!【ウインド】!」


なので俺は風魔法を使って強引に自分の体を押し出すようにしてその場を離れる。

そのお陰もあってか何とか直撃は免れることができたのだが、それでも完全に避けきることまではできなかったようで、左腕に鋭い痛みを感じる。

俺は歯を食い縛りながら痛む箇所を見ると、腕からは少量の血が流れ出していた。

どうやら避けきれなかったらしい。

正直ここまで動けている自分にも驚くがそれ以上にホブゴブリンと俺の経験が違いすぎる。

恐らくこの差は実戦経験の差なんだろう。

俺がステータスの差でなんとか見切れて対応できているがホブゴブリンはそれを上回る速度で俺に対応してくる。

だからこそこんな簡単に追い詰められてしまっているわけだし……


「でもまぁ、このままじゃジリ貧なのは変わらないよな……」


そう呟いた瞬間、再びホブゴブリンが動き出した。

今度は真っ直ぐ突っ込んできて斧を振り下ろす。

それに対して俺は先程と同じように横に飛んで避ける……はずだった。


「ガァアアッ!!」


だが、今回は違った。

ホブゴブリンはそのまま振り下ろした斧を地面に叩きつけた。

すると次の瞬間、地面が爆ぜた。


「なっ!?」


俺はその光景に目を見開く。

何故ならその衝撃によって巻き上げられた土煙のせいで辺り一帯が見えなくなってしまったからだ。

恐らくステータスのごり押しで技術でも、魔法でも、なんでもなく単純な力でこのげんしょうを起こしたのだろう。


(これはまずいな……)


