天使のお仕事
ひさ
派遣天使
天使の歴史は長くて、文明と呼ばれるものが出現してから絶える事なく存在しているのだけれど、昨今は人手不足と不景気で、天使業界にも派遣天使というものがある。
らしい……。
街中にぽっかりと広がった少し広めの緑豊かな公園。
ジョギングコースがあったり、小さな池に鯉がいたり、所々にベンチがあったり。
そしてひとたび公園の外に出れば、車の往来も多く、高層ビルの立ち並ぶ都会。
都会のオアシス。ありきたりに表現すればここはそんな公園で、私のお気に入りの場所でもあった。
今日もいつものように休日の散歩を楽しんでいたところだったというのに、突然の落下物の登場により、すっかり非日常に巻き込まれてしまった。
彼が言う事が全て真実ならの話だが。いや、全て嘘だったとしても、それはそれでかなり素っ頓狂な人物に絡まれてしまったわけだから、同じく非日常に襲われた事に変わりない。
突然の落下物というのが他でもない彼で、何もない、空まで遮るもののない場所を歩いていた私の目の前に、唐突に落下してきたのだ。
天使が降り立つシーンにはおよそ似つかわしくない勢いと衝撃を伴っていた。
その瞬間、即死を確信した。
けれど彼は、5秒後には立ち上がっていたのだ。
信じられない。
そして振り返った彼に、信じられないものを見るような目で凝視され、理不尽さを感じずにはいられなかった。
「ところで」
自称派遣天使は唐突に切り出してきた。
「暇ですか?」
予定のない休日を暇と言っていいものか少し考えてから、私は曖昧に頷いてみせた。
「ちょっと頼みがあるんですけど……」
臆する様子もなく、天使は一歩近づいてきた。
咄嗟に一歩下がる。
「あ。すいません。天使、初めてですもんね」
そこで足を止めると、姿勢を正した。
「いくつか質問に答えていただいてもよろしいでしょうか?」
いよいよ胡散臭い発言が飛び出してきた。
最終的に高額な壺とか出してきたり、妙な信仰を押し付けてきたりしないだろうな。
「あ。そういうのは大丈夫です。この世界での通貨は我々にとって直接の利益にはならないので……。信仰についても似たようなものです。我々にとって、そういう文化的なものって、特別重要な要素じゃないんですよね」
思考を読まれた!
「天使ですから」
こわっ! それは怖い。
余計な事を考えまいと咄嗟に思考をセーブしようと挑戦するけれど、当然そんなのは無理だった。
悟りを開いた僧侶か何かでないと無理。ごくごく平凡な、精神面の鍛錬なんて微塵もしてきた事のないような人間が、思いついてできるようなものでもない。
目の前の彼は、私の内心を聞きながら静かに微笑んでいる。
この時やっと。あぁ、彼は天使なのだなと理解した。
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