態度の悪いざるうどん

*

「おい店員！！俺はうどんじゃなくて蕎麦を注文したぞ！！」

「も、申し訳ありません！只今蕎麦をお持ちしますので少々お待ちください！！」

仕事の昼休憩中だろうか。

薄汚れた作業着を着たおっさんが、目の前に出された俺を見て怒号を飛ばした。

またか。

何回目だろうか、少し焦った表情を浮かべた店員に今日も俺は厨房へと戻されていく。

＿＿がしゃんっ

何時もの定位置。

厨房の邪魔にならない片隅へ雑に置かれた。

ここから見える、湯気が立ち昇る釜から茹で上げられる蕎麦の存在が俺にとっては疎ましかった。

蕎麦屋という看板を掲げているのだから仕方のないこととはいえ、正直少し寂しい。

どうして俺は自分が望んでもいないのに怒鳴られなくてはいけないのか、邪険そうな表情をされなくてはいけないのか。

暫くここに放置された後、俺が行きつくのはゴミ箱の中だ。

ふざけんじゃねぇよ。

何でそんな扱い受けなきゃいけねぇんだよ。

大体何回オーダーミスすんだよ、あの新人。

もうこのバイトに入ってから半年以上経ってるだろうが。チッ。

両手で数えられる限界の回数超えてんじゃねぇかよ。

時には１日で3食も俺の廃棄が出た。

ゴミ箱の中が俺臭でいっぱいよ、蕎麦屋なのに。

あぁ、蕎麦は廃棄出ませんよー、ってか。ふざけんじゃねぇ。チッ。

ってかマジでさ、蕎麦屋だから仕方ないよ？分かってるよ？

でもさ、蕎麦のメニューのバリエーションに比べて俺のバリエーションは、かけうどんとざるうどんの2種類だけ。

おかしくね？おかしくね！？

天麩羅蕎麦も肉蕎麦もあんのに何で天麩羅うどんと肉うどんが出来ねぇんだよ、おかしいだろ！！

肉なんて蕎麦よりうどんの方がメジャーじゃねぇか、絶対！

この店の俺の扱いどうにかなんねぇのかマジで。

はー、辞めたい辞めたい辞めたい。

4軒左のうどん屋に異動したいわ。

あー駄目か、向こうは向こうで居るもんな、かけもざるも。

行き場ねぇわー。クソが。

「おい！お前またかよ！！」

「も、申し訳ありません！！」

「ったく、うちには蕎麦食いに来る客が圧倒的に多いんだから無駄にうどん茹でる手間掛けさせんじゃねぇよ！」

「すみません....」

何回聞いたかな、このやり取り。

それと毎回思うんだけど俺を茹でるのが手間ってなんだよマジで。

てめぇ店主だろ？？

手間ならメニューから外せや馬鹿野郎。

その方が俺も毎回捨てられる辛さなくなるし万々歳よ。

せめて賄いにでも回してくれたらマシなんだけど。

捨てんじゃねぇよマジでゴミ箱が俺で溢れっから。

あ、溢れるは言い過ぎたわ。

チッ。今日もそろそろゴミ箱の中か。

はー、やだやだ。

「お疲れ様です、お先に失礼します！」

「おぅ、里奈ちゃんお疲れー」

「店長、このうどん貰っていいですか？この後すぐ次のバイト入ってるので腹ごしらえに」

「あぁ、いいよー」

お？お？

今日の俺捨てられない感じ？？

「オーダーです。ざるうどん2つ、かけうどん1つお願いしまーす」

っしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！！！

良く分かんねぇけど何だこのうどんフィーバーは。

やっべぇ、にやける。

しょうがねぇなぁ、メニューから無くなるまではここに居てやるよ、へへっ。

「すみません！！今のオーダーキャンセルで、ざる蕎麦3つに変更で！！」