この状況では下手に近づくことができない。

それにホブゴブリンの姿も見えない。

だが、ホブゴブリンが駆け回っている足音は聞こえてくる。

もし動こうものならこちらの位置を知らせるようなものだからだ。

そうなれば確実に今度こそ殺られるだろう。

つまり、俺に残された手立てはこの場に留まり続けるしかないということだ。


「……」


俺はただ黙ってその場に佇むことしかできない。

だが、時間が経てば土煙も晴れてしまう。

勝負をかけるとしたらその瞬間しかない。

集中しろ………ホブゴブリンの場所を見極めろ、聞き分けろ、そして土煙が晴れる瞬間を待て………俺は自分に言い聞かせるように何度も頭の中で繰り返した。

そして、ついにその時が訪れる。


「――ッ!」


俺はホブゴブリンの気配を感じ取ると同時にその場から離れる。

その瞬間、さっきまで俺がいた場所にホブゴブリンの斧が地面にめり込んでいた。


「ギィッ!?」


斧が地面から抜けたことによりバランスを崩したのかホブゴブリンの体勢が崩れるのがわかった。

俺は首を狙って一気に距離を詰めると、鎌を振り下ろす。

そして――


「――ッ!?」


確かな感触があった。

狙いはそれてしまったがホブゴブリンの肩口から斬りつけた。

それによってホブゴブリンは前のめりになって倒れそうになる。

だが、ホブゴブリンはそれでも倒れない。

それどころかまだ戦意を失っていない様子だった。


「ガァアアアアアアッ!!!!」


ホブゴブリンは雄叫びを上げながら斧を振るってくる。

それを俺は後ろへ飛び退いて回避する。

しかし、ホブゴブリンの攻撃は止まらない。

そのまま続けて俺に向かって斧を叩きつけてくる。

俺はそれを全て紙一重で回避し続ける。

しかし、それも長くは続かない。

ホブゴブリンは肩から血を流しながらも執拗に攻撃を仕掛けてくる。

そのせいで徐々に回避するのが厳しくなってきたのだ。

俺は覚悟を決めてホブゴブリンに向かって鎌を構えて駆け出す。

ホブゴブリンはそんな俺に対して振り上げた斧をそのまま振り下ろそうとしてくる。


「【ウインド】!」


その瞬間、俺は風魔法を使って背中に【ウインド】をあえて背中に当てることで速度を上げてホブゴブリンとの距離を縮める。


「ギギィッ!?」


それに対してホブゴブリンは一瞬驚いた表情を浮かべる。



「これで終わりだ!」


俺はホブゴブリンの懐に入り込むと鎌を振り上げる。

そして、振り上げた勢いのままにホブゴブリンの首元に再び鎌を振りきった。


「ギャゥウウッ!」


ホブゴブリンの断末魔のような悲鳴が辺りに響き渡る。

やがて力尽きたように膝をつき、ゆっくりと後ろに倒れていく。


それと同時にホブゴブリンの身体が光に包まれていき、その光が消えた頃にはホブゴブリンが持っていた斧と魔石が残されていた。

そして俺の手にあった鎌が折れてしまった。


《【鎌術】のスキルレベルが上がりました》

《【風魔法】のスキルレベルが上がりました》

『種族レベルが上がりました。レイスLv.15になりました』

『スキルポイントを3獲得しました』

『種族レベルが上がりました。レイスLv.16になりました』

『スキルポイントを3獲得しました』

『種族レベルが上がりました。レイスLv.17になりました』

『スキルポイントを3獲得しました』

『種族レベルが上がりました。レイスLv.18になりました』

『スキルポイントを3獲得しました』

『種族レベルが上がりました。レイスLv.19になりました』

『スキルポイントを3獲得しました』

『種族レベルが上がりました。人間Lv.27になりました』

『スキルポイントを2獲得しました』

『種族レベルが上がりました。人間Lv.28になりました』

『スキルポイントを2獲得しました』

『職業レベルが上がりました。魔法使いLv.7になりました』

『スキルポイントを1獲得しました』

『職業レベルが上がりました。魔法使いLv.8になりました』

『スキルポイントを1獲得しました』

『職業レベルが上がりました。魔法使いLv.9になりました』

『スキルポイントを1獲得しました』

『職業レベルが上がりました。魔法使いLv.10になりました』

『スキルポイントを2獲得しました』

『職業レベルが上がりました。魔法使いLv.11になりました』

『スキルポイントを2獲得しました』

『職業レベルが上がりました。魔法使いLv.12になりました』

『スキルポイントを2獲得しました』

『職業レベルが上がりました。魔法使いLv.13になりました』

『スキルポイントを2獲得しました』


俺はホブゴブリンが落とした斧と魔石、二つのアイテムを【アイテムボックス】に回収して折れてしまった鎌も一緒に回収する。

そしてリーダーを倒されたことで怯えてこちらを見ているゴブリン達を睨みつける。

すると、ゴブリン達は一斉に同じ方向へと逃げていった。


「……ふうっ」


俺は深く息を吐き出す。

なんとかホブゴブリンを倒すことができたな。

それにしても今回はかなり危なかった。

今までで一番苦戦した。

腕からも血が流れていたはずだが、【吸収】スキルで体力を回復したからなのかもう傷が塞がっていた。

これならしばらく休めばまた動けるようになるだろう。


「あっ、【吸魂】」


俺は【吸魂】を使って魂を吸収した。


《【吸魂】のスキルレベルが上がりました》

『ホブゴブリンの魂の吸収を確認。経験値を1542、【棍棒術】のスキル経験値を獲得』

『【棍棒術】のスキルレベルが上がりました』

『種族レベルが上がりました。レイスLv.20になりました』

『スキルポイントを4獲得しました』

『種族レベルが上がりました。レイスLv.21になりました』

『スキルポイントを4獲得しました』

『種族レベルが上がりました。レイスLv.22になりました』

『スキルポイントを4獲得しました』

『種族レベルが上がりました。レイスLv.23になりました』

『スキルポイントを4獲得しました』

『種族レベルが上がりました。レイスLv.24になりました』

『スキルポイントを4獲得しました』

『種族レベルが上がりました。レイスLv.25になりました』

『スキルポイントを4獲得しました』

『種族レベルが上がりました。人間Lv.29になりました』

『スキルポイントを2獲得しました』

『職業レベルが上がりました。魔法使いLv.15になりました』

『スキルポイントを2獲得しました』

『【魔法威力上昇Lv.1】を獲得しました』

『職業レベルが上がりました。魔法使いLv.16になりました』

『スキルポイントを2獲得しました』

………ちょっと予想はしてたけどアナウンスが鳴り止まないな。

………まあ、今はさっき手に入れた新しいスキルの確認をしとこう。

まずはこの【魔法威力上昇Lv.1】というスキルからだな。

【鑑定】っと。


【魔法威力上昇Lv.1】

・魔法攻撃の威力が1.1倍になる。

・強化倍率はスキルレベルに依存する。


なるほど。

【知力強化】みたいにステータスが上がるスキルじゃなくて【斬撃強化】みたいに特定の攻撃が強化されるスキルなのか。

これは確かに便利だな。

っとアナウンスが鳴り止んでる。

レベルアップが終わったか。


「ステータス」


------


名前:神山 空

性別:男

年齢:16歳

種族:人間Lv.29/レイスLv.25

職業:魔法使いLv.20


体力:635/635 魔力:990/990

攻撃:549

防御:195

俊敏:205

器用:329

知力:784

幸運:112


所持SP72

魔法スキル:【風魔法Lv.2】【火魔法Lv.1】

取得スキル:【暗記Lv.4】【速読Lv.2】【柔術Lv.1】【鑑定Lv.3】【看破の魔眼Lv.2】【飛翔Lv.4】【怪力Lv.3】【跳躍Lv.1】【斬撃強化Lv.1】【頑強Lv.2】【吸収Lv.1】【棍棒術Lv.3】【アイテムボックスLv.1】【鎌術Lv.2】

種族スキル:【魔力操作Lv.2】【魔力増加Lv.1】【物理攻撃耐性Lv.1】

職業スキル:【知力強化Lv.2】【魔力消費減少Lv.1】【魔法威力上昇Lv.1】

固有スキル:【吸魂Lv.2】



称号:境界の管理者とコンタクトをとりし者


------


うーん、これめちゃくちゃ強くなってるんじゃないか?

