第86話 占い師の目的
「あー? 誰よあんたら」
ドーリスと二人で意気揚々とテントに乗り込んだ我々を迎えたのは、デスクに頬杖を突いた黒髪ロングの女性だった。
「ウチはいま占いやってないのよ。出直しなさい」
第一声からして既にとてつもなく面倒くさそうな声色だったので、歓迎されていないのは明らか。
占い師は中華系っぽさのある導師服に身を包んでいるが、ふやけたようなだらしない所作によってまるで威厳がない。
格好こそ占い師っぽくはあるものの、ミステリアスな雰囲気など望むべくもない女性だった。
「知ってるぜ。条件があるってんだろ」
「それを知っているんならなおの事よ。手ぶらで来たって占うつもりはないから」
仮面で姿を偽ったドーリスが歩み出るが、占い師が彼の正体に気づいた様子はない。
占い師はどういうわけか、最も繁盛しているタイミングで占いを止めた。
そして代わりに、ドーリスの身柄を用意するまで占いを再開しないという奇妙な主張を突拍子も無く始めたらしい。
部外者の俺はもちろんのこと、当事者であるドーリスが一番わけがわからないだろう。
だからこうして直接本人のもとへ乗り込んできたわけだが。
「理由を聞かなきゃ納得がいかねえよ」
「馬鹿ね。答えない為に多額の報酬金を積んでいるのよ」
「解せない話だ。なんでそこまでする? それにどれほどの価値がある?」
詰め寄るドーリスと、あくまでも気怠そうに対応する占い師。
向こうからしてみれば、いちゃもんつけてくる厄介客に絡まれているようなものだもんな。
俺はまあ、付き人というかおまけみたいなもんだからやりとりを背後から眺めているだけだが、見てるだけで面白いもんだ。
俺は特にすることもないし、腕でも組みながら壁に背を預けてそれっぽい雰囲気でも出しておこう。
占い師は目の前の人物が賞金首そのものだとは気づかず、至極ウザそうにしっしと手首を払ってドーリスを追い返そうとしている。
まるでドッキリ企画に仕掛け人として参加しているような気分だ。
「めんどくさいヤツねえ。っていうかそれ【成りすましの仮面】でしょ? そんなもん被ってる時点であなたの性格が透けて見えるようだわ」
「ほう。お前この仮面を知っているのか」
「どこで手に入れたかは知らないけどね、初対面でそんなの付けて会いに来るようなやつの第一印象は最悪よ」
「そりゃ違いない。俺もお前の第一印象は最悪だったぜ」
そのセリフを最後に、ドーリスは着けていた仮面をぱっと外した。
「……あなた」
「満員御礼の占いとやらも、万能ではないらしいな。イヒヒヒ」
仮面を外した露わになったのは風船頭だけではない。
『ドーリス』というプレイヤーネームもだ。
「面倒な食わせ者ね、あなた」
「お前に一杯食わせるために遥々来たんだぜ。お前のその顔が見れれば、イヒヒ、満足だ」
うなだれて大きくため息をつく占い師と、気を良くして気色悪い笑みを浮かべるドーリス。
彼のやりたいことはできたらしい。占い師もドーリスがこんないい性格をしたヤツだとは思っていなかったようだ。
「で、俺に賞金首まで掛けてどういうつもりだったんだよ」
「その前に自己紹介だけしようかしら。私はメライ。占い師よ、もう知ってんでしょうけど。で、後ろの鎧は誰?」
「あれはアリマ。まあまあ信頼できる連れだ」
「あ、そ。まあ私んとこに乗り込むのに連れてこれるくらいの信頼関係はあるわけね」
「そういうこった、イヒヒ」
壁にもたれかかってかっこつけたポーズしてたらあれ呼ばわりされた件。
まあ俺は本当にただの付き添いだもんな。メインはドーリスだ。俺がしゃしゃりでてもおかしかろう。
「にしても占い師メライねぇ。突然台頭してくるもんだから驚いたぜ。今までどこに隠れてたんだか」
「別に。占いをやんなかっただけよ」
「別にってことはねえだろう。なら何故占いを始めた? 俺を賞金首にかけたことに関係があるんだろ?」
「あんためんどくさいわねえ」
「面倒くさいで済まされねえさ。あんなふうにちょっかい出されたらよ、俺の情報屋稼業に関わるんだぜ」
まあな。これに関してはドーリスが完全に正論。
占い師のメライはいい加減でふわふわした雰囲気があるが、やってることは結構いかついんだよな。
一人のプレイヤーに対してNPCから賞金首にかけられるとかたまったもんじゃないぞ。しかもそれらしい悪事を働いたとかでもないのに。
「目的を答えてもらおう。あるんだろ、そこまでする理由が」
「そりゃ、まあねぇ……」
目的を聞き出そうとするドーリスだが、メライは妙に言い渋っている。
何か秘密にすべき事があるのか、
「今さらもったいぶられちゃ困るぜ。何のために俺が直接来たと思ってる」
「ま、そうよね。じゃいいわ。話してあげる。どの道、貴方をとっ捕まえたら無理やりやる予定だったし」
メライの方に思う所があったのか、しぶしぶ頷いている。
彼女の口ぶりだと、ドーリスの身柄を使って何かを行おうとしていたようだ。
だが、一体何を?
よくよく考えたら異色だしな。一介の情報屋を名指しして身柄を求めるなんて。
なんか儀式とか生贄とかにでもするぐらいしか想像つかないし、どれも具体性がない。
たぶんドーリスも俺と同じところで予想が止まっているはず。
だから彼女の口から答えが告げられるのを待っているのだろう。
「話せば納得してもらえると思うんだけど」
そう前置いたメライは、何でもない事のように言い放った。
「あなたと結婚するためよ」
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