今までで一番強くなってるぞ。

それにしてもやっぱり今回の戦いで一気にレベルが上がったな。

それにしても居たな………居ちゃったな、ゴブリンの進化種。

でもさっきの感じだと戦闘経験は負けていたがステータスで勝ってたから勝てたし、今回のレベルアップでステータスがまた爆上がりしたし【鎌術】のスキルレベルも上がったから次見つけたら問題なく倒せる………はず!

だけど進化種がいたってことはやっぱり早くゴブリンを倒さないとマズイ。

ゴブリン達の帰る巣が必ずどこかにあるはずだからそこを見つけた方が良いんだろうな。

そういえばあのゴブリン達はどこにいったんだろ?

………あれ?待てよ?

さっき逃げたゴブリン達同じ方向に逃げてったよな?

普通、生き物って自分達より強い存在が負けたりしたら敵討ちか自分も殺されないために逃げるよな。

ゴブリン達は逃げたから獲物を狩りに行くわけないし………

………巣、見つけられるかもしれねえなこれ。








俺は今逃げたゴブリン達の足跡を追っていた。

途中見えなくなってしまっていた場所もあったが【看破の魔眼】と【鑑定】さんに出勤してもらった。

その結果、足跡を見失うことなくしっかり追跡することができた。

だが、途中で足跡は途切れてしまっていた。

だけど、どうもおかしい。

足跡の途切れ方がおかしく足跡が足踏まずから前が消えていて足踏まずから後ろが途切れているのだ。

これは明らかに不自然すぎる。


「まさかとは思うが……」


俺は【看破の魔眼】に流す魔力を増やす。


「まじか……やっぱそうだ」


さっきまで見えていなかった足跡が完全に見えるようになり、さらに洞窟も一緒に見えるようになった。

しかもこの洞窟、入り口だけ見てもかなりデカい。

俺が見たところおそらくここにゴブリン達がいる確率はかなり高いだろう。

だけどなんで見えなくなってたんだ?

そう思って俺はさらに流す魔力を増やす。

すると、洞窟辺りを覆うようにできている透明なドームが見えるようになった。

なるほど、そういうことか。

恐らく、このドームは結界のようなもので見えなくする効果があるのだろう。


「【鑑定】」


【鑑定】を使いその結界と洞窟について調べる。


「ビンゴ」


鑑定結果はやっぱりこの結界は隠蔽の効果があるらしい。

しかし、問題は洞窟の方だった。

この洞窟の正体は『ゴブリンキングの巣』と言うダンジョンらしい。

結界の方もこのダンジョンからの魔力で維持されているらしい。

まあ、それは良いとしてゴブリンキングか……

ゴブリンが進化した姿なんだろうけど、何回進化したのかわからない。

そして俺は見えるようになった足跡にも【鑑定】をする。


「……マジ?」


足跡の鑑定結果にはゴブリンメイジ、ゴブリンナイトという文字があった。

つまり、ゴブリンの進化種は最低でもホブ、メイジ、ナイトの3種類いることになる。

しかもゴブリンメイジは名前からして確実に魔法使いタイプだろう。

そしてナイトは近接タイプ。

………う~ん考えたくない。

前衛のナイト、後衛のメイジ、というもっとも定番のパーティーが作られていたら最悪だ。

正直言って簡単に勝てる気がしない。

まだ戦闘経験が少ない俺がナイトに止められてる内にメイジに攻撃されるというのは想像できる。

ステータスが高くなっているからなんとかなるかもしれないけどな。

それにホブゴブリンも当然いるだろう。


「ゴブリンのくせにふざけんなよ……」


思わず声が出てしまうがこればっかりは勘弁してほしい。

だが、さすがに鎌が壊れてしまっている今ここに入るわけにはいかない。

明日、もう一度来るしかないよな。

………鎌も壊れちゃったし帰りにホームセンターで買っておこう。

そんなことを考えながら俺は家に帰ることにした。

尚、予備も含めて鎌を2本と倉庫に戻すように1本の合計3本買ったのだが俺の財布はかなり寒くなってしまったのだった。